神造のヨシツネ

ワナリ

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第7話:源氏という家族(後編)

Act-05 疑念

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 並走するカイソンたちの、機甲武者談義が熱を帯びていた最中――

 シャナオウを走らせるウシワカは、そのコクピットで、部隊の中軍にいる姉ヨリトモの事を考えていた。

 本陣に呼ばれ従軍を許可された時、それを告げた姉の声は冷たくはないが、暖かいものでもなかった。ウシワカはその事に、ずっと囚われ続けていた。

 姉妹の名乗りを上げ、兄弟剣である父の遺品のヒゲキリとヒザマルを共にかざした時の、あの優しかった姉は、どこにいってしまったのだろうか、と。

 ここでウシワカに分別があれば、出兵において大将が、その公私の区別をつけたとも考えられただろうが、生憎そういった機微に致命的に疎いこの少女は、

 ――私はお姉ちゃんの妹なんだから。

 という一点のみで、棟梁の妹とはいえ、自分が新参者であるという事は一切考慮しなかった。

 これが家族主義的である平氏であれば、また状況は変わったのだろうが、源氏は十五年という逼塞の時を経て、奇跡的な復活を遂げたといってもいい、『ただの集団』であった。

 当然その軍事力も、大半は平氏に不満を抱いていた東方の諸勢力のものであり、ヨリトモはその旗頭という意味では――源氏棟梁といえども――血族を優遇する事など、とてもできなかったのである。

 それどころか、上総かずさヒロツネを筆頭とする、その『諸勢力』に気を使わなければならない立場であり、様々な嘲笑的発言にも、ヨリトモがそれを黙って受け入れ続けていたのは、そういう事情があったのだ。

 だが、ヨリトモがウシワカに微妙な距離を置こうとしている理由は、それだけではなかったのだが――それさえも姉は鉄の心で無表情を装い、純粋無垢な妹を戸惑わせた。


 疑念が疑念を呼ぶ――姉妹の悲劇の始まりであった。


 ともあれ、ウシワカ自身も上総かずさヒロツネを憎らしく思っていたが、同時にその取り巻きの様になっている一族の存在にも腹を据えかねていた。

 一人はみなもとのヨシヒロ。もう一人はみなもとのユキイエといい、共に父ヨシトモの弟であり、ヨリトモとウシワカにとっては叔父にあたる人物であった。

 その二人が、進軍前の軍議で、

「まあ戦は我らに任せておけ」

「さよう、そなたは後方におればよい」

 と、機甲武者に乗るための魔導適性を持たないヨリトモに向かって、わざわざそこを強調しながら居丈高に振る舞った後、

「我ら源氏も、ヒロツネ殿の兵力のおかげで、ここまで来れた様なもの。これからも頼りにしておりますぞ」

此度こたびもヒロツネ殿が先鋒であれば、勝ちは決まった様なものですな」

 と、まるで上総かずさヒロツネが源氏の大将であるかの様に、追従を並べ立てていたのであった。

 元々この二人の叔父は、最初から嫡流であるヨリトモの傘下に入っていた訳ではなく、たいらのキヨモリ死後の動乱期に、独立勢力を構築する事に失敗した後、大勢が見えてから、姪の親族として源氏軍に潜り込んできたという経緯があった。

 それゆえ尻馬に乗る事には長けており、これまでも今の様に、叔父風を吹かせながらヨリトモを侮り、かつ実力者のヒロツネにはへつらうというタチの悪さを見せていた。

 わずか一年たらずで、平氏を駆逐する大軍勢となった源氏の内実は――こうした寄せ集めの無頼どもが、大勢を占めていたのである。

「では、ヨリトモ『殿』、先鋒の任承った」

 その時もヒロツネは、またヨリトモを『様』ではなく『殿』と呼び、肩で風を切りながら自分の部隊へと向かっていった。
 それにツクモ神マサコは――今度こそ殺してやる、という勢いで気色ばむが、やはりヨリトモの手がそれを制していた。

 だがその時、ウシワカは見た。
 ヒロツネが去った後――先鋒隊の軍監を務めるヨリトモの腹心、梶原カゲトキが意味深な目配せをしていた事を。

 それを受けたヨリトモに表情の変化はなかったが、主従の間には何らかの会話がなされていた。確証はないが、ウシワカにはそう思えてならなかった。

 そんな回想にふけっていると、

「ウシワカ、あなたが何を考えているのか、大体分かるけど――そろそろよ、集中して」

 という声が、耳元に聞こえてきた。

 それはツクモ神として、シャナオウのナビゲートシステムも務めるベンケイからのものであり、いつもの様にコクピット内に異空間を保有する様に宙に浮く彼女は、これもいつもの様にシートの後ろからウシワカを抱いた姿勢のまま、前方を指差した。

 ウシワカが前方モニターに目を向けると、自身が所属する先鋒部隊の前衛が、平氏軍と交戦を始めた模様であった。
 まだ距離はあるが両軍共に、二十ミリ機関砲を撃ち合っている。それはまるで平安時代の合戦の矢合わせの様であった。

 おそらくは、上総かずさヒロツネの部隊であろうが、ここで彼に戦功を挙げさせてしまえば、またヨリトモにどの様な圧力をかけてくるか分からない。おまけに独立心旺盛なヨシヒロ、ユキイエの両叔父もそこにいるはずであった。

 ――お姉ちゃんは、私が守る!

 そう念じたウシワカは、修復が終わったばかりのシャナオウのバックパックを展開させ、翼を広げると、機体を前方の空に向けて上昇させた。



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