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第12話:決戦ダンノウラ
Act-02 心象風景――源ヨリトモ
しおりを挟む源ヨリトモ。
源氏嫡流として、亡き父ヨシトモの後を継いだ若き女棟梁。
彼女のこれまでの人生は、苦悩と試練の連続だった。
父ヨシトモのヘイジの乱による敗死。その時カマクラに残されたヨリトモは、まだ七歳の少女だった。
それからツクモ神マサコと共に、平氏の追求から逃れ続けた逼塞の日々。
その中でヨリトモは、魔導武者の資格である魔導適性を持たない――戦乱の世において無力な――自分を『人間』として鍛え上げた。
時は流れ平氏の凋落と共に、その反抗勢力の旗頭として祭り上げられたヨリトモ。
だが魔導適性を持たない身で、魔導武者の上に立つ彼女に向けられた視線は冷たかった。
蔑みに対して、驕る事なく、謙る事なく――無表情を貫く。
ヨリトモが選んだ処世術は、まだ二十歳を少し過ぎたばかりの乙女らしからぬ、達観を帯びた老獪さであった。
世界の大多数は英雄ではなく、ただの凡人である。
それをヨリトモは知り抜いていた。
戦乱の世に、救国の英雄にならんとする野心など微塵もない。
――ただ己に課せらた役割を果たすのみ。
そのために彼女は、積み上げた粛清の上に源氏をまとめ上げ、さらには王となった。
すべては人のため。自分と同じ力なき凡人のため。
母違いの妹、ウシワカ。
平氏討伐戦の中でめぐり会えた、たった一人の肉親。
その輝きに胸を高鳴らせた。
己を凌駕する天賦の才に畏怖を覚えた。
そして、人の領分を超えたその存在に恐怖した。
血縁のみを優遇した、平氏の轍を踏まぬ事を建前に、ヨリトモは妹を冷遇した。
――一族を切り捨てる事でしか生きられない源氏の宿業。
無意識にヨリトモは、それを避けたかったのかもしれない。
平氏を討ち、源氏一統を果たし人間の世を作る。
そこに生きるのは魔導武者ではない。
葛藤の末、辿り着いた結論。
その事に誰よりも苦しんでいたのは、ヨリトモ自身であった。
そして彼女が送った源氏軍は、西海ダンノウラに平氏を追い詰めていた。
もう迷いはしない。
でも、もし戦乱の世でなかったら。
無力を刃に変えた偉大なる凡人――源ヨリトモの心の叫びは、誰にも届かない。
Act-02 心象風景――源ヨリトモ END
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