憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

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有栖の苦悩(有栖視点)

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湯に浸かりすぎて完全に逆上せた俺たちは、部屋に戻って窓を開け、夜風に当たりながら涼んでいた。

いつも丁寧に乾かす髪は、今日はまだ若干濡れたままだ。逆上せたことに加えて、遊紗の裸を見てしまったり、湯上りの遊紗とかいう凶器を喰らってしまったりして火照った体に、さらにドライヤーの熱風を当てるのは結構苦痛だった。
だから、粗方乾いたら早々にやめてしまったのだ。

仕事が忙しい日はシャワーだけで済ますし、湯船もあまりのんびり浸からないので、新鮮な感覚だ。


備え付けの浴衣を着る遊紗は当然の事ながら可愛いし、色気がアップしているように見える。俺が着ると丈が短い浴衣だが、遊紗が着ると逆に余っていた。冴木にはピッタリだったので、彼くらいの大きさを目安にしたサイズなのだろう。


…………っていうか、飯食った後はこの状態の遊紗と横並びで寝るんだよな? 色々と耐えられるだろうか。 
遊紗はそういう気ないだろうし、そんな彼を俺が無理矢理襲うことはあってはならない。冴木の前だから尚更。

なのに、彼シャツとかいうのを実行したらこうなるのかと思えるようなぶかぶか感とか、脱げそうな薄っぺらい布を1枚巻き付けているだけの状態とかが気になって仕方ない。
こうなったら、寝る時は何か間違いが起きないように冴木を間に挟もう。うん、そうしよう。



そう思ったのだが。
素朴ながら豪華な食事を堪能した後、いよいよ寝る時になって、冴木のやつはササッと端の布団を占拠しやがった。
少し天然が入った彼のことだ、「遊紗くんと2人で仲良く寝させよう」とでも思っているのだろうが、全くもっていらない気遣いだ。俺を何歳だと思っているんだ。
思春期は過ぎたと言っても成人した男が好きなやつと隣の布団で寝るなんて、不純な感情が芽生えない方がおかしい。
だと言うのに、遊紗のやつも気にした様子もなく冴木とは反対の端を陣取った。

……なんというか、危機感というものが無さすぎる。俺よりガツガツしているあの狼男に今までよく襲われなかったなと感心すらしてくる。……まあ、あいつが隙だらけの遊紗を無理に襲うようなやつじゃなかった、ってことだから、そこだけは評価するが。

俺が悶々としているのを知ってか知らずか、冴木はするすると布団に潜っていくと、秒で寝てしまった。酔いは冷めていたとはいえ酒が入っていたし、普通に疲れていたのだろう。叩き起して真ん中行けとも言えなくなってしまった今、どう頑張っても遊紗と隣にならざるを得なくなった。
地獄だ。いや、気持ち的には天国なのだが。


もういいや、どうにでもなれだ。できるだけ冴木の方を向いて寝よう。

そう決意したのもつかの間、遊紗の寝息が聞こえ始めると、そちらが気になって仕方なくなった。今の家では皆別の部屋で寝るし、遊紗の寝顔を見たのは看病の時と飲み会の時くらいだ。真横で寝ている愛する人の寝顔を見たくなるのも当然というものだろう。
しばらくは後ろ髪を引かれる思いで耐えていたが、結局我慢できなくなってそちらを向いてしまった。

小さな体が規則正しく上下して、少しはだけた胸元からは浮き出た鎖骨が見えている。出会った頃はもっとガリガリだったが、今では程よく肉付いて健康そうだ。あの頃に比べて元気になったのは良かったが、今はそれが妙に色っぽくて困る。


俺は遊紗の体に腕を回すとそっと抱き寄せた。力を入れ過ぎないように気をつけながら抱きしめて、指先で鎖骨をなぞってみる。
遊紗がくすぐったそうに俺の手を掴んできたが、彼は掴んだまままた寝息を立て始めた。

……これ、寝られないな……。
それなりに疲れているはずなのに、ぱっちりと目が冴えてしまっている。
遊紗の形のいい耳たぶを甘噛みしながら羊を100匹くらい数えたが、残念ながら睡魔はやってこなかった。
観覧車で口じゃなかったらキスしていいと言っていたので、首筋や頬なんかにしてみたり、喉に噛み付いてみたり、起こさない程度に勝手に恋人繋ぎをしてみたりしたが、いつまで経っても寝ることはできなかった。
仕方がないので遊紗を抱き枕にして、うなじに顔を埋めて目を閉じた。遊紗は小さいので抱き心地が良い。
羊ではダメみたいなので、色んな服を着た遊紗が右から左へと歩いていくのを数えた。着て欲しい服を着てもらったり、好きなポーズを取ってもらったりして、結構楽しく妄想できた。

無駄に想像力が育ってしまった結果、結局明け方まで一睡も出来なかった。
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