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番外:成人式の話
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本編と関係のある番外編です。
遊沙がちょっと前にお酒を飲んで酔っ払う描写があったと思うのですが、読者の皆様の中には、
「あれ、プロフィールには19歳って書いてあった気がしたけどいつの間に20歳に……?」
と思われた方もいたと思います。
実は成人式シーズンにその辺りの話を書く気だったのですが(遊沙の誕生日は12月)、タイミングを逃したままずるずる引き摺った結果、書くのを忘れておりました。僕の中では彼はもう20歳だったのでついそのまま書いちゃったんですね。
混乱させてしまった方は申し訳なかったです。と、言うわけで今回はその話です。
――――――――――†
「そういえばお前、誕生日いつなんだ?」
ふと気付いたように有栖が聞いてきた。言われてみれば、その話はしたことがなかったかもしれない。
「え、12月だけど」
僕は何てことなく言ったけれど、言った瞬間有栖と冴木さんが凄い顔してこちらを見た。
ちょっとびっくりする。
「何故言わない?」
「過ぎているじゃないか」
二人とも非難しているような、呆れているような感じだった。確かに今は1月で、僕の誕生日はとっくに過ぎているけれど。
そんなに反応することかなあ。正直自分でも忘れてしまいそうなくらいだし、祝って貰わなくても大丈夫なのだけど。そういうと、二人はぶんぶんと首を振った。同じ表情で同じような行動をするあたり、血は繋がってなくても、ああ親子なんだなあ……と思う。顔の作りは全然違うけど、どこか似ている。
僕が乗り気じゃないのを尻目に、二人はとても手際よくケーキやら何やらを手配してくれる。
「大体、成人式にはどうして行かなかったんだ? 俺はてっきりまだ20にならないからだと思ってたんだが」
「うーん……行く必要があまりなかったから、かな。有栖といる方が楽しいし」
僕がそういうと、有栖はくっついて離れなくなってしまった。喜んでくれたのかな。素直な気持ちを言っただけでも、それを喜んでくれたとしたら僕も嬉しい。
実際会いたい人よりも会いたくない人の方が圧倒的に多いから、そんな気乗りしないところに行って、つまらない大人の話を座って聞くのは時間の無駄だ。人間なんていつ死ぬか分からないし、極端な話成人式中に地震が起こって死んだら本当に何しに行ったのか分からない。
あと服が高い。レンタルでも高いし、買うとなると何十万もかかる。もちろんピンからキリまであると思うから、安いのもあるだろうけど、一日のために買ったり借りたりする気にはなれなかった。
くっついている有栖とそれを穏やかに見ている冴木さんにそのことを簡単に言うと、ならばパーティーは盛大にしようと行ってくれた。パーティーそのものより、そう思ってくれる二人の気持ちが嬉しかった。
冴木さんが張り切って夕食の準備をしてくれていて、有栖はそれを手伝っていた。僕はというと、手伝いを断られた上にこたつにきゅっと押し込まれ、手元にはゲーム類一式が準備されていて至れり尽くせりだった。手伝いは禁止らしい。ただ、二人が働いているのにこたつでゲームする気分にはなれず、そわそわと潜ったり出たりしていた。
食卓に並んだのは、僕の好きな海鮮料理だった。
「こ、これってもしかしてアワビ……!?」
食べたくても食べられない高級品を前にして、僕は珍しく大きめの声を出してしまった。そんな僕を見て、有栖は嬉しそうに頬を緩ませている。
「少ないがフグもあるぞ。……本当はやめようかと思ったんだが、店で調理したものなら大丈夫だろうし、食べたがるかな、と思ってな」
有栖は僕がフグ毒で体調を崩したことを気にしているのだろうが、僕としては食べたくてしょうがないので気にしていない。有栖が言い終わるか言い終わらないかの内に箸が伸びてしまった。
しばらくすると、有栖は何処かからシャンパンの瓶を持ってきた。そっか、お酒も飲めるようになったのか。飲みたいと思ったことはないけれど、飲めるとなるとちょっと興味が湧く。
有栖が三人分入れてくれて、皆で乾杯した。白ブドウのシャンパンで、全然甘くなかったけど、飲めないことはなかった。……ただ、僕にはちょっと早かったかもしれない。
ワインとかビールだと甘くないを通り超して苦いらしいので、もし飲むならチューハイが良いと言われた。
途中から頭がほわほわしてきて、まっすぐ歩きづらくなってきたので飲むのはやめた。
食卓の料理が少なくなってくると、有栖が誕生日プレゼントを渡してくれた。開けてみると中には手触りの良いマフラーが入っていた。
僕が寒がりだからとこれにしてくれたらしい。生地が薄いのにすごく暖かくて不思議だった。きっと良いものなのだろう。
冴木さんからは封筒に入ったお金だった。これで好きなものを買ってくれということらしい。
彼は色気がなくて悪いけど、と笑った。
冴木さんは気遣いが上手い人だから、きっとあげたもので僕が困らないように考えてくれたのだろう。あと、多分だけど有栖のことも。有栖が僕にくれたプレゼントを目立たせるために、彼は物をくれなかったのだろうと思う。食べ物だと僕が嫌がると思った結果、お金にしてくれたのだと。
なんだか、とても幸せな時間だった。御園たち友人も時折プレゼントをくれるけれど、パーティーを開いて貰うのは家族がいた時以来だ。
自然に笑みがこぼれてしまうような、木漏れ日のようなこの場所を、僕はずっと大事にしたい。
残りのシャンパンを酌み合っている二人を見ながら、自然とそう思った。
―――――――――†
(端書き)
余談ですが、有栖があげたマフラーはカシミヤのマフラーです。
遊沙がちょっと前にお酒を飲んで酔っ払う描写があったと思うのですが、読者の皆様の中には、
「あれ、プロフィールには19歳って書いてあった気がしたけどいつの間に20歳に……?」
と思われた方もいたと思います。
実は成人式シーズンにその辺りの話を書く気だったのですが(遊沙の誕生日は12月)、タイミングを逃したままずるずる引き摺った結果、書くのを忘れておりました。僕の中では彼はもう20歳だったのでついそのまま書いちゃったんですね。
混乱させてしまった方は申し訳なかったです。と、言うわけで今回はその話です。
――――――――――†
「そういえばお前、誕生日いつなんだ?」
ふと気付いたように有栖が聞いてきた。言われてみれば、その話はしたことがなかったかもしれない。
「え、12月だけど」
僕は何てことなく言ったけれど、言った瞬間有栖と冴木さんが凄い顔してこちらを見た。
ちょっとびっくりする。
「何故言わない?」
「過ぎているじゃないか」
二人とも非難しているような、呆れているような感じだった。確かに今は1月で、僕の誕生日はとっくに過ぎているけれど。
そんなに反応することかなあ。正直自分でも忘れてしまいそうなくらいだし、祝って貰わなくても大丈夫なのだけど。そういうと、二人はぶんぶんと首を振った。同じ表情で同じような行動をするあたり、血は繋がってなくても、ああ親子なんだなあ……と思う。顔の作りは全然違うけど、どこか似ている。
僕が乗り気じゃないのを尻目に、二人はとても手際よくケーキやら何やらを手配してくれる。
「大体、成人式にはどうして行かなかったんだ? 俺はてっきりまだ20にならないからだと思ってたんだが」
「うーん……行く必要があまりなかったから、かな。有栖といる方が楽しいし」
僕がそういうと、有栖はくっついて離れなくなってしまった。喜んでくれたのかな。素直な気持ちを言っただけでも、それを喜んでくれたとしたら僕も嬉しい。
実際会いたい人よりも会いたくない人の方が圧倒的に多いから、そんな気乗りしないところに行って、つまらない大人の話を座って聞くのは時間の無駄だ。人間なんていつ死ぬか分からないし、極端な話成人式中に地震が起こって死んだら本当に何しに行ったのか分からない。
あと服が高い。レンタルでも高いし、買うとなると何十万もかかる。もちろんピンからキリまであると思うから、安いのもあるだろうけど、一日のために買ったり借りたりする気にはなれなかった。
くっついている有栖とそれを穏やかに見ている冴木さんにそのことを簡単に言うと、ならばパーティーは盛大にしようと行ってくれた。パーティーそのものより、そう思ってくれる二人の気持ちが嬉しかった。
冴木さんが張り切って夕食の準備をしてくれていて、有栖はそれを手伝っていた。僕はというと、手伝いを断られた上にこたつにきゅっと押し込まれ、手元にはゲーム類一式が準備されていて至れり尽くせりだった。手伝いは禁止らしい。ただ、二人が働いているのにこたつでゲームする気分にはなれず、そわそわと潜ったり出たりしていた。
食卓に並んだのは、僕の好きな海鮮料理だった。
「こ、これってもしかしてアワビ……!?」
食べたくても食べられない高級品を前にして、僕は珍しく大きめの声を出してしまった。そんな僕を見て、有栖は嬉しそうに頬を緩ませている。
「少ないがフグもあるぞ。……本当はやめようかと思ったんだが、店で調理したものなら大丈夫だろうし、食べたがるかな、と思ってな」
有栖は僕がフグ毒で体調を崩したことを気にしているのだろうが、僕としては食べたくてしょうがないので気にしていない。有栖が言い終わるか言い終わらないかの内に箸が伸びてしまった。
しばらくすると、有栖は何処かからシャンパンの瓶を持ってきた。そっか、お酒も飲めるようになったのか。飲みたいと思ったことはないけれど、飲めるとなるとちょっと興味が湧く。
有栖が三人分入れてくれて、皆で乾杯した。白ブドウのシャンパンで、全然甘くなかったけど、飲めないことはなかった。……ただ、僕にはちょっと早かったかもしれない。
ワインとかビールだと甘くないを通り超して苦いらしいので、もし飲むならチューハイが良いと言われた。
途中から頭がほわほわしてきて、まっすぐ歩きづらくなってきたので飲むのはやめた。
食卓の料理が少なくなってくると、有栖が誕生日プレゼントを渡してくれた。開けてみると中には手触りの良いマフラーが入っていた。
僕が寒がりだからとこれにしてくれたらしい。生地が薄いのにすごく暖かくて不思議だった。きっと良いものなのだろう。
冴木さんからは封筒に入ったお金だった。これで好きなものを買ってくれということらしい。
彼は色気がなくて悪いけど、と笑った。
冴木さんは気遣いが上手い人だから、きっとあげたもので僕が困らないように考えてくれたのだろう。あと、多分だけど有栖のことも。有栖が僕にくれたプレゼントを目立たせるために、彼は物をくれなかったのだろうと思う。食べ物だと僕が嫌がると思った結果、お金にしてくれたのだと。
なんだか、とても幸せな時間だった。御園たち友人も時折プレゼントをくれるけれど、パーティーを開いて貰うのは家族がいた時以来だ。
自然に笑みがこぼれてしまうような、木漏れ日のようなこの場所を、僕はずっと大事にしたい。
残りのシャンパンを酌み合っている二人を見ながら、自然とそう思った。
―――――――――†
(端書き)
余談ですが、有栖があげたマフラーはカシミヤのマフラーです。
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