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第12話:決戦ダンノウラ
Act-05 同族嫌悪
しおりを挟む矢合わせの様な両軍の艦砲射撃が終わり、ウシワカが戦線に到着した時には、すでに機甲武者戦が開始されていた。
梶原カゲトキの空母から発進した源氏軍のガシアルGは、ボート状の海戦リフターに乗り、海面すれすれをホバーで浮遊しながら機関砲を放っている。
対する平氏軍は、同じく海戦リフターに乗るガシアルHに加えて、水陸両用機甲武者カイトが海中に潜行しながら、三叉槍トライデントで海上の敵を狙っていた。
この機甲武者戦を制した方が、その戦力を敵艦隊に向け投入できる。
艦砲射撃に加え、小回りのきく機甲武者に遊撃された側は圧倒的不利になるため、両軍共にこの戦闘を落とす訳にはいかなかった。
空から見下ろす戦場は、やはり海戦慣れした平氏が優勢に戦を進めている。
陸戦用のガシアルは、リフターから落ちれば復帰が望めないため、カイトはそこに狙いを定め、次々と源氏軍を海に叩き落としていた。
「こいつ!」
水面から顔を出したカイトに、ウシワカは飛行形態のシャナオウからキャノン砲を放つ。
想定外の空からの砲撃に、それをまともに食らったカイトが、機体を吹き飛ばされながら海に沈んだ。
「ウシワカ、次!」
水面に見える影を指差し、ベンケイが声を上げる。
いくら水陸両用といっても、カイトも深海に潜れる訳ではないので、潜水する影をベンケイに捕捉され、それをウシワカが撃つというコンビネーションであった。
効率のいいピンポイント攻撃で、今度は平氏軍の機甲武者が次々と撃破されていく。
その中でウシワカは、次第に変化を見せる潮流に目を止めた。
(やはり潮の流れは変わる。だから平氏は戦を急いでいたんだ)
まだ向かい潮だが開戦時に比べれば幾分、波はやわらいできた様に見える。
海戦では、追い潮に乗った方が有利である。
なので自軍に有利な状況下で戦を始めた、平氏の挑発に乗せられたカゲトキの采配はやはり考えものだったが、ここで発想を転換できるのがウシワカの強みであった。
――有利な状況で受けた打撃は、ショックが大きい。
今ここで平氏軍を叩けば、その士気は間違いなく低下する。かつそこで潮流が逆転すれば、その絶望感は計り知れないはずであった。
潮流が追い潮に変わったら、一気に平氏軍の母艦まで突撃する。
そこでサウザンドソードを打ち、平ムネモリをはじめとする平氏首脳を、まとめて討ち取るというのがウシワカの戦術プランであった。
これは、それに繋がる千載一遇の好機。
そうとなれば、この機甲武者戦を派手に勝った方が印象操作ができる。
天才戦術家の頭脳は、凄まじい速度で戦場という盤面を俯瞰した。
だが、その演出を挫く存在が登場した。
それは平氏のカラーである赤地に、美々しい金色の装飾を施した一機のカイト――皇女アントクの機体であった。
「不浄の存在、源氏。許しません!」
咆哮と共にアントクは、海戦リフターに乗ったカイトを交戦エリアに突入させる。
そして二十ミリ機関砲を乱射すると、それが再び源氏軍のガシアルを海に沈めていった。
「チッ!」
攻勢に転じた矢先に反撃を食らい、ウシワカは舌打ちする。
その間もアントクは見事な操縦技術で、カイトを源氏軍の中に滑り込ませると、リフターを海上でスピンターンさせ、なんと三百六十度射撃という離れ業を演じて見せた。
アントクの赤いカイトを中心に、花が開くように倒れていく白いガシアルたち。
それに源氏軍が戦慄する中、上空のウシワカだけは違った思いを抱いていた。
「虐殺じゃないか――」
小さく呟く。
「ウシワカ……」
背中越しのベンケイも、その思いを共有していた。
戦争というのは、あくまで政策遂行上の一つの手段である。
そこに命のやり取りという側面がある以上、それによる犠牲は極力抑えるべきであり、そのための戦術であり戦略のはずであった。
ウシワカもこれまで数々の悪辣な手段を用いてきたが、彼女の最大効率を目指す戦術は無意識のうちに、その犠牲を最小に抑える結果となっていた事も事実である。
それを様式美といえば、まるで戦争狂の様であるが、少なくともウシワカの目に映るアントクの戦い方は『殲滅戦』であり、生理的にも許容できなかった。
「いいかげんにしろ、お前は!」
不愉快極まりないとばかりに、ウシワカがシャナオウのキャノン砲を撃つ。
それに気付き、急速回避をはかったアントクが、
「来たな、源ウシワカ! 今日こそはお前を殺す!」
と叫び返す。二人の意識は、ここでもまた感応していた。
「お前は生きていてはいけない存在。死ね死ね死ねーっ!」
上空を旋回するシャナオウに向かい、二十ミリ弾を乱射するアントク。
よく見れば、カイトは両手に機関砲を持っている。それでいてリフターも操作している曲芸の様な操縦技術は驚愕に値した。
ウシワカは上空からキャノン砲の火力で勝負したいが、シャナオウの航路を先読みする様なアントクの射撃に、とてもではないが照準が合わせられない。
――これは、こちらも人型形態に変形しないと不利だ。
そう思うが、下手に空中で変形をしてしまえば、飛行形態の様な速度を出せない人型形態では、上空で格好の的になる。
苛立つウシワカだったが、そこに好機が訪れた。
「――あっ⁉︎」
慌てた声を上げるアントク。カイトの両手撃ちの機関砲が、同時に弾切れを起こしたのであった。
(素人が! 残弾も計算せずに、撃ちまくるからだ)
この一瞬の隙にウシワカは、主を失い海上に浮く友軍のリフターに着地点を定め、シャナオウを人型形態に変形させる。
「させるものか!」
急ぎ片方の機関砲を捨て、カイトに予備マガジンを装填させたアントクだったが、もう遅かった。
海戦リフターを駆るシャナオウは、もうすでに目の前に迫っていたのである。
「ひっ!」
恐怖の声を発する、アントクの体に衝撃が加わる。
それはすれ違いざま、シャナオウがカイトに放った蹴りのためであった。
リフターから吹き飛ばされ、海へ落ちていくアントクのカイト。
それを冷たく見つめるウシワカの目は、激しい嫌悪感に満ちていた。
ゴシラカワ帝を母に持つウシワカ。ゴシラカワの弟、タカクラ帝を父に持つアントク――二人は従姉妹同士であった。
そしてゴシラカワ、タカクラの母はタマモノマエであり、すなわちウシワカとアントクは、共にその孫娘でもあった。
互いに皇位継承権さえ持つ皇女ながら、なんの因果か二人はその支族である、源氏と平氏を代表する魔導武者として戦っている。
それも二人に流れる、タマモノマエの狂気の血がなせる業なのだろうか。
「クックックッ、妾の孫娘同士が殺し合っておる……さて、どちらが勝つかのう」
ヘイアン宮の皇帝御座所で戦況を眺める、ゴトバ帝ことタマモノマエが妖しく笑う。
そのダンノウラの海から、アントクのカイトが浮上した。
「ウシワカ、ウシワカーっ! 許さないぞ!」
狂気の血を覚醒させながら叫ぶアントク。
だがアントクが昂ぶれば昂ぶるほど、ウシワカの心は反対に、まるで汚らわしいものでも見る様に冷めていくのだった。
Act-05 同族嫌悪 END
NEXT Act-06 御座船突入
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