憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

文字の大きさ
上 下
8 / 142

嘘には嘘を Ⅰ

しおりを挟む
僕が目を覚ますと、どうやら病院のようだった。
身体中が痛いことを考えると、まだ生きているらしい。

僕を助けてくれたのは冴木さんという人で、たまたま通りがかった際に僕を見つけてくれたという。
今どき、そんないい人もいるんだなあと他人事のように思った。

お医者さんには体に問題はないと言われた。僕は案外頑丈なのかもしれない。

冴木さんにも警察の人にも、あの3人は知り合いかと聞かれた。僕は同級生だと答えようとしたが、その時ふと“あの事件”のことを思い出した。彼らが同級生だと分かれば、警察の人は学校のことを調べるだろう。そうすれば、僕がどんなレッテルを貼られていたかがバレてしまう。

……事情を知らない警察の人にまで助平なやつだと誤解されるのは嫌だった。もしかしたら冴木さんにまで伝わってしまうかもしれないし、それは絶対に避けたかった。

社会的死は実際の死よりも何倍も怖いことを、僕は知っている。
嘘をつくのは嫌だが、僕の安寧のためには仕方がなかった。

警察の人が帰った後に、冴木さんから親に連絡するように言われた。
僕はスマホを開いて通知を確認する。すると、御園から大量にLINEとメールが来ていた。思わず声をあげてしまう。

内容は、

『もう家帰った? 課題教えて欲しいんだけど』
『もう寝た?』
『返信ないし、今日学校にも来てないけど、何かあった?』
『遊紗? 大丈夫?』
『不在着信』
『不在着信』
『不在着信』

といった感じだ。
僕はLINEに気付いたらすぐ返すタイプなので、余計不審だったのだろう。

御園にはこれ以上心配をかけたくないので、

『ごめん、ちょっと階段から落ちちゃって(^_^;』
『怪我したから病院行ってるんだ』
『たいしたことないからしんぱいしないで』

と送っておいた。左手しか使えないのでかなり時間がかかった。不便だ。
冴木さんは親に電話するべきだと言ってくれたが、僕はやんわり断った。
僕の親は、僕が高校一年生の時に交通事故で他界している。これだけ迷惑をかけているのだし、これ以上気を遣わせるようなことは言わなくていいだろう。

そんなことよりもバイト先に迷惑がかかる方が心配だった。入院費や治療費は親が遺してくれた貯金を切り崩して何とかするとして、僕の生活費がなくなるのは本当に困る。こういう有事の時のために貯金は残しておきたいし、これ以上使えない。
バイト先にも同じ内容のメールを送り、迷惑をかけて申し訳ないという謝罪文も付け足した。

全く、どんだけ暴行してくれてるんだよ。
憂さ晴らしをしたいのは分かるが、もう少し手加減というものを覚えて欲しいものだ。
入院着をめくってみると、痣やらカッターの切り傷やらがたくさん付いていて、気絶した後散々やってくれたな、という感じだった。
普通は怒るところなのかもしれないが、わざわざ彼らに怒りに行く気力も体力もない。

僕はため息をついて、布団に潜り込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

(完結)婚約破棄ですか…いいでしょう!! おい国王! 聞いていましたね! 契約通り自由にさせてもらいます!!

にがりの少なかった豆腐
恋愛
※この作品は過去に投稿していた物を大幅に加筆し修正した物です 追加閑話完結しました 貴族や平民などの立場に関わらず、保有する魔力の量が多いほど偉いと言う世界。   しかし、長い時間が流れその認識は徐々に薄れて行った。 今はただ、魔力を多く保有しているのは貴族に多く、そのため魔力を多く保有していると言うよりも貴族であるからこそ偉いと言う認識が広がっているのだ。  そんな世界に平民でありながら、保有する魔力が異常な程多く生まれ持っていたレイアは、国の意向で無理やり王子と婚約させられていた。 本音を言えば拒否したかったレイアではあるが、いくら魔力を多く保有しているとはいえ平民の出である以上、貴族主義の国の意向に逆らうことは出来ないため、国王と話し合った上で渋々その婚約を受け入れていた。 そんな中、国王も出席している会食でいきなり王子から直接、婚約破棄を突き付けられる。 理由は、レイアが平民出身だから。 周りが騒めきに包まれている中、王子はレイアを見下しながら一人の令嬢を自身の隣に招く。そして何故か濁った瞳を大きく開いて宣言した。 「お前との婚約を破棄し、俺はお前の義妹であるアイリと婚約する!」 しかし、レイアはそれを聞いて内心では歓喜していた。 「おい国王! 聞いていましたね! 契約通り私は自由にさせてもらいますね!!」 レイアは王子と婚約する際に、賭けとして国王と契約していたのだ。 契約内容は、正式に婚姻する前に王子が私情で婚約破棄を宣言した場合、レイアが自由にしても良いという物。 国王との賭けに勝ったレイアは、今まで自由にできなかった時間を取り戻すかのように、自由気ままに行動を開始するのであった。 ※この世界での王族は、広い意味で貴族扱いです。 読んでくださった方も、見に来てくださった方もありがとうございます 2023.02.14 9時〜2023.02.15 9時 HOTランキング1位にランクインしました。本当にありがとうございます!

王太子殿下の願いを叶えましょう

cyaru
恋愛
王太子ルシアーノにはアリステラという婚約者がいたが、ルシアーノはジェセニアに一目で心を奪われてしまった。 婚約の解消を目論むルシアーノは夜会でアリステラに仕掛けたのだが返り討ちにあって廃嫡寸前まで追い込まれてしまう。 かたやアリステラは「殿下の願いを叶えましょう」と婚約解消に同意し、遠い田舎、叔父(母の弟)が管理する不毛の地にさっさと出立してしまった。 挽回しようにも窮地に追い込まれるルシアーノ。 「やはりアリステラでないと無理だ」と策を練る。 一方、田舎でのんびり生活を満喫するアリステラの元に土煙をあげながら早馬でやってきた男がいた。 ☆例の如く思いっきり省略した内容紹介です。 ☆酷暑が続きます。屋内でも水分補給をお忘れなく。 ☆完結後になりましたが10万字を超えているので長編に変更しました。 注意事項~この話を読む前に~ ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。舞台は異世界の創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜

高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。 フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。 湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。 夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

処理中です...