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夏の魔物
19話 大寒波1
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文化祭の日、バリスタ係を抜けて、校内を探したけれど、ついに夏伊を見つけるとはできなかった。
翌日、校内の暴力沙汰で二名が停学になったことが伝えられた。
睦月の後ろの席は、ずっと空いたままだ。
「さみーねー」
ヒロが睦月の座る席に立ち寄って、肩を窄める。
「だねー」
関東には強い寒気が流れ込み、東京も厳しい冷え込みに襲われている。これからもっと気温が下がって、11月としては異例の大雪に見舞われる予報が発出されている。
そうでなくてもこのところは寒くて、屋上で昼をとるのはしばらくお預けにしたところだった。
食堂は暖かく、賑わっている。
「昨日も夏伊に連絡したけど、反応うっすいのー」
ヒロが嘆きつつ、きつねうどんと鮭のおにぎりのトレイを席に置いた。
「そっかあ」
睦月は山菜そばをちゅるちゅると啜る。
睦月も一度メッセージを送ったが、落ち着いたら連絡すると返ってきたままで音沙汰がない。
もう一名の停学者が清風なのが、非常に気がかりだった。
ヒロに返信が送れるのなら、体は支障ないんだろうけど。
あの後二人は、すぐに職員室と病院に連れて行かれた。
校内で見る分には二人とも無傷、両者とも口を閉ざすという状況だったものの、病院でレントゲンを撮った結果、立花清風の顔の骨にヒビが入っていたこと、また立花清風は富山での素行の問題もあり、不明点が多くあるものの両成敗といった形で処分が下されることとなった。
その報を受けて、仁志伯父さんにまさしく大目玉を食らった。
そして今回の件が、性的な鬱憤を晴らすためだと勘違いした伯父は、そんなにセックスしたいならもう勝手にしろと、セフレとの再会を実質許可した。
なので、セフレから連絡が来る度、外出している。
「さっ、さむ…」
これはもう、冬が来たと認めざるを得ない。ニットの帽子をかぶってマフラーを巻いてダウンを羽織ってなお寒い。
外はすでに、足元を覆う量の雪が積もっていて、鈍色の空からどんどん降雪してくる。
帰宅してから、母さんから今日は帰れないと連絡が来た。今晩は夕飯を作る気になれず、コンビニに行こうとマンションを出る。
清風が立っていた。
「…うわっ……」
「うわって何だよ」
まったく、と清々しく笑う。
「お前ぬいぐるみみたいになってんな。着込みすぎだろ」
「……」
清風はチェスターコート一枚という姿で、見ていて寒くなるくらいだ。
「富山に戻る事になった。喜べよ」
「…良かったよ」
吐く息が白い。
「だろうな」
オレは元々素行悪いし、今回は相手がお坊ちゃんだからな。そらそうなるわ。
両手をひらひらと振る。
「ひとつ。お前は悪魔の使役としては使えないって結論に達したこと、教えといてやるよ」
そもそも生身の人間と変わんないし。それでも女型のサキュバスか男型のインキュバスならいいけど、男型のサキュバスなんて使い所狭すぎるって。
悪魔にこき使われずに済んで助かったな、と笑う。
「……そ、そう」
「お坊ちゃんのでも搾り取ってろ。じゃーな」
「あ」
「ひとつ教えに来ただけだ、質問も受け付けない。じゃーな」
清風は、振り返ることなく立ち去った。
暴力事件の原因を知りたかった。あの事を夏伊に伝えたのではないかと睨んでいたし、恐々としていた。
でももう、夏伊に会った時に、雰囲気で感じ取るしか手はないらしい。
寒空の下しばらく立ち尽くしていたが、体をぶるりと震わせて、足を進めた。
「絶対別れないから! また連絡取ってくれるって約束するまで! 絶対離れない!」
セフレに会っては別れを告げている。概ねスムーズに話が進んだが、ここにきて難敵が出てきた。
「晶…。本当に、悪い」
「悪いって言うなら約束しろよ!!」
「何回も言うけど、それはできない」
ラブホでこんな話をしているのもどうしようもないが、修羅場になりそうな気がして外で話すのは避けた。結果、休憩料金で入ったのが二回目の延長に突入している。
最初は、皆にわざわざ会って言うこともないかと思った。けれど最後に筋を通したいと、方向転換した。
特に晶とは長い付き合いだし、存在は思いの外大きかった。いつも酷く扱った分、最後はちゃんとと思った、のだが。
「ぜーーーーったいに別れない」
晶がツーンとそっぽを向く。
「久しぶりに会えると思って! 楽しみにしてたのに!!」
「…悪い」
「…夏伊は、“悪い”なんて言う奴じゃなかった」
初めて会った時からずっと、自信満々で、偉そげで、怖いもの知らずで、プライド高くて、それが夏伊なのに。
「…そんなところが好きだったのに」
「…悪い」
「うっ、う、うわああああああああ」
枕を投げつけられる。
キャッチしそうになったが手を止めた。そのまま当たって、床に落ちる。
「…うっ、うっ、うう…」
ようやく、もういい、帰ってと言う。
自分は泊まって帰るから宿泊料金払っといて、バカ、と言うところが、とことん晶で、少し笑った。
翌日、校内の暴力沙汰で二名が停学になったことが伝えられた。
睦月の後ろの席は、ずっと空いたままだ。
「さみーねー」
ヒロが睦月の座る席に立ち寄って、肩を窄める。
「だねー」
関東には強い寒気が流れ込み、東京も厳しい冷え込みに襲われている。これからもっと気温が下がって、11月としては異例の大雪に見舞われる予報が発出されている。
そうでなくてもこのところは寒くて、屋上で昼をとるのはしばらくお預けにしたところだった。
食堂は暖かく、賑わっている。
「昨日も夏伊に連絡したけど、反応うっすいのー」
ヒロが嘆きつつ、きつねうどんと鮭のおにぎりのトレイを席に置いた。
「そっかあ」
睦月は山菜そばをちゅるちゅると啜る。
睦月も一度メッセージを送ったが、落ち着いたら連絡すると返ってきたままで音沙汰がない。
もう一名の停学者が清風なのが、非常に気がかりだった。
ヒロに返信が送れるのなら、体は支障ないんだろうけど。
あの後二人は、すぐに職員室と病院に連れて行かれた。
校内で見る分には二人とも無傷、両者とも口を閉ざすという状況だったものの、病院でレントゲンを撮った結果、立花清風の顔の骨にヒビが入っていたこと、また立花清風は富山での素行の問題もあり、不明点が多くあるものの両成敗といった形で処分が下されることとなった。
その報を受けて、仁志伯父さんにまさしく大目玉を食らった。
そして今回の件が、性的な鬱憤を晴らすためだと勘違いした伯父は、そんなにセックスしたいならもう勝手にしろと、セフレとの再会を実質許可した。
なので、セフレから連絡が来る度、外出している。
「さっ、さむ…」
これはもう、冬が来たと認めざるを得ない。ニットの帽子をかぶってマフラーを巻いてダウンを羽織ってなお寒い。
外はすでに、足元を覆う量の雪が積もっていて、鈍色の空からどんどん降雪してくる。
帰宅してから、母さんから今日は帰れないと連絡が来た。今晩は夕飯を作る気になれず、コンビニに行こうとマンションを出る。
清風が立っていた。
「…うわっ……」
「うわって何だよ」
まったく、と清々しく笑う。
「お前ぬいぐるみみたいになってんな。着込みすぎだろ」
「……」
清風はチェスターコート一枚という姿で、見ていて寒くなるくらいだ。
「富山に戻る事になった。喜べよ」
「…良かったよ」
吐く息が白い。
「だろうな」
オレは元々素行悪いし、今回は相手がお坊ちゃんだからな。そらそうなるわ。
両手をひらひらと振る。
「ひとつ。お前は悪魔の使役としては使えないって結論に達したこと、教えといてやるよ」
そもそも生身の人間と変わんないし。それでも女型のサキュバスか男型のインキュバスならいいけど、男型のサキュバスなんて使い所狭すぎるって。
悪魔にこき使われずに済んで助かったな、と笑う。
「……そ、そう」
「お坊ちゃんのでも搾り取ってろ。じゃーな」
「あ」
「ひとつ教えに来ただけだ、質問も受け付けない。じゃーな」
清風は、振り返ることなく立ち去った。
暴力事件の原因を知りたかった。あの事を夏伊に伝えたのではないかと睨んでいたし、恐々としていた。
でももう、夏伊に会った時に、雰囲気で感じ取るしか手はないらしい。
寒空の下しばらく立ち尽くしていたが、体をぶるりと震わせて、足を進めた。
「絶対別れないから! また連絡取ってくれるって約束するまで! 絶対離れない!」
セフレに会っては別れを告げている。概ねスムーズに話が進んだが、ここにきて難敵が出てきた。
「晶…。本当に、悪い」
「悪いって言うなら約束しろよ!!」
「何回も言うけど、それはできない」
ラブホでこんな話をしているのもどうしようもないが、修羅場になりそうな気がして外で話すのは避けた。結果、休憩料金で入ったのが二回目の延長に突入している。
最初は、皆にわざわざ会って言うこともないかと思った。けれど最後に筋を通したいと、方向転換した。
特に晶とは長い付き合いだし、存在は思いの外大きかった。いつも酷く扱った分、最後はちゃんとと思った、のだが。
「ぜーーーーったいに別れない」
晶がツーンとそっぽを向く。
「久しぶりに会えると思って! 楽しみにしてたのに!!」
「…悪い」
「…夏伊は、“悪い”なんて言う奴じゃなかった」
初めて会った時からずっと、自信満々で、偉そげで、怖いもの知らずで、プライド高くて、それが夏伊なのに。
「…そんなところが好きだったのに」
「…悪い」
「うっ、う、うわああああああああ」
枕を投げつけられる。
キャッチしそうになったが手を止めた。そのまま当たって、床に落ちる。
「…うっ、うっ、うう…」
ようやく、もういい、帰ってと言う。
自分は泊まって帰るから宿泊料金払っといて、バカ、と言うところが、とことん晶で、少し笑った。
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