憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

文字の大きさ
上 下
111 / 142

年が明けて

しおりを挟む
有栖たちと一緒に過ごす年越しが終わって、今日は神社にお参りに行く日だ。三箇日は混んで大変なので、大幅に日を開けてから行くことにしていた。皆の予定とかも調整した結果、今日になったのだ。


†  †


年末は有栖も仕事を空けてくれていて、三人でのんびり過ごした。
僕の前の家はテレビがなかったし、御園たちは家族との年末があるからいつも一人だった。正直やることもないし、年越しを待たずに寝てしまったこともある。それを考えると、こんなに穏やかで楽しい年末は久方ぶりだ。
赤白で競い合う歌番組とかお笑い芸人が何かするやつとか、有名だけどあんまり見たことのない番組を見ながら、こたつでミカンを食べる。人によっては当たり前の年末かもしれないけど、僕にとってはそうじゃない。

『ねえ、有栖はどうして僕を好きになってくれたの?』
『え、何だ急に』
『ちょっと気になって。見た目だって平凡だし、虐められるような奴だし、有栖から見てどうなのかなって』
『…………』

クリスマスでは聞くのを忘れていたことを聞いたのだけど、彼は怒ったように顔を顰めた。

『あのな、遊沙』
『うん』
『その話、年越したらしないって約束してくれるか?』
『なんで?』
『何でも』
『有栖が理由を言ってくれたら、僕ももうしないよ』
『分かった。これで最後だからな』
『う、うん』

呆れたように頭を振りながら、彼は答えてくれた。

『遊沙は平凡じゃないし、虐められたのもお前のせいじゃないだろ。会った時から俺を色眼鏡で見なかったし、それどころか意識すらしなかった。純粋な『ありがとう』も嬉しかった。そういう所が新鮮だったっていうか、気になった』
『……それ、僕じゃなくてもいいんじゃ?』
『おい、さすがに怒るぞ。お前じゃなきゃ駄目だって何回言わせるんだ。人だらけのスーパーで気になったのもお前だけだし、もう一度会いたいとか話したいとか、一緒に住みたいだとか思うのもお前だけだ。分かったか?』
『う、うん、分かった』

確かに僕以外の一般の人と話しているのはあまり見たことがない。御園は……普通に話してるけど好きとかそういうのじゃなさそう。後はファンの人だけど、僕とは全然違う話し方してるから仕事のためなんだろう。

……そっか。僕じゃなきゃ駄目なのか。
そう言われると悪い気はしない。

『逆に聞くが、なんでお前はそう自己肯定感が低いんだ? 仮にもモデルの俺が自宅にまで住まわしてるんだぞ? もっと鼻高々になっても良い気がするが。…………いや、まあ、そうならないお前が俺は好きだが』
『低いかな?』
『低いだろ。さっきの発言で既に低いし』
『うーん、ごめん、よく分からない』
『そうか。なら、あと数時間後の来年の目標は、お前の肯定感を無意識に上げさせることだな』
『ええ、もっと大事なことにしたら良いのに』
『俺にとっては大事なんだよ』

なんかよく分からないけど、有栖が僕のために何かしてくれるなら、僕も有栖のために何かしようかな。


†  †


「遊沙?」
「ん、何?」
「いや、ぼーっとしてどうした?」
「ううん。神社でお祈りする内容何にしようかなって思って」

本当はもう決めてある。
『今年も三人で何事も無く過ごせますように』だ。お願い事を喋っちゃいけないという決まりはないけれど、喋ってしまったら効果が薄まってしまうような気がして黙っておくことにした。

「俺は決めたぞ」
「何て?」
「言わない」

嬉しそうに笑う有栖は幸せそうで、何だか僕まで嬉しくなった。

お賽銭には五円玉を入れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

貴方の事を心から愛していました。ありがとう。

天海みつき
BL
 穏やかな晴天のある日の事。僕は最愛の番の後宮で、ぼんやりと紅茶を手に己の生きざまを振り返っていた。ゆったり流れるその時を楽しんだ僕は、そのままカップを傾け、紅茶を喉へと流し込んだ。  ――混じり込んだ××と共に。  オメガバースの世界観です。運命の番でありながら、仮想敵国の王子同士に生まれた二人が辿る数奇な運命。勢いで書いたら真っ暗に。ピリリと主張する苦さをアクセントにどうぞ。  追記。本編完結済み。後程「彼」視点を追加投稿する……かも?

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

傾国のΩと呼ばれて破滅したと思えば人生をやり直すことになったので、今度は遠くから前世の番を見守ることにします

槿 資紀
BL
 傾国のΩと呼ばれた伯爵令息、リシャール・ロスフィードは、最愛の番である侯爵家嫡男ヨハネス・ケインを洗脳魔術によって不当に略奪され、無理やり番を解消させられた。  自らの半身にも等しいパートナーを失い狂気に堕ちたリシャールは、復讐の鬼と化し、自らを忘れてしまったヨハネスもろとも、ことを仕組んだ黒幕を一族郎党血祭りに上げた。そして、間もなく、その咎によって処刑される。  そんな彼の正気を呼び戻したのは、ヨハネスと出会う前の、9歳の自分として再び目覚めたという、にわかには信じがたい状況だった。  しかも、生まれ変わる前と違い、彼のすぐそばには、存在しなかったはずの双子の妹、ルトリューゼとかいうケッタイな娘までいるじゃないか。  さて、ルトリューゼはとかく奇妙な娘だった。何やら自分には前世の記憶があるだの、この世界は自分が前世で愛読していた小説の舞台であるだの、このままでは一族郎党処刑されて死んでしまうだの、そんな支離滅裂なことを口走るのである。ちらほらと心あたりがあるのがまた始末に負えない。  リシャールはそんな妹の話を聞き出すうちに、自らの価値観をまるきり塗り替える概念と出会う。  それこそ、『推し活』。愛する者を遠くから見守り、ただその者が幸せになることだけを一身に願って、まったくの赤の他人として尽くす、という営みである。  リシャールは正直なところ、もうあんな目に遭うのは懲り懲りだった。番だのΩだの傾国だのと鬱陶しく持て囃され、邪な欲望の的になるのも、愛する者を不当に奪われて、周囲の者もろとも人生を棒に振るのも。  愛する人を、自分の破滅に巻き込むのも、全部たくさんだった。  今もなお、ヨハネスのことを愛おしく思う気持ちに変わりはない。しかし、惨憺たる結末を変えるなら、彼と出会っていない今がチャンスだと、リシャールは確信した。  いざ、思いがけず手に入れた二度目の人生は、推し活に全てを捧げよう。愛するヨハネスのことは遠くで見守り、他人として、その幸せを願うのだ、と。  推し活を万全に営むため、露払いと称しては、無自覚に暗躍を始めるリシャール。かかわりを持たないよう徹底的に避けているにも関わらず、なぜか向こうから果敢に接近してくる終生の推しヨハネス。真意の読めない飄々とした顔で事あるごとにちょっかいをかけてくる王太子。頭の良さに割くべきリソースをすべて顔に費やした愛すべき妹ルトリューゼ。  不本意にも、様子のおかしい連中に囲まれるようになった彼が、平穏な推し活に勤しめる日は、果たして訪れるのだろうか。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

処理中です...