神造のヨシツネ

ワナリ

文字の大きさ
上 下
44 / 97
第8話:夢の果て

Act-03 木曽軍無残

しおりを挟む

 木曽ヨシナカが、キョウトに帰還した。

 だが、それは凱旋軍ではなく、フクハラでの平氏軍との戦闘に大敗した、見るも無残な敗軍であった。

 強行軍の末、平氏の都落ちを捉えた、あの颯爽たる白の軍団――それが今やボロ布の様に、みすぼらしい姿になり果てている。

 百機近かった機甲武者ガシアルGも半分以下の機体数になり、戦闘車両、歩兵の姿もまばらになっている――すべてフクハラの戦闘で戦死したのであった。

 軍の中央にいる大将、木曽ヨシナカとその妻トモエの駆る新型機甲武者バキも、その腕に構えるランサーを引きずる様にして進んでいた。

 なぜ、あれほどの威容を誇った木曽軍が、ここまでの姿に成り果てたのか――

 
 
 ヨリトモ率いる源氏本軍が、首都キョウト南方、ヤマトの掃討戦を開始した数日後――皇帝ゴシラカワから、木曽ヨシナカに勅命が下った。
 
 ――西方フクハラに落ちた、朝敵平氏を急ぎ追討せよ、と。
 
 それはキョウト守護――すなわち皇室の守護者に任じられた者として、当然の責務であった。

 かつてたいらのキヨモリは、ホウゲンの乱、ヘイジの乱という朝廷の内乱で、勝者側を完璧に守護した事により、国家権力の代行者としての地位を認められた。
 いかに権力簒奪といえど、そこには『権利』に対する『義務』が存在していたのである。

 それをヨシナカにも果たせと、ゴシラカワは命じたのだ。

 だがヨシナカには問題があった――補給がままならなかったのである。

 本拠地キソから――みなもとのヨリトモを出し抜くために――常軌を逸する行軍速度でキョウト入りしたものの、キョウトの物資は平氏がすべて持ち去っていた。
 その時点で木曽軍はもう限界であった。

 兵員の食料、車両の燃料、そして兵器の弾薬。機甲武者も大地の霊脈が動力源とはいえ、それを科学力で駆動させているからには整備は必要になる。
 なにより機甲武者を操るのは魔導武者であり――人は疲れれば休まなければならないし、腹が減れば力も発揮できない。

 木曽軍はボロボロの状態で、その疲れを癒す術もなく、首都キョウト守護という『からの器』を与えられ――その代償の『義務』を果たさなければならなくなったのである。

 道は二つあった。

 一つはキョウト守護の任を辞退する事。それはすなわち、その後任となる源氏本軍――みなもとのヨリトモの風下に立つという事を意味する。

 だが、時節を待つというのであれば、それも悪い手ではなかった。キョウト一番乗りの威光は消えるものではないし、今後の政局次第では次のチャンスがこないとも限らないが――次のチャンスがくるという保証も、もちろんなかった。

 だからヨシナカは二つ目に賭けた。

 それは平氏の本拠地、西方フクハラに乾坤一擲の攻撃を仕掛け、朝敵討伐と物資略奪を一気に成し遂げる事であった。

 手に入れた栄光を手放してなるものか――その一念でヨシナカは決断した。疲労困憊の木曽軍将兵も、皆ヨシナカに同意した。
 ヨシナカのためなら――伊達男ながら、配下を家族の様に慈しんだヨシナカは、同時にすべての将兵に愛されていた。
 
 だから、みんなで夢を見たのだ――平氏を打ち破り、キョウトに凱旋して、真の天下人となったヨシナカと木曽軍の姿を。

 
 だが現実は残酷であった。ヨシナカは負けた。

 
 空腹と疲労に歯を食いしばり、西に出陣した木曽軍を迎え撃った平氏の陣容は万全であった。

 平氏の本拠地フクハラベースは、先代キヨモリが惑星ヒノモトの副都として建設した一大要塞であり、俗に城攻めには籠城軍の十倍の兵力が必要という要件を、木曽軍はまず満たしていなかった。

 それに加えて、フクハラベースには平氏が西方の遺跡から発掘した新型機甲武者――ヒノモト初の水陸両用機『カイト』がロールアウトされており、それを駆るのは平氏最強の魔導武者、たいらのトモモリの部隊であった。

