70 / 142
断れなかった弊害
しおりを挟む
合コンに誘われた次の日。
いつの間にかお酒を飲んでいたらしく、昨日の記憶はほとんどない。お酒はあまり好きじゃないし、ああいう場所は苦手だけど、飲んでしまったってことはそれなりに浮かれていたのかもしれない。
頼んだパスタを食べて美味しいなあと思ったところくらいまでは覚えていて、その後は気付いたら自分のベッドにいた。
近くに有栖がいたから、きっと彼が運んでくれたのだろうけど……。おぼろげな記憶の中の彼は、出会ったばかりの頃のように不機嫌だった。苛立ちと怒りと余裕のなさが煮詰められたような雰囲気、というのだろうか。とにかく何か気に障ることがあったのだということは十分伝わった。
有栖が聞いてきたことになるべくちゃんと答えたつもりだったのだけど、次の瞬間には首にものすごい痛みを感じて、ちょっと遅れて有栖に噛みつかれたのだと分かった。有栖は痛いことをしないだろうという信頼があったので、突然与えられた痛みに、彼に裏切られた気がして悲しみやら何やらが湧いてきてしまった。
酔いも覚めて脳がはっきりした今では多分僕が合コンを断れなかったことに怒っているのだろうな、と分かった。連絡もしなかったからきっと凄く心配をかけただろう。悪いことをした。
有栖がどれくらい僕のことを好いてくれているのかは分からないけど、心配をかけるのは本意じゃなかったのに。
だけど、まさか犬より先に人間に噛まれるとは思わなかったなあ。
大学を彷徨きながら、帰りにお詫びの品でも買って帰ろうとスマホで検索をかける。
……雑貨とかいいかも。有栖は最近家にいることも多いし、日記とかも書いているみたいだから卓上用品とか探してみようかな。
買い物は結構好きなので、ちょっとわくわくしながら行く店を決めていると、昨日僕を誘ってきた友人が声をかけてきた。
「あ、遊沙!」
「あ。えーっとどうしたの?」
「どうしたのじゃないよ! お前、有栖といつ知り合ったんだよ~! 言えよ~!」
「えっ、あっ、ご、ごめん」
そういえば有栖が僕のこと迎えに来てくれてたって御園が言ってたんだった。
「いや、謝る必要はないけどさ。も~あの後大騒ぎだったぞ。遊沙と良い感じだった女の子なんか怒って帰っちゃうし」
「え、良い感じだった女の子……?」
「お前覚えてないのかよ~、終始良い感じだったじゃん」
「そ、そうだっけ……」
「そうだよ! ったく鈍いんだから。……だけど急に有栖が来てお前を引っぺがして車で帰っちゃってさ。美人が凄むと怖いって言うけどホントに怖くて。有栖があんなに怒ってるってことは、お前有栖と深い関係なんだろ?」
「ええと……まあ浅くはない、けど……」
「前は知らなかっただろ? なのにいつの間に仲良くなってるんだよ~羨ましい! どんな関係なのかも気になるし」
まあ、こんなどこにでもいるような奴のことをモデルが迎えに来たとなればそうなるよなあ。彼のことを知らなかった手前、今更従兄弟でしたとか言えないし。ここは素直に、でもぼやかして言おう。
「うーんと……ちょっと色々あって、お友達状態というか……」
あ、駄目だこれ。下手くそ過ぎる。
「いやもうあれ、親友とかそういうレベルじゃない? ただの友達のために迎えに来るかよ」
ごもっとも。一緒に住んでるとか余計なこと言わない方が良いだろうし、話を合わせておこう。
「あ、うん、そうなんだよね。結構仲良くしてもらってて……」
「ふーん……ま、いっか。今度もっと詳しく教えてよ。な? 言葉まとまってからでいいからさ」
友人は納得いかない顔をしながらも、ニコッと笑って引き下がってくれた。ほとんど話してあげられなかったのに、それ以上は追求しないでくれるらしい。
……彼といい御園といい、本当に良い人ばかりだな。頭が下がる。
今度はもうちょっと上手く説明できるように考えてこよう。
SNSをほとんど使わない僕は知らなかった。
彼以外の合コン参加者の呟きで、ネット上はちょっとした騒ぎになっていることを。
いつの間にかお酒を飲んでいたらしく、昨日の記憶はほとんどない。お酒はあまり好きじゃないし、ああいう場所は苦手だけど、飲んでしまったってことはそれなりに浮かれていたのかもしれない。
頼んだパスタを食べて美味しいなあと思ったところくらいまでは覚えていて、その後は気付いたら自分のベッドにいた。
近くに有栖がいたから、きっと彼が運んでくれたのだろうけど……。おぼろげな記憶の中の彼は、出会ったばかりの頃のように不機嫌だった。苛立ちと怒りと余裕のなさが煮詰められたような雰囲気、というのだろうか。とにかく何か気に障ることがあったのだということは十分伝わった。
有栖が聞いてきたことになるべくちゃんと答えたつもりだったのだけど、次の瞬間には首にものすごい痛みを感じて、ちょっと遅れて有栖に噛みつかれたのだと分かった。有栖は痛いことをしないだろうという信頼があったので、突然与えられた痛みに、彼に裏切られた気がして悲しみやら何やらが湧いてきてしまった。
酔いも覚めて脳がはっきりした今では多分僕が合コンを断れなかったことに怒っているのだろうな、と分かった。連絡もしなかったからきっと凄く心配をかけただろう。悪いことをした。
有栖がどれくらい僕のことを好いてくれているのかは分からないけど、心配をかけるのは本意じゃなかったのに。
だけど、まさか犬より先に人間に噛まれるとは思わなかったなあ。
大学を彷徨きながら、帰りにお詫びの品でも買って帰ろうとスマホで検索をかける。
……雑貨とかいいかも。有栖は最近家にいることも多いし、日記とかも書いているみたいだから卓上用品とか探してみようかな。
買い物は結構好きなので、ちょっとわくわくしながら行く店を決めていると、昨日僕を誘ってきた友人が声をかけてきた。
「あ、遊沙!」
「あ。えーっとどうしたの?」
「どうしたのじゃないよ! お前、有栖といつ知り合ったんだよ~! 言えよ~!」
「えっ、あっ、ご、ごめん」
そういえば有栖が僕のこと迎えに来てくれてたって御園が言ってたんだった。
「いや、謝る必要はないけどさ。も~あの後大騒ぎだったぞ。遊沙と良い感じだった女の子なんか怒って帰っちゃうし」
「え、良い感じだった女の子……?」
「お前覚えてないのかよ~、終始良い感じだったじゃん」
「そ、そうだっけ……」
「そうだよ! ったく鈍いんだから。……だけど急に有栖が来てお前を引っぺがして車で帰っちゃってさ。美人が凄むと怖いって言うけどホントに怖くて。有栖があんなに怒ってるってことは、お前有栖と深い関係なんだろ?」
「ええと……まあ浅くはない、けど……」
「前は知らなかっただろ? なのにいつの間に仲良くなってるんだよ~羨ましい! どんな関係なのかも気になるし」
まあ、こんなどこにでもいるような奴のことをモデルが迎えに来たとなればそうなるよなあ。彼のことを知らなかった手前、今更従兄弟でしたとか言えないし。ここは素直に、でもぼやかして言おう。
「うーんと……ちょっと色々あって、お友達状態というか……」
あ、駄目だこれ。下手くそ過ぎる。
「いやもうあれ、親友とかそういうレベルじゃない? ただの友達のために迎えに来るかよ」
ごもっとも。一緒に住んでるとか余計なこと言わない方が良いだろうし、話を合わせておこう。
「あ、うん、そうなんだよね。結構仲良くしてもらってて……」
「ふーん……ま、いっか。今度もっと詳しく教えてよ。な? 言葉まとまってからでいいからさ」
友人は納得いかない顔をしながらも、ニコッと笑って引き下がってくれた。ほとんど話してあげられなかったのに、それ以上は追求しないでくれるらしい。
……彼といい御園といい、本当に良い人ばかりだな。頭が下がる。
今度はもうちょっと上手く説明できるように考えてこよう。
SNSをほとんど使わない僕は知らなかった。
彼以外の合コン参加者の呟きで、ネット上はちょっとした騒ぎになっていることを。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
貴方の事を心から愛していました。ありがとう。
天海みつき
BL
穏やかな晴天のある日の事。僕は最愛の番の後宮で、ぼんやりと紅茶を手に己の生きざまを振り返っていた。ゆったり流れるその時を楽しんだ僕は、そのままカップを傾け、紅茶を喉へと流し込んだ。
――混じり込んだ××と共に。
オメガバースの世界観です。運命の番でありながら、仮想敵国の王子同士に生まれた二人が辿る数奇な運命。勢いで書いたら真っ暗に。ピリリと主張する苦さをアクセントにどうぞ。
追記。本編完結済み。後程「彼」視点を追加投稿する……かも?
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
傾国のΩと呼ばれて破滅したと思えば人生をやり直すことになったので、今度は遠くから前世の番を見守ることにします
槿 資紀
BL
傾国のΩと呼ばれた伯爵令息、リシャール・ロスフィードは、最愛の番である侯爵家嫡男ヨハネス・ケインを洗脳魔術によって不当に略奪され、無理やり番を解消させられた。
自らの半身にも等しいパートナーを失い狂気に堕ちたリシャールは、復讐の鬼と化し、自らを忘れてしまったヨハネスもろとも、ことを仕組んだ黒幕を一族郎党血祭りに上げた。そして、間もなく、その咎によって処刑される。
そんな彼の正気を呼び戻したのは、ヨハネスと出会う前の、9歳の自分として再び目覚めたという、にわかには信じがたい状況だった。
しかも、生まれ変わる前と違い、彼のすぐそばには、存在しなかったはずの双子の妹、ルトリューゼとかいうケッタイな娘までいるじゃないか。
さて、ルトリューゼはとかく奇妙な娘だった。何やら自分には前世の記憶があるだの、この世界は自分が前世で愛読していた小説の舞台であるだの、このままでは一族郎党処刑されて死んでしまうだの、そんな支離滅裂なことを口走るのである。ちらほらと心あたりがあるのがまた始末に負えない。
リシャールはそんな妹の話を聞き出すうちに、自らの価値観をまるきり塗り替える概念と出会う。
それこそ、『推し活』。愛する者を遠くから見守り、ただその者が幸せになることだけを一身に願って、まったくの赤の他人として尽くす、という営みである。
リシャールは正直なところ、もうあんな目に遭うのは懲り懲りだった。番だのΩだの傾国だのと鬱陶しく持て囃され、邪な欲望の的になるのも、愛する者を不当に奪われて、周囲の者もろとも人生を棒に振るのも。
愛する人を、自分の破滅に巻き込むのも、全部たくさんだった。
今もなお、ヨハネスのことを愛おしく思う気持ちに変わりはない。しかし、惨憺たる結末を変えるなら、彼と出会っていない今がチャンスだと、リシャールは確信した。
いざ、思いがけず手に入れた二度目の人生は、推し活に全てを捧げよう。愛するヨハネスのことは遠くで見守り、他人として、その幸せを願うのだ、と。
推し活を万全に営むため、露払いと称しては、無自覚に暗躍を始めるリシャール。かかわりを持たないよう徹底的に避けているにも関わらず、なぜか向こうから果敢に接近してくる終生の推しヨハネス。真意の読めない飄々とした顔で事あるごとにちょっかいをかけてくる王太子。頭の良さに割くべきリソースをすべて顔に費やした愛すべき妹ルトリューゼ。
不本意にも、様子のおかしい連中に囲まれるようになった彼が、平穏な推し活に勤しめる日は、果たして訪れるのだろうか。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます
当意即妙
BL
ハーララ帝国第四皇子であるエルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララはある日、高熱を出して倒れた。数日間悪夢に魘され、目が覚めた彼が口にした言葉は……
「皇帝なんて興味ねえ!俺は魔法陣究める!」
天使のような容姿に有るまじき口調で、これまでの人生を全否定するものだった。
* * * * * * * * *
母親である第二皇妃の傀儡だった皇子が前世を思い出して、我が道を行くようになるお話。主人公は研究者気質の変人皇子で、お相手は真面目な専属護衛騎士です。
○注意◯
・基本コメディ時折シリアス。
・健全なBL(予定)なので、R-15は保険。
・最初は恋愛要素が少なめ。
・主人公を筆頭に登場人物が変人ばっかり。
・本来の役割を見失ったルビ。
・おおまかな話の構成はしているが、基本的に行き当たりばったり。
エロエロだったり切なかったりとBLには重い話が多いなと思ったので、ライトなBLを自家供給しようと突発的に書いたお話です。行き当たりばったりの展開が作者にもわからないお話ですが、よろしくお願いします。
2020/09/05
内容紹介及びタグを一部修正しました。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる