神造のヨシツネ

ワナリ

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第6話:源氏という家族(前編)

Act-01 エスケープ

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 平氏が首都キョウトを放棄して、西方のフクハラベースに都落ちしてから一日が経ち――

 今、皇帝の御所である『ヘイアン宮』では、復旧作業の声があちこちに、やかましく満ちていた。

 たいらのシゲヒラによる爆破工作と、その後に侵入してきた機甲武者部隊によって、御所内は荒れたものの――なんと、昨日の騒乱による朝廷側の死者はゼロであり、それは平氏という貴族的武装勢力の、ともすれば甘すぎる道義的性格をよく表していた。

 だが、そのおかげで朝廷は機能不全を起こす事もなく、今日も惑星ヒノモトの頂点に立っている。
 昨日から変わった事といえば――御所の周囲を約百機の『白い』機甲武者が、グルリと囲んでいる事であろうか。

 それを率いるのは、東方より参着した源氏の木曽ヨシナカ。強行軍によって平氏の都落ちを捉えたヨシナカ軍は、平氏軍を駆逐するとそのまま皇帝ゴシラカワの守護を名目として、御所を包囲する様に軍を展開し続けている。

 その狙いが、後着するであろうみなもとのヨリトモ率いる源氏本軍への牽制である事は明らかであったが、朝廷側は一旦それを静観する事にした。

 なので、参着に対する軍単位でのねぎらいの使者は出したものの、ヨシナカ本人へは皇帝ゴシラカワはまだ何の沙汰も出していなかった。
 すべてはヨリトモが来てから――女帝の策は、すでに動き始めていたのだ。

 そして、皇女アントクは奪われたものの、皇帝ゴシラカワの守護という目的を果たしたウシワカは、その頃、束の間の自由時間を得ていた。

 だがその心は、昨日見た源氏の――白の軍団の――勇姿のために昂ぶっており、じっとしていられなくなった彼女は、御所各門が厳戒態勢にある中、復旧資材搬入の隙をついて、外に抜け出してしまっていた。

 目的はただひとつ――平氏の赤い機甲武者群を蹴散らした後、白一色の源氏軍に向けて勝ち鬨を上げた伊達男――木曽ヨシナカに会う事であった。

 最初は彼の参戦を、姉ヨリトモの軍と間違え、一瞬落胆したウシワカであったが、その後の見事な戦ぶりに、彼女の興味は姉を忘れてしまうほどに、今はヨシナカに向けられていた。
 育ての親、鎌田マサキヨの旧型ガシアルGに触れた時と同じ、いやそれ以上の『源氏』を感じた事が、その血族であるウシワカには純粋に嬉しかったのだ。

 そのウシワカの行動には、もちろんいつもの様に、伊勢サブローと常陸坊ひたちぼうカイソンも同行している。
 サブローの目的は、面白そうだから。カイソンの目的は、メカニック見習いとして、そして機甲武者マニアとして、ヨシナカが駆る新型機甲武者『バキ』を、なんとしても間近で見たかったのである。

 ちなみにツクモ神ベンケイは、たいらのトモモリとの戦闘で傷ついたシャナオウの修復にあたっている。ウシワカの行動は、その隙を突いたものであった。


 御所の外に出た、三人の十五歳の少女の目に映るのは――白また白の源氏型ガシアルGの群れ。
 全長八メートルの機甲武者が整然と立ち並ぶ姿に、カイソンが見とれている間も、ウシワカの目はキョロキョロと、その中に木曽ヨシナカの姿を探していた。

「やっぱり大将は、どっか奥にいるのかな?」

 ウシワカの狙いを理解しているサブローがそう振ると、

「おそらく、あの新型機甲武者の近くにいると思うけど……見当たらないな。なら、捕まった方が早いかな」

「捕まる?」

「ほら、ああやって」

 と、ウシワカは自分たちから離れて、すでに挙動不審者と化しているカイソンを、半笑いで指差す。

「なるほどね」

 カイソンが機甲武者に我を失って、尋問される事まで計算済みのウシワカを、サブローは今さらながら頼もしく思う。

 そして案の定、

「いえ、違うんです! 怪しい者じゃないんですー!」

 というカイソンの声が聞こえてくると、

「じゃ、行こっか」

 と、ウシワカは悪びれる事もなく、堂々とした足取りで、その方向に向かって歩き出した。
 その時、遠くから馬蹄の響きが、いや馬蹄の様な機甲武者の駆動音が聞こえてきた。

 その正体は、もちろん木曽ヨシナカが駆る新型機甲武者『バキ』。上半身が人型、下半身が四つ足のバキの疾走音は、その人馬のフォルムさながらに、騎馬そのものであった。

「おやー、どうしたー⁉︎」

 帰陣早々、自軍の異変に気付いたヨシナカは、バキをウシワカたちの前につけると、コクピットのハッチを開くなり、明るい声で衛兵に向かって問いかけた。
 この底抜けな陽気さに、気をよくしたウシワカは、

「ヨシナカー! 私はみなもとのウシワカ!」

 と、衛兵が答える前に、よく通る声で高々と名乗りを上げた。

 それにヨシナカも、コクピットから降りながら、

「ほう、お前も源氏なのか?」

 と、これも打てば響く調子で、その名乗りに笑顔で応じた。
 これが源氏だ――と、同族の邂逅にウシワカがさらに、

みなもとのヨシトモの娘――ヨリトモの妹だよ!」

 と、その出自を明らかにすると――一瞬だけ、ヨシナカの顔が曇った。

 それに気付くには、そしてそこから未来を予知するには――あまりにウシワカという少女は無垢すぎであり、その天才的戦術能力に比較して、戦略性というものが人格から欠損しているのかと思うほど見通しが甘く、今回の名乗りもまた迂闊なものであった。

 ともあれヨシナカは、その心の変化をすぐに隠すと、

「そうか、ヨリトモの妹か」

 と言いながらウシワカのそばまで来ると、まるで自分の妹の様にその肩を抱いて、彼女を歓待する素ぶりを見せた。



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