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第3話:シャナオウ現界
Act-04 ツクモ神ベンケイ
しおりを挟む「うわーっ!」
ついに被弾したウシワカ機が大きくバランスを崩す。致命傷ではないが、もはやこの機体で逃走を継続するのは不可能であった。
倒れ込むままガシアルを地に伏せさせると、ウシワカはハッチを開けてコクピットを飛び出す。
そして阿吽の呼吸で、それを拾いに来たサブローの車に乗り込む前に、
「ありがとう、じっちゃん」
と、ウシワカは育ての親に別れを告げる様に、マサキヨの白いガシアルを振り返ると、そう小さく言葉をかけた。
こうして、少女のクラマでの十五年が完全に終わりを告げたが――平氏からの逃走はまだ終わりが見えなかった。
幸いな事に、ウシワカがロクハラベースの壁を越えた時に、暮色の中にあったキョウトは、今はもう闇が一面を支配し始めており、逃げる側に有利な展開となっている。
平氏のガシアルもサーチライトを点灯させ射撃を加えてくるが、サブローの巧みなハンドルさばきもあって、ウシワカたちは被弾する事なくゴジョウ大橋に近付いていった。
だが同時に、敵との距離も次第に縮まり――平氏のガシアル各機はコクピットのモニターで、オフロード車をはっきりと捉えられるまでに接近していた。
「あ、あれは⁉︎」
「どうしたのだ?」
突然、一人のパイロットが驚きの声を上げ、シゲヒラがそれを問い質す。
「あの三人は……昨夜、ロクハラに忍び入った賊です!」
「なんだと……!」
そう言われてシゲヒラも、モニターをズームさせる。
源氏のガシアルから降りたパイロットは、遠目に髪を結っている様に見えた。なら自分と打ち合った機甲武者を操っていたのは、助手席から後方に鋭い視線を投げているポニーテールの少女なのか。
しかも運転席の栗色の乱れ髪の女も、後部座席のショートカットの女も、皆どう見ても十代半ばの少女であった。
その事実にシゲヒラは驚愕し、同時に自分が女を、しかも少女たちを討ち取らんとしている事に躊躇を覚えたが、相手は連日に渡り平氏を翻弄した賊である。
特にあのポニーテールの少女は、旧型のガシアルで自身のフルチューン機を圧倒した使い手である。生かしておけば、今後どう平氏に仇なす強敵になるか分からない。
このわずかの間の葛藤が――シゲヒラとウシワカの、ひいてはこの後の――平氏と源氏の明暗を分けた。
シゲヒラが躊躇している間に、ウシワカは見つけたのである。前方に見えてきたゴジョウ大橋のたもとに、一人の女がいる事を。
長く美しい黒髪。整った顔立ちに強気な瞳。そして胡座をかいた姿勢で、それは相変わらず宙に浮いている。
それは、ウシワカをここまで呼んだツクモ神――ベンケイであった。
彼女にはこうなる事が分かっていたのか。それとも運命なのか。
だが、そんな事はどうでもよかった。来いと言われたから来た。そして彼女は待っていた。ウシワカには、ただそれだけであった。
そして、シゲヒラも我を取り戻し、
「私は平氏の棟梁の弟……私は平氏を守る刃なのだ――許せ!」
と、ウシワカたちに向けて必中の一射を放ったが、飛び出したベンケイは前方に手をかざすと、盾状の巨大な魔法陣――『魔導シールド』を展開して、その弾丸をいとも簡単に弾き返してしまった。
「また、ツクモ神なのか⁉︎」
シゲヒラが動揺している間に、ウシワカは車を飛び降りベンケイのもとに走り込む。それも、もはや無意識の行動であった。
それを片腕で抱きとめたベンケイは、ウシワカを胸に抱えたまま宙に舞い上がる。そして上昇しながら、語りかけた。
「ウシワカ……あなたに平氏を倒す力を授けてあげる」
何を言っているのか、ウシワカにはその意味が理解できなかったが、構わずベンケイは上昇を続ける。
その間も撃ち込まれる、平氏のガシアルからの機関砲を魔導シールドで弾きながら、地上から十メートルほどの地点でベンケイは動きを止めた。
そして静寂がゴジョウ大橋を包み込む。ツクモ神が次にどんな行動に出るのかと、対する平氏軍は息を呑んだ。
そのベンケイは、空いた右腕を天にかざすと、
「八百万の神々よ御照覧あれ。我、このヒノモトにおける太祖の天使ヨシツネの神器、『ヤサカニの勾玉』がツクモ神ベンケイなり。今このウシワカにその大いなる力を授け、天道を正さんと欲す――」
と、何かを召喚する様な詠唱を始め、それを言い終えると、今度は真下を指差した。
そこはゴジョウ大橋のど真ん中。そこに巨大な魔法陣が展開され、
「出ませい――シャナオウ!」
というベンケイの叫びと共に、魔法陣の中から一体の機甲武者が浮かび上がってきた。
Act-04 ツクモ神ベンケイ END
NEXT Act-05 神造兵器
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