憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

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2度目のバーベキュー

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最終的に有栖も浮き輪でぷかぷかしたので、三人で並んで浮かびながら空を見上げて、あの雲の形が鯨みたい、とか、今飛んだ鳥は? とか、他愛もない話をした。
2時間ぐらい川遊びをした結果、どうなったかというと、

「寒い……」

寒くなった。
浅くて横幅が広い川だったら、木々の枝が届かないから日当たりが良くて暑かっただろうけど、ここは深くて周囲が崖に覆われていて、その崖に生えた木々の枝までもが日光を遮っているので、日当たりが悪くて寒くなったのだ。
日焼けを気にする有栖からすれば、それを気にする必要がなくて気が楽だったと思うから悪いことばかりじゃないけど。あと熱中症の心配は皆無。

「寒いな」

有栖も身震いしながら川から上がって、濡れた髪やラッシュガードを絞っている。僕も真似していると、頭や体にふわりと暖かいタオルがかけられた。頭にかかった細長いタオルを肩にかけて周囲を見回すと、そんな僕を見て微笑む冴木さんが有栖用のタオルも持って立っていた。

「……ありがとうございます」
「いえいえ」

彼はにこりと笑って有栖にもタオルをかける。
さすがマネージャーだ。先に上がってタオルを用意してくれていたみたいだけど、全然気付かなかった。さり気なさすぎる。


体をしっかり乾かして、服に着替えた僕らは小さな椅子とバーベキューセットを出してきた。いっぱい泳いでお腹も空いたし、お昼ご飯にもちょうどいい。
いつかの休日では冴木さんが火を起こしてくれて有栖が焼いてくれたけど、今日は有栖が火を起こしてくれた。冴木さんは食材をミニテーブルに置いたり燻製器の準備をしてくれたりしていた。僕も団扇で火加減を調節する。本当はもっとちゃんとした仕事をしようとしたけれど、それ以上の仕事をしようとすると有栖と冴木さんが揃って首を振るので出来なかった。

「いつも飯作ってくれてるから充分だ」
「そうだよ、これくらいは私たちでも出来るからね」

そう言われれば、無理に手伝うのは野暮というものだ。僕は二人がやってくれるのを眺めていた。

乗せる食材はそれぞれの好物を用意してきた。僕用には魚介類と鶏肉と野菜、有栖用には肉全般と野菜、冴木さん用には魚介と肉と野菜が少しずつ。これをそれぞれが好きなように焼いて食べる。
ダンボールで出来た、キャンプ用の簡易燻製器もあるから、チーズやサーモンのサクなどを入れておく。

好物のエビが焼けたので、ぱりぱりの殻を向いて食べていると、有栖がそれを見ながら微笑んできた。

「美味いか?」
「うん」

僕は微笑み返して、残りのエビを食べる。
二尾食べたところで、ふと有栖が顔を覆って俯いているのに気付いた。

「どしたの有栖」
「いや、別に……」

心做しか顔が赤い気がする。何か照れさせるようなことをした覚えはないんだけど。

「ちょっと出会ったばかりの頃を思い出しただけだ」
「ふーん?」

あれかな、いつかの休日のことかな。……思い出してみても、何で照れているのか全然分からなかった。

照れている有栖とハテナだらけの僕を見ながら、冴木さんはくすくすと笑っていた。彼には何故有栖が照れているか分かっているらしい。
僕だけ分からないのが解せなかったけど、結局それは教えてくれなかった。
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