 トモモリにしてみれば、都落ちの背後を突かれ、屈辱的敗北を喫した相手が進攻してきたと聞き、その敵戦力を分析した上で、野戦で迎え撃つべく布陣した。

 そして戦端が開かれ――木曽軍は東方の軍が得意とする機動戦で、平氏軍の前衛を突き崩すべく突撃した。

 だが平地の多い東方と違い、西方は海から注ぎ込む幾重の大河による湿地帯で形成されており、それが木曽軍の機甲武者の足を鈍らせた。

 対する平氏のガシアルHは、湿地用チューンが万全であり、木曽軍のガシアルGに対して好位置を取り続け、面白い様に二十ミリ機関砲を命中させ続けた。

 全長八メートルの機甲武者が倒れる姿は、その大きさと比例して木曽軍の士気を大きく下げた。
 次第に戦場は、源氏の白い機甲武者が地に転がり続け、平氏の赤い機甲武者が完全に主導権を握る展開となった。

 機甲武者ばかりでなく、戦闘車両も整備不良の木曽軍は、歩兵を支援する事もままならず、ヨシナカの天下を夢見た兵たちが、一人また一人と倒れていった。

 死しても、霊脈として大地に吸い込まれ、跡形もなく消えるヒノモトの人間は――屍が残らない分、戦場ではそれは悪夢を見る様であった。

 その時、ヨシナカも悪夢を見ていた――なんとこの局面で、彼が頼みとしていた人馬型機甲武者、バキがオーバーフローを起こしたのである。

 ヨリトモの腹心、大江おおえのヒロモトが指摘していた――四本足の異形の形態に、その動力である霊脈を回し切るシステムが不完全であるという問題は、今ここで現実のものとなった。

 ここまで無理に無理を重ねて、ヨシナカの魔導力を頼みに、回らないタイヤを引きずる様に戦場を駆けてきたバキ。
 だがその霊力変換システムは、ヨシナカの強大な魔導力の要求と、その複雑な機体構造の解析に、ついにその演算能力の限界値を超え、機能を停止した。

「おい、どうした⁉︎ 動け、動け!」

 味方が――いや家族といってもいい仲間たちが倒れていく中、ヨシナカはそれを救いにいけない現実に叫んだ。



Act-03 木曽軍無残 END

NEXT  Act-04 日食
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

生き抜きたいのなら「刻」をみがけ

たぬきち25番
歴史・時代
『生き抜きたいのなら「刻(とき)」をみがけ』 『刀』という道具が歴史を変えたことは間違いない。 人々が刀と出会い、刀を使い始めた時代。 そんな時代に生きた異才研師の鉄。 物言わぬ刀が語る言の葉を紡げる鉄が、背負った使命は人々が思う以上に大きかった。 職人気質で人のよい研師『鉄』と、破天荒なのになぜか憎めない武士『宗』 そんな2人の物語。 ※表紙は、たぬきち25番撮影

セルリアン

吉谷新次
SF
 銀河連邦軍の上官と拗れたことをキッカケに銀河連邦から離れて、 賞金稼ぎをすることとなったセルリアン・リップルは、 希少な資源を手に入れることに成功する。  しかし、突如として現れたカッツィ団という 魔界から独立を試みる団体によって襲撃を受け、資源の強奪をされたうえ、 賞金稼ぎの相棒を暗殺されてしまう。  人界の銀河連邦と魔界が一触即発となっている時代。 各星団から独立を試みる団体が増える傾向にあり、 無所属の団体や個人が無法地帯で衝突する事件も多発し始めていた。  リップルは強靭な身体と念力を持ち合わせていたため、 生きたままカッツィ団のゴミと一緒に魔界の惑星に捨てられてしまう。 その惑星で出会ったランスという見習い魔術師の少女に助けられ、 次第に会話が弾み、意気投合する。  だが、またしても、 カッツィ団の襲撃とランスの誘拐を目の当たりにしてしまう。  リップルにとってカッツィ団に対する敵対心が強まり、 賞金稼ぎとしてではなく、一個人として、 カッツィ団の頭首ジャンに会いに行くことを決意する。  カッツィ団のいる惑星に侵入するためには、 ブーチという女性操縦士がいる輸送船が必要となり、 彼女を説得することから始まる。  また、その輸送船は、 魔術師から見つからないように隠す迷彩妖術が必要となるため、 妖精の住む惑星で同行ができる妖精を募集する。  加えて、魔界が人界科学の真似事をしている、ということで、 警備システムを弱体化できるハッキング技術の習得者を探すことになる。  リップルは強引な手段を使ってでも、 ランスの救出とカッツィ団の頭首に会うことを目的に行動を起こす。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

