77 / 86
第三章 森の薬師編
76 真実の書・最終節
しおりを挟む
エリアノ・ミエルは、教会の陰謀で無理やり女神にされてしまった。姉さんは、それが自分の役目だと心に決めて、人々の幸せの為に教えを説いている。自分が女神になる事で幸せになれる人がいるのなら、それでいい。姉さんからの手紙には、そう書いてあった。誰かの幸せの為に自分を犠牲にするなんて、いかにも姉さんらしい。
フェアリーは人間の家族であり、人間と同等の生物である。だからこそ、人とフェアリーは手を取り合って幸せに向かって行くことが出来る。姉さんはそう確信していた。テスラと一緒にいるわたしは、感覚でそれが分かる。けれど、全ての人間が、フェアリーというちっぽけな生き物を尊重して生きていけるのか疑問だ。
フェアリーはマスターとなった人間には逆らう事が出来ない生き物だ。姉さんはフェアリーをどうしてそんな風にしたのか。それは、人間を信じていたからだ。人間はフェアリーと手を取り合って、理想の世界を築いていける、姉さんはそう信じていた。けれど、わたしは姉さんの考えは危険だと思う。人間ほど賢い生物はいないけれど、人間ほど愚かな生物もいない。人間はどちらかと言えば悪だと思っている。悪に染まりやすい。そんな人間が、フェアリーを愛せるだろうか?
エリアノ教会、姉さんの名前を冠している教会のくせに、姉さんを迫害し始めている。姉さんを女神などと祀り上げておきながら、教会の高位職者共は、姉さんの教えを曲げて、それを人々に刷り込み始めている。奴らはフェアリーを人間の幸せの為に従属する者と声高らかに唱え始めた。
フェアリーと人間を同等とする姉さんの教えに真っ向から反している。フェアリーを人間の奴隷にした方が利益になるし、教会の権力の保持にも役立つからだ。奴らはフェアリーのおかげで、奴隷や農奴がいなくなる等とのたまっている。ああ、最も恐れていた事が現実になろうとしている。
この頃は、姉さんが教会の表舞台にでる事はなくなった。きっと姉さんの周りには、味方は一人もいないだろう。可哀そうな姉さん、今すぐに迎えにいってあげたい。
こんな時に、アインシュトール帝国がシルフリアに攻めてきた。この戦争は、人間とフェアリーの関係を決定的に崩壊させるかもしれない。
フェアリーには強力な魔法を使える者がいる。王国が教会に通じて、フェアリーを戦争に利用しようとしている。姉さんは強硬に反対し続けている。これは人間が越えてはいけない一線だ。姉さんが人の幸せの為に生み出したフェアリーが、兵器となって人々に絶望を与えようとしている。
この日、レスティアの側でフレイアが言った、姉さんの命が小さくなっていると。テスラも同じことを言った。それで白妖精と黒妖精が、姉さんの存在を感じる事ができると知った。そして絶望した。
ついに戦争が起こってしまった。エリアノ教会の勅命で優秀な妖精使いが集められ、戦場に送られたそうだ。そして、帝国兵10万が、たった百体のフェアリーによって壊滅した。それは戦いとは呼べない一方的なもので、フェアリー達の強大な魔法の前では、帝国軍は成す術もなかったという。それを知った時、フェアリーと人間の終末が垣間見えた。
戦争に駆り出されたフェアリー達の大半が、人間を殺した罪の意識に耐えきれずに精神を崩壊させてしまったようだ。そうなると、マスターの命令通りに動くだけの人形になってしまう。フェアリーは人間を幸せにする為の存在だ。真逆の事をさせれば壊れてしまうのだ。
今度は妹のレスティアが教会の神殿騎士団に連れていかれてしまった。テスラの力で取り返そうと思ったけれど、神殿騎士団にも妖精使いがいて手が出せなかった。フェアリー同士で戦わせる事なんて出来ない。
テスラが、姉さんの命が消えたと言った。どうしてこんな事になってしまったのだろう。姉さんは人知れず命を奪われた。どこにいるのかも分からない。死体を弔ってあげる事も出来ない。姉さんの名を冠した教会が、姉さんを殺した。教会は自分の手で、信仰の対象である女神を殺した。
姉さんは自ら退いて姿を消した。そして、妹のレスティアに後を託した。これがエリアノ教会の言い分だった。
レスティアが教皇に就任するあの日、わたしも姿を見に行った。人々は女神の意思を継ぐ妹の姿に熱狂していた。妹は泣いていた。皆、感涙だと思っていた。ちがう、あの子は悲しみを抑え切れなくて泣いていたんだ。姉さんを殺した奴らに無理やり祀り上げられてしまい、もうどうにもできなかった。強大な権力の前に従うしかなかった。
レスティアは体が不自由だし、姉さんと違って気が弱い。奴らにとって、姉さんよりもずっと扱いやすいだろう。フレイアが近くにいてくれるのが、せめてもの救いだ。
帝国は、まだシルフリアを諦めてはいなかった。彼らは、10万の兵を壊滅させたのは天災の類だと信じているらしい。そう思う気持ちも分かる。たった百人の小さな存在に10万の兵が壊滅されられたなんて、信じる人の方が少ないだろう。
村からそう遠くない町が帝国軍に占領されたらしい。もしかしたら、この村にも来るかもしれない。ここは姉さんの故郷だ。もし帝国軍が来たら、テスラの力を使ってでも守り抜こう。
全てを読み終えた時、マナは泣いていた。女神エリアノが教会権力によって殺されていたという事実が、どうしようもなく胸に迫ってくる。やはり自分は、リリーシャ・ミエルの生まれ変わりなのだと実感した。そして、この本に書かれている事が全て真実なのだと命で理解した。
フェアリーは人間の家族であり、人間と同等の生物である。だからこそ、人とフェアリーは手を取り合って幸せに向かって行くことが出来る。姉さんはそう確信していた。テスラと一緒にいるわたしは、感覚でそれが分かる。けれど、全ての人間が、フェアリーというちっぽけな生き物を尊重して生きていけるのか疑問だ。
フェアリーはマスターとなった人間には逆らう事が出来ない生き物だ。姉さんはフェアリーをどうしてそんな風にしたのか。それは、人間を信じていたからだ。人間はフェアリーと手を取り合って、理想の世界を築いていける、姉さんはそう信じていた。けれど、わたしは姉さんの考えは危険だと思う。人間ほど賢い生物はいないけれど、人間ほど愚かな生物もいない。人間はどちらかと言えば悪だと思っている。悪に染まりやすい。そんな人間が、フェアリーを愛せるだろうか?
