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第二章 聖メディアーノ学園編
41 変わらぬ悪意
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いつかのように掲示板の前に学園の生徒が人だかりを作っていた。掲示板に名前が載るのはテストの上位十人、一位から四位までは前回と変わらなかった。
学園の御令嬢方が次々とアルカードに祝辞を送る一方で、当人は余り嬉しそうではなかった。相変わらずアルメリアが手を抜いて次席に留まっていたからだ。
アルカードの近くにいたティア姫が、彼の頬をつついて悪戯っぽく笑った。
「どうしましたの、そんな暗い顔をして、首席なんですからもっと喜びましょう」
無邪気で全く悪意のないティア姫に王太子が苦笑いを浮かべる。
「そ、そうだね、別に嬉しくないわけではないんだ」
シャルと一緒に様子を見ていたマナは、アルカードと話をしたかったが、ティア姫と彼の間に入るのが憚られてもたもたしていた。するとシャルが意地悪い笑みを浮かべて、マナをアルカードの前に押し出した。慌てたマナはとにかく一番に思っていた事を言った。
「ア、アルカード様、首席おめでとうございます」
「ありがとう、君はどうだった?」
「わたしは、その、恥ずかしくて」
「マナ様はとても頑張りましたのよ!」
周囲まで照らすようなティア姫の声が、マナの言葉を途中でかき消してしまった。それからティア姫は少々興奮気味に続けた。
「わたくしと一緒に勉強して、マナ様は五十位も順位を上げましたの」
「そうか、それは良かった! 僕も嬉しいよ!」
アルカードは自分の首席よりもよほど嬉しそうだった。
「殿下には申し訳ありませんけど、マナ様とわたくしで主席と次席を取る約束をしていますの」
「望むところさ、僕の所まで来るのを待っているよ」
マナはアルカードに見つめられて、胸がキュッと締め付けられた。
「二人はいい友達みたいだね、これからもマナの事をよろしく頼むよ」
はたで見ていたシャルは、何だか痛々しい気持ちになってしまう。同じ妃候補のティア姫にマナの事を頼むとはどうなんだろう。アルカードの感覚はどこかずれている感じがする。妃候補が並みの人間であれば骨肉の争いになっただろと思う。
その時、数人の生徒が早足で歩いてきてマナにぶつかった。かなり強い力でマナは前に弾き飛ばされてしまう。それを丁度目の前にいたアルカードが受け止めた。
「大丈夫かい?」
「す、すみません」
マナはアルカードに抱かれると、恥じらいながらも幸せであった。
シャルはマナにぶつかっていった連中を目で追っていた。
「またあいつらか」
シャルは呆れはしたが、食って掛かるような事はしなかった。何故なら、彼女