データワールド(DataWorld)

大斗ダイソン
SF
あらすじ 現代日本、高校生の神夜蒼麻は、親友の玄芳暁斗と共に日常を送っていた。しかし、ある日、不可解な現象に遭遇し、二人は突如として仮想世界(データワールド)に転送されてしまう。 その仮想世界は、かつて禁止された「人体粒子化」実験の結果として生まれた場所だった。そこでは、現実世界から転送された人々がNPC化し、記憶を失った状態で存在していた。 一方、霧咲祇那という少女は、長らくNPCとして機能していたが、謎の白髪の男によって記憶を取り戻す。彼女は自分が仮想世界にいることを再認識し、過去の出来事を思い出す。白髪の男は彼女に協力を求めるが、その真意は不明瞭なままだ。 物語は、現実世界での「人体粒子化」実験の真相、仮想世界の本質、そして登場人物たちの過去と未来が絡み合う。神夜と暁斗は新たな環境に適応しながら、この世界の謎を解き明かそうとする。一方、霧咲祇那は復讐の念に駆られながらも、白髪の男の提案に悩む。 仮想世界では200年もの時が流れ、独特の文化や秩序が形成されていた。発光する星空や、現実とは異なる物理法則など、幻想的な要素が日常に溶け込んでいる。 登場人物たちは、自分たちの存在意義や、現実世界との関係性を模索しながら、仮想世界を揺るがす大きな陰謀に巻き込まれていく。果たして彼らは真実にたどり着き、自由を手に入れることができるのか。そして、現実世界と仮想世界の境界線は、どのように変化していくのか。 この物語は、SFとファンタジーの要素を融合させながら、人間の記憶、感情、そしてアイデンティティの本質に迫る壮大な冒険譚である。

悲恋脱却ストーリー 源義高の恋路

和紗かをる
歴史・時代
時は平安時代末期。父木曽義仲の命にて鎌倉に下った清水冠者義高十一歳は、そこで運命の人に出会う。その人は齢六歳の幼女であり、鎌倉殿と呼ばれ始めた源頼朝の長女、大姫だった。義高は人質と言う立場でありながらこの大姫を愛し、大姫もまた義高を愛する。幼いながらも睦まじく暮らしていた二人だったが、都で父木曽義仲が敗死、息子である義高も命を狙われてしまう。大姫とその母である北条政子の協力の元鎌倉を脱出する義高。史実ではここで追手に討ち取られる義高であったが・・・。義高と大姫が源平争乱時代に何をもたらすのか?歴史改変戦記です

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

DEADNIGHT

CrazyLight Novels
SF
総合 900 PV 達成!ありがとうございます! Season 2 Ground 執筆中 全章執筆終了次第順次公開予定 1396年、5歳の主人公は村で「自由のために戦う」という言葉を耳にする。当時は意味を理解できなかった、16年後、その言葉の重みを知ることになる。 21歳で帝国軍事組織CTIQAに入隊した主人公は、すぐさまDeadNight(DN)という反乱組織との戦いに巻き込まれた。戦場で自身がDN支配地域の出身だと知り、衝撃を受けた。激しい戦闘の中で意識を失った主人公は、目覚めると2063年の未来世界にいた。 そこで主人公は、CTIQAが敗北し、新たな組織CREWが立ち上がったことを知る。DNはさらに強大化しており、CREWの隊長は主人公に協力を求めた。主人公は躊躇しながらも同意し、10年間新しい戦闘技術を学ぶ。 2073年、第21回DVC戦争が勃発。主人公は過去の経験と新しい技術を駆使して戦い、敵陣に単身で乗り込み、敵軍大将軍の代理者を倒した。この勝利により、両軍に退避命令が出された。主人公がCREW本部の総括官に呼び出され、主人公は自分の役割や、この終わりなき戦いの行方について考えを巡らせながら、総括官室へ向かう。それがはじまりだった。

処理中です...