エリアノ教会、姉さんの名前を冠している教会のくせに、姉さんを迫害し始めている。姉さんを女神などと祀り上げておきながら、教会の高位職者共は、姉さんの教えを曲げて、それを人々に刷り込み始めている。奴らはフェアリーを人間の幸せの為に従属する者と声高らかに唱え始めた。
フェアリーと人間を同等とする姉さんの教えに真っ向から反している。フェアリーを人間の奴隷にした方が利益になるし、教会の権力の保持にも役立つからだ。奴らはフェアリーのおかげで、奴隷や農奴がいなくなる等とのたまっている。ああ、最も恐れていた事が現実になろうとしている。
この頃は、姉さんが教会の表舞台にでる事はなくなった。きっと姉さんの周りには、味方は一人もいないだろう。可哀そうな姉さん、今すぐに迎えにいってあげたい。
こんな時に、アインシュトール帝国がシルフリアに攻めてきた。この戦争は、人間とフェアリーの関係を決定的に崩壊させるかもしれない。
フェアリーには強力な魔法を使える者がいる。王国が教会に通じて、フェアリーを戦争に利用しようとしている。姉さんは強硬に反対し続けている。これは人間が越えてはいけない一線だ。姉さんが人の幸せの為に生み出したフェアリーが、兵器となって人々に絶望を与えようとしている。
この日、レスティアの側でフレイアが言った、姉さんの命が小さくなっていると。テスラも同じことを言った。それで白妖精と黒妖精が、姉さんの存在を感じる事ができると知った。そして絶望した。
ついに戦争が起こってしまった。エリアノ教会の勅命で優秀な妖精使いが集められ、戦場に送られたそうだ。そして、帝国兵10万が、たった百体のフェアリーによって壊滅した。それは戦いとは呼べない一方的なもので、フェアリー達の強大な魔法の前では、帝国軍は成す術もなかったという。それを知った時、フェアリーと人間の終末が垣間見えた。
戦争に駆り出されたフェアリー達の大半が、人間を殺した罪の意識に耐えきれずに精神を崩壊させてしまったようだ。そうなると、マスターの命令通りに動くだけの人形になってしまう。フェアリーは人間を幸せにする為の存在だ。真逆の事をさせれば壊れてしまうのだ。
今度は妹のレスティアが教会の神殿騎士団に連れていかれてしまった。テスラの力で取り返そうと思ったけれど、神殿騎士団にも妖精使いがいて手が出せなかった。フェアリー同士で戦わせる事なんて出来ない。
テスラが、姉さんの命が消えたと言った。どうしてこんな事になってしまったのだろう。姉さんは人知れず命を奪われた。どこにいるのかも分からない。死体を弔ってあげる事も出来ない。姉さんの名を冠した教会が、姉さんを殺した。教会は自分の手で、信仰の対象である女神を殺した。
姉さんは自ら退いて姿を消した。そして、妹のレスティアに後を託した。これがエリアノ教会の言い分だった。
レスティアが教皇に就任するあの日、わたしも姿を見に行った。人々は女神の意思を継ぐ妹の姿に熱狂していた。妹は泣いていた。皆、感涙だと思っていた。ちがう、あの子は悲しみを抑え切れなくて泣いていたんだ。姉さんを殺した奴らに無理やり祀り上げられてしまい、もうどうにもできなかった。強大な権力の前に従うしかなかった。
レスティアは体が不自由だし、姉さんと違って気が弱い。奴らにとって、姉さんよりもずっと扱いやすいだろう。フレイアが近くにいてくれるのが、せめてもの救いだ。
帝国は、まだシルフリアを諦めてはいなかった。彼らは、10万の兵を壊滅させたのは天災の類だと信じているらしい。そう思う気持ちも分かる。たった百人の小さな存在に10万の兵が壊滅されられたなんて、信じる人の方が少ないだろう。
村からそう遠くない町が帝国軍に占領されたらしい。もしかしたら、この村にも来るかもしれない。ここは姉さんの故郷だ。もし帝国軍が来たら、テスラの力を使ってでも守り抜こう。
全てを読み終えた時、マナは泣いていた。女神エリアノが教会権力によって殺されていたという事実が、どうしようもなく胸に迫ってくる。やはり自分は、リリーシャ・ミエルの生まれ変わりなのだと実感した。そして、この本に書かれている事が全て真実なのだと命で理解した。
1
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
あなたへの想いを終わりにします
四折 柊
恋愛
シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。
前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです
珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。
老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。
そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
大好きな母と縁を切りました。
むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。
領地争いで父が戦死。
それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。
けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。
毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。
けれどこの婚約はとても酷いものだった。
そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。
そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる