憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

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不穏な気配(御園視点)

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こういうのは由々しき事態、とでも言うのだろうか。

遊沙は相変わらず様子が変で、ここ最近さらに悪化した。LINEでもあまり話さなくなったし、早めに言えば遊ぶ日の予定も空けてくれることが多かったのに、それもなくなった。遊びを断られて、一緒に帰ろうという誘いすら断られたあの日以来、遊んでもくれないし、一緒に帰ってもくれない。講義の間の休み時間は普通に話してくれるのに、それが終わるとそそくさと帰ってしまう。

どうしてだ? やはり彼女が出来たのか? オレには構えないくらい好きになった相手がいるのか?


オレはいけないことだと分かっていたが、ほんの少し、遊沙のことを探ることにした。
別にストーカー行為をするつもりはないのだが、前から遊沙のスマホにはこっそり探知機能をつけてある。GPSで、彼がその時どこにいるかが分かるというものだ。盗聴機能とかは特にない。
遊沙がクソ野郎どもに襲われてからというもの、オレは彼がまたいつ襲われるかと気が気ではなくなってしまったので、自分の心の安寧と遊沙の安全のために、適当な口上でスマホを借りて登録してしまったのだ。あいつらにはキツめのお灸を据えてやったが、またやらないという保証はない。

遊沙の居場所が分かったからといってその後をつけるとか、そういうことをするつもりはない。ただ、彼が明らかにおかしい場所にいるとか、そういうときに場所が分かれば助けに行ける。前みたいに怪我をさせずに済むのだから。

少しの罪悪感を消すために自分にそう言い聞かせて、オレは遊沙の最近の行動記録を調べる。オレが使っているアプリは親が子供を見守るために作られたアプリで、自分のスマホと繋いだスマホを持っている人の直近数日間の行動を辿ることも出来るのだ。大学のあちこちにある椅子の一つに腰掛けて、遊沙の行動をノートに書き出していく。


遊沙の行動パターンは思いのほか一定だった。
そして、分かったことが一つ。…………遊沙は、あのボロいアパートにはもう住んでいない。その周辺にすら、一度も寄りついていない。
遊ばなくなったから全く気付かなかった。
早くなる鼓動を抑えて、他を辿る。
遊沙は三つの地点を行き来しているだけのようだ。そのうち一つはこの大学で、もう一つはバイト先のスーパー。そして最後の一つはオレの知らない場所。名前的にマンションのようなので、遊沙の新しい住まいだろう。そのマンションがある場所は好立地で、遊沙の厳しい経済力ではとても払えない家賃に違いなかった。そんな場所に、一体どうして移り住んだのだろうか。それもオレには秘密にして。


…………もし本当に彼女なのだったら、オレは引き下がるしかない。あまりに良くなさそうな相手だったら考えるが、そうでなければオレが入る余地なんて一分いちぶもないだろう。

遊沙はあまり目立たない人だけど、顔は整っている方だ。無論オレは世界一可愛くて顔が良いと思っているが。
長めの髪はさらさらだし、目は形が良くて、その黒い瞳は無感情さがより綺麗さをかき立てる。加えてあの性格だ。不器用だけど優しくて、気配りが出来て、でも何処か抜けていて。その素朴な魅力に気付く人は少ないけれど、気付いた人は友人的な意味できっと好きになるだろう。……だから、その相手が女性の場合、恋心に変わってもおかしくない。男のオレですら好きになってしまったのだから、女性で親しくなれば尚更だろう。それが分かっていたので、いつかこうなる日が来るだろうと予想はしていたけど。いざそうなると、とても複雑な気分だ。


…………どんな相手なのだろう。大切な人の相手をする人だから、変な相手では困る。余計なお節介なのは百も承知だが、確認するだけなら問題ないだろう。今日は教授が風邪を引いて休講になったので、丁度時間も空いていることだし。もしかしたら彼女なんかじゃなくて、親戚の家とかかもしれないしな。


†――――――――――――――――――――†


なん……だよ、このマンション…………! こんなの「マンション」とかそんなレベルじゃねえよ! どこの高級ホテルだよ! 

好立地だとかそんな理由とは比べものにならないほど高そうな、そして建物自体もかなり高いそれを目にして、オレは心の中で叫んだ。
想像していたのはコンクリート製で灰色とか茶色をした四角い建物だ。それがどうしたことか、目の前にあるのは白くてよく分からない素材で出来た、宮殿みたいな建物だった。どう足掻いても一般人には住めない様相をしている。
遊沙のやつ、一体どんな彼女or親戚と一緒に住んでいるのだろう。彼女だとしたらものすごい玉の輿だ。

セキュリティがしっかりし過ぎて中に入ることすら出来なかったので、相手を確認することは出来なかった。これはまた今度だな。…………本当は本人に聞くのが一番早いのだけど。そうホイホイ聞けるかってんだ。

まあ、こんなところに住める人間なんて限られているし、もし遊沙が今までに出会った相手ならば、特定するのは簡単だろう。
詰まるところ金を持っていそうなやつか有名人とかで遊沙の知り合いを探ればいいわけだが、もしオレが知らないやつだったとしたら、もう諦めよう。遊沙の人生だ、オレがどうこうするのも良くない。


ふと、条件に該当しそうな人間の顔が脳裏に浮かんだ。それは水色の長髪を掻き上げて、妖艶な笑みを見せる人物。
……いや、まさか、な。遊沙との接点なんて微々たるものだったようだし。あり得ないさ。

そうは思うものの、考えれば考えるほど色々つじつまが合ってしまい、そいつの顔が心に暗い影を落とすのだった。
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