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第11話:シズカゴゼン
Act-08 ヤシマ開戦
しおりを挟む「じゃあ、トキワは……⁉︎」
まだ言葉を発する事ができないマサコとトキタダをおいて、ベンケイが叫んだ。
だがシズカは悲しげな目をするだけで、何も答えない。
「タマモノマエ? 母さん?」
まだタマモの事を知らないウシワカは、それが母と何の関係があるのか分からず、怪訝な顔をする。
確かにタマモの真相を知らないウシワカだけが、ここまで話についてこれない状況であった。
それを察したシズカゴゼンが、ウシワカに向かい手をかざすと、そこに映像が現出する。
「トキワ……私は今から、あなたのお母さん――タマモノマエを討ちにいくわ」
それは、幼き頃のトキワにそう言い残し、当時皇后だったタマモに挑むベンケイの姿。
そしてタマモの強大な魔導力に敗れ、御座所の玉座の上に装飾のごとく埋め込まれてしまう一部始終だった。
「私を傀儡にしようと思われたのでしょうが――存外、母上も甘うございましたな」
「トキワ⁉︎ 貴様ーっ!」
続けて映し出されたのは、皇帝即位のタイミングで、国母の地位にあったタマモを御座所に呼び寄せ、一瞬の隙を突いて赤い石を打ち込むトキワの姿。
「ベンケイ、待たせたな!」
そしてトキワが、玉座の上に封印されたベンケイを引きずり出し、そこに入れかわる様にタマモの体を投げ込み封印する模様であった。
まるで一条の絵巻物の様な、ベンケイと母トキワの壮絶なる過去。
それを早回しで見せられたウシワカは言葉を失った。
だが母が何と戦っていたのかは、おぼろげながら理解できた。そしてベンケイ封印の過去も。
その時ウシワカの隣にいるベンケイは、「トキワ……トキワ……」と、抑えきれない感情に涙を流し続けていた。
シズカが再び語り始める。
「シラカワは私の警告を無視し、異星の天使の力を我がものにせんと、タマモを皇統と交わらせた。その災厄を止めるべく、ツクモ神ベンケイはタマモに挑み敗れ、その思いを受け継ぎしトキワはゴシラカワとなり、人の身でタマモを討ち取らんとしてくれた……だから私はヨシツネが遺した魔導具――殺生石をトキワに託したのです」
トキワがタマモに打ち込んだ赤い石。それこそが殺生石であった。
「だが殺生石は、命と引きかえの封印具。トキワはそれを承知で、己の命が尽きるまでにヒノモトを一つにして……三種の神器を発動させようとしたのです」
惑星ヒノモトの地神を名乗るシズカゴゼンは一方的に語り続けると、さらなる通告をツクモ神たちに与える。
「朝廷、源氏、平氏のツクモ神よ。私の可愛い子供たち――人間は今、一つになれますか?」
シズカの言葉に互いを見つめ合う、三人のツクモ神。
だが誰一人として、口を開く事ができない。
ヒノモト和合のためとはいえ、これまでなりふり構わず源平を翻弄し続けた朝廷。
万策を尽くした末、すでに自らによる一統を決意した源氏。
そして、その二つの勢力にこれまで裏切り続けられた平氏。
彼女たちツクモ神が属する各勢力は、様々なすれ違いを経て――皮肉にも今、最悪の状況となっていると言っても過言ではなかった。
それを悟ったシズカは、最後の言葉を放つ。
「分かりました。では私はヨシツネと共に、時が満ちるのを待ちましょう。人としての――『決着』をつけてくるのです」
その瞬間、霊脈に包まれた時空は歪み、目が眩むほどのまばゆい閃光が一同の視界を奪った。
そして、気がつくとマサコはロクハラベースの司令室にいた。
「どうした、マサコ?」
声をかけるヨリトモが、怪訝な顔をしている。
どうやら、シズカゴゼンに招かれた者以外の時間は止まっていたらしい。
それと同時に、これが夢でも幻でもなかった事を確信したマサコは、
「ヨリトモ、ロクハラを固めて。それとカマクラに撤退する準備を始めて!」
と、タマモノマエ復活に対する対応を急ぐべく、矢継ぎ早にヨリトモに向かってそう言った。
一方、神器『ヤタの鏡』を依り代に、機甲武者カラスの錬成にかかっていたトキタダは、
「ちいっ、このタイミングでかい」
イツクシマに戻されると、まだ半分しかその錬成が進んでいない状況での、タマモの復活に舌打ちした。
「どうした、トキタダ?」
隣にいるトモモリが不思議な顔をしている。やはりここでもトキタダ以外の時は止まっていたのだ。
「トモモリ……タマモが復活した様だ」
「何、本当か⁉︎」
「悪いけど、このカラス……未完成のまま、実戦投入しなくちゃならないかもしれない」
そう言ってトキタダは険しい顔で、目の前にそびえる漆黒の巨体を見上げた。
そして、ヤシマを目指す空母にいたウシワカとベンケイの時間も動き出す。
ヨリトモやトモモリと違い、ウシワカはベンケイと一緒にシズカのもとに招かれ、そこでトキワとベンケイの、タマモとの因縁の過去を知ってしまった。
「ウシワカ、タマモの事だけど――」
意を決し、その事を切り出すと、
「タマモ……なんの事?」
意外な返答にベンケイは驚いた。
もしやウシワカがあの場に召喚されたのは、トキワの危難に際してその娘であった事に感応した、偶発的な事故だったのかもしれない。
神の眷属ならざるウシワカは、その証拠にあの場での記憶が残っていないらしい。
それに胸をなでおろした瞬間、
「決着を――『人としての決着』をつけなきゃならない」
ウシワカが発した言葉に、ベンケイは思わず戦慄した。
「う、ウシワカ……どうしたの?」
人しての決着。それは間違いなくシズカゴゼンが最後に言った言葉だった。
「何かが……そう言っていた。そんな気がするんだ――行かなくちゃ!」
そう言い終えるとウシワカは、甲板のカタパルトにセットされているシャナオウに向かって駆け出した。
そして飛行形態のシャナオウが、まだ明けきらぬ夜空に向け発進する。
――惑星の地神であるシズカゴゼンの突然の登場。
それによりヒノモトは、朝廷、源氏、平氏、それぞれのツクモ神の思いを超え、一つになれない人類による決着の道を余儀なくされた。
こうして終幕の前章、ヤシマの戦いは、またもや源ウシワカという少女によって、その戦端が開かれる事となったのである。
Act-08 ヤシマ開戦 END
NEXT Act-09 予感
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