90 / 142
2度目のバーベキュー
しおりを挟む
最終的に有栖も浮き輪でぷかぷかしたので、三人で並んで浮かびながら空を見上げて、あの雲の形が鯨みたい、とか、今飛んだ鳥は? とか、他愛もない話をした。
2時間ぐらい川遊びをした結果、どうなったかというと、
「寒い……」
寒くなった。
浅くて横幅が広い川だったら、木々の枝が届かないから日当たりが良くて暑かっただろうけど、ここは深くて周囲が崖に覆われていて、その崖に生えた木々の枝までもが日光を遮っているので、日当たりが悪くて寒くなったのだ。
日焼けを気にする有栖からすれば、それを気にする必要がなくて気が楽だったと思うから悪いことばかりじゃないけど。あと熱中症の心配は皆無。
「寒いな」
有栖も身震いしながら川から上がって、濡れた髪やラッシュガードを絞っている。僕も真似していると、頭や体にふわりと暖かいタオルがかけられた。頭にかかった細長いタオルを肩にかけて周囲を見回すと、そんな僕を見て微笑む冴木さんが有栖用のタオルも持って立っていた。
「……ありがとうございます」
「いえいえ」
彼はにこりと笑って有栖にもタオルをかける。
さすがマネージャーだ。先に上がってタオルを用意してくれていたみたいだけど、全然気付かなかった。さり気なさすぎる。
体をしっかり乾かして、服に着替えた僕らは小さな椅子とバーベキューセットを出してきた。いっぱい泳いでお腹も空いたし、お昼ご飯にもちょうどいい。
いつかの休日では冴木さんが火を起こしてくれて有栖が焼いてくれたけど、今日は有栖が火を起こしてくれた。冴木さんは食材をミニテーブルに置いたり燻製器の準備をしてくれたりしていた。僕も団扇で火加減を調節する。本当はもっとちゃんとした仕事をしようとしたけれど、それ以上の仕事をしようとすると有栖と冴木さんが揃って首を振るので出来なかった。
「いつも飯作ってくれてるから充分だ」
「そうだよ、これくらいは私たちでも出来るからね」
そう言われれば、無理に手伝うのは野暮というものだ。僕は二人がやってくれるのを眺めていた。
乗せる食材はそれぞれの好物を用意してきた。僕用には魚介類と鶏肉と野菜、有栖用には肉全般と野菜、冴木さん用には魚介と肉と野菜が少しずつ。これをそれぞれが好きなように焼いて食べる。
ダンボールで出来た、キャンプ用の簡易燻製器もあるから、チーズやサーモンのサクなどを入れておく。
好物のエビが焼けたので、ぱりぱりの殻を向いて食べていると、有栖がそれを見ながら微笑んできた。
「美味いか?」
「うん」
僕は微笑み返して、残りのエビを食べる。
二尾食べたところで、ふと有栖が顔を覆って俯いているのに気付いた。
「どしたの有栖」
「いや、別に……」
心做しか顔が赤い気がする。何か照れさせるようなことをした覚えはないんだけど。
「ちょっと出会ったばかりの頃を思い出しただけだ」
「ふーん?」
あれかな、いつかの休日のことかな。……思い出してみても、何で照れているのか全然分からなかった。
照れている有栖とハテナだらけの僕を見ながら、冴木さんはくすくすと笑っていた。彼には何故有栖が照れているか分かっているらしい。
僕だけ分からないのが解せなかったけど、結局それは教えてくれなかった。
2時間ぐらい川遊びをした結果、どうなったかというと、
「寒い……」
寒くなった。
浅くて横幅が広い川だったら、木々の枝が届かないから日当たりが良くて暑かっただろうけど、ここは深くて周囲が崖に覆われていて、その崖に生えた木々の枝までもが日光を遮っているので、日当たりが悪くて寒くなったのだ。
日焼けを気にする有栖からすれば、それを気にする必要がなくて気が楽だったと思うから悪いことばかりじゃないけど。あと熱中症の心配は皆無。
「寒いな」
有栖も身震いしながら川から上がって、濡れた髪やラッシュガードを絞っている。僕も真似していると、頭や体にふわりと暖かいタオルがかけられた。頭にかかった細長いタオルを肩にかけて周囲を見回すと、そんな僕を見て微笑む冴木さんが有栖用のタオルも持って立っていた。
「……ありがとうございます」
「いえいえ」
彼はにこりと笑って有栖にもタオルをかける。
さすがマネージャーだ。先に上がってタオルを用意してくれていたみたいだけど、全然気付かなかった。さり気なさすぎる。
体をしっかり乾かして、服に着替えた僕らは小さな椅子とバーベキューセットを出してきた。いっぱい泳いでお腹も空いたし、お昼ご飯にもちょうどいい。
いつかの休日では冴木さんが火を起こしてくれて有栖が焼いてくれたけど、今日は有栖が火を起こしてくれた。冴木さんは食材をミニテーブルに置いたり燻製器の準備をしてくれたりしていた。僕も団扇で火加減を調節する。本当はもっとちゃんとした仕事をしようとしたけれど、それ以上の仕事をしようとすると有栖と冴木さんが揃って首を振るので出来なかった。
「いつも飯作ってくれてるから充分だ」
「そうだよ、これくらいは私たちでも出来るからね」
そう言われれば、無理に手伝うのは野暮というものだ。僕は二人がやってくれるのを眺めていた。
乗せる食材はそれぞれの好物を用意してきた。僕用には魚介類と鶏肉と野菜、有栖用には肉全般と野菜、冴木さん用には魚介と肉と野菜が少しずつ。これをそれぞれが好きなように焼いて食べる。
ダンボールで出来た、キャンプ用の簡易燻製器もあるから、チーズやサーモンのサクなどを入れておく。
好物のエビが焼けたので、ぱりぱりの殻を向いて食べていると、有栖がそれを見ながら微笑んできた。
「美味いか?」
「うん」
僕は微笑み返して、残りのエビを食べる。
二尾食べたところで、ふと有栖が顔を覆って俯いているのに気付いた。
「どしたの有栖」
「いや、別に……」
心做しか顔が赤い気がする。何か照れさせるようなことをした覚えはないんだけど。
「ちょっと出会ったばかりの頃を思い出しただけだ」
「ふーん?」
あれかな、いつかの休日のことかな。……思い出してみても、何で照れているのか全然分からなかった。
照れている有栖とハテナだらけの僕を見ながら、冴木さんはくすくすと笑っていた。彼には何故有栖が照れているか分かっているらしい。
僕だけ分からないのが解せなかったけど、結局それは教えてくれなかった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
離れる気なら言わないで。~運命に振り回される僕はいつ自由になれるのかな?~
紡月しおん
BL
「おいっ・・・・・・」
・・・・・・先輩・・・・・・・・・・・・?
いつも落ち着いてる先輩が今日は額に汗を浮かべて、走って追いかけてきた。
「・・・・・・・・・・・・別れよ」
「・・・・・・・・・・・・はい」
分かってた。結局はこんな運命・・・・・・。
もう何回目なのかな?
悲しいなんて忘れちゃった。
運命だから――。
ごめんなさい・・・。
僕が悪いんだ。
でも、、どうしても思ってしまう。
離れる気なら最初から『好き』だなんて言わないでよ――。
筋違いなのは分かってる。
僕のせいなのも分かってる。
でも・・・・・・。
知りたいよ・・・。
『好き』って、、何?
※予告なく視点が変わります。
Take On Me 2
マン太
BL
大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。
そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。
岳は仕方なく会うことにするが…。
※絡みの表現は控え目です。
※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。
貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う
まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。
新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!!
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
嘘の日の言葉を信じてはいけない
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる