96 / 142
露天風呂
しおりを挟む
ドジっ子冴木さんが落ち着いて、顔色も正常に戻ってきた頃、僕らは露天風呂へ向かった。
お湯は少し温度が高めだったけど、日も落ちて涼しくなっているし、それくらいでちょうど良かった。
常連のおじ様達もニコニコ顔でついてくる。気さくな人達で会話も弾んだし、「若い人ともう少し話したい」と言われれば、別に断る理由もないだろう。
「そういえば、今日は家族で旅行にでも? 地元の人はあまりこの旅館には泊まらないから気になってしまってね」
「ええ、いつも仕事が忙しいので、たまには息抜きをと」
おじ様の質問に、冴木さんが答える。
子供に見える僕たち(主に僕)にはフランクだったおじ様達は、冴木さんには一度敬語を使ったが、堅苦しいのはやめにしようと言うことですぐフランクに戻った。
冴木さんは外だと敬語が抜けきらないみたいでそのままだ。
「奥さんも連れてきているのかい」
「あー……ええっと……」
あ。
おじ様の何気ない一言が冴木さんを困らせてる……。
まあ確かに、僕が弟で有栖が兄なら冴木さんは普通に考えてお父さんだし、子供2人いるってことは奥さんがいるはずだからね。そういう考えがあって当たり前なんだけど……。
有栖がモデルだと知られてたらこういうことはなかったかもしれない。代わりにのんびりしたお風呂タイムもなかっただろうけど。
今から有栖がモデルだと伝えるのもなんだし、実は全員血の繋がってない家族とか言うと気まずさや何か誤解を生みそうだ。奥さんは連れてこなかっただと問題があるし、奥さんはいないっていうのもまた問題がある。
連れて来たと嘘を言ったところで、この旅館は小さいからすぐにバレそう。その時にまた説明する手間を考えると面倒だ。
冴木さんは少し言い淀んで、
「彼女は忙しくて来れなかったんです。他の皆の予定が今日しか合わなかったので、仕方なく三人で」
と答えた。当たり障りがなく、しかもこの話題に関してこれ以上強く突っ込まれない回答だ。
……やっぱり冴木さんって仕事出来る人だなぁ。僕なら変に焦ったり考え過ぎたりして意味分からないこと口走っちゃいそうなのに。
「そうかい、それは残念だ。今度は奥さんともまた遊びに来てくれよ」
「あはは、そうします」
冴木さんとおじ様2人は、そのまま色んな話に花を咲かせ始めた。
僕はその輪からちょっと離れて、湯船の縁に座った。結構のんびり浸かっているので、だんだん逆上せてきたからだ。
大きめの丸石をコンクリートでくっつけたような縁は冷たいけれど、腰巻きタオルのおかげでちょうどいい。風は暑くも冷たくもなくて、火照った体に心地いい。
そんな僕を見て、有栖が真横に座ってきた。大きな体が真横に来て、おじ様達が見えなくなる。おじ様達からも僕のことは見えないだろう。
「お前、あんまり無闇に湯から出るな」
「……え?」
「ったく、それ見られたら……いや、まあ俺が隠すからいいけど……」
有栖は小さい声で何かごにょごにょ言っている。
「ごめん、何かダメだった?」
「ん、あ……いや。やっぱいいや。合法的にくっつけるからアリ」
「アリなの?」
「ああ」
何かよく分からないけどアリらしいのでそれで良しとする。妙に満足げなので、有栖がそれでいいならいいか。
お湯は少し温度が高めだったけど、日も落ちて涼しくなっているし、それくらいでちょうど良かった。
常連のおじ様達もニコニコ顔でついてくる。気さくな人達で会話も弾んだし、「若い人ともう少し話したい」と言われれば、別に断る理由もないだろう。
「そういえば、今日は家族で旅行にでも? 地元の人はあまりこの旅館には泊まらないから気になってしまってね」
「ええ、いつも仕事が忙しいので、たまには息抜きをと」
おじ様の質問に、冴木さんが答える。
子供に見える僕たち(主に僕)にはフランクだったおじ様達は、冴木さんには一度敬語を使ったが、堅苦しいのはやめにしようと言うことですぐフランクに戻った。
冴木さんは外だと敬語が抜けきらないみたいでそのままだ。
「奥さんも連れてきているのかい」
「あー……ええっと……」
あ。
おじ様の何気ない一言が冴木さんを困らせてる……。
まあ確かに、僕が弟で有栖が兄なら冴木さんは普通に考えてお父さんだし、子供2人いるってことは奥さんがいるはずだからね。そういう考えがあって当たり前なんだけど……。
有栖がモデルだと知られてたらこういうことはなかったかもしれない。代わりにのんびりしたお風呂タイムもなかっただろうけど。
今から有栖がモデルだと伝えるのもなんだし、実は全員血の繋がってない家族とか言うと気まずさや何か誤解を生みそうだ。奥さんは連れてこなかっただと問題があるし、奥さんはいないっていうのもまた問題がある。
連れて来たと嘘を言ったところで、この旅館は小さいからすぐにバレそう。その時にまた説明する手間を考えると面倒だ。
冴木さんは少し言い淀んで、
「彼女は忙しくて来れなかったんです。他の皆の予定が今日しか合わなかったので、仕方なく三人で」
と答えた。当たり障りがなく、しかもこの話題に関してこれ以上強く突っ込まれない回答だ。
……やっぱり冴木さんって仕事出来る人だなぁ。僕なら変に焦ったり考え過ぎたりして意味分からないこと口走っちゃいそうなのに。
「そうかい、それは残念だ。今度は奥さんともまた遊びに来てくれよ」
「あはは、そうします」
冴木さんとおじ様2人は、そのまま色んな話に花を咲かせ始めた。
僕はその輪からちょっと離れて、湯船の縁に座った。結構のんびり浸かっているので、だんだん逆上せてきたからだ。
大きめの丸石をコンクリートでくっつけたような縁は冷たいけれど、腰巻きタオルのおかげでちょうどいい。風は暑くも冷たくもなくて、火照った体に心地いい。
そんな僕を見て、有栖が真横に座ってきた。大きな体が真横に来て、おじ様達が見えなくなる。おじ様達からも僕のことは見えないだろう。
「お前、あんまり無闇に湯から出るな」
「……え?」
「ったく、それ見られたら……いや、まあ俺が隠すからいいけど……」
有栖は小さい声で何かごにょごにょ言っている。
「ごめん、何かダメだった?」
「ん、あ……いや。やっぱいいや。合法的にくっつけるからアリ」
「アリなの?」
「ああ」
何かよく分からないけどアリらしいのでそれで良しとする。妙に満足げなので、有栖がそれでいいならいいか。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
離れる気なら言わないで。~運命に振り回される僕はいつ自由になれるのかな?~
紡月しおん
BL
「おいっ・・・・・・」
・・・・・・先輩・・・・・・・・・・・・?
いつも落ち着いてる先輩が今日は額に汗を浮かべて、走って追いかけてきた。
「・・・・・・・・・・・・別れよ」
「・・・・・・・・・・・・はい」
分かってた。結局はこんな運命・・・・・・。
もう何回目なのかな?
悲しいなんて忘れちゃった。
運命だから――。
ごめんなさい・・・。
僕が悪いんだ。
でも、、どうしても思ってしまう。
離れる気なら最初から『好き』だなんて言わないでよ――。
筋違いなのは分かってる。
僕のせいなのも分かってる。
でも・・・・・・。
知りたいよ・・・。
『好き』って、、何?
※予告なく視点が変わります。
Take On Me 2
マン太
BL
大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。
そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。
岳は仕方なく会うことにするが…。
※絡みの表現は控え目です。
※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。
貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う
まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。
新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!!
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
嘘の日の言葉を信じてはいけない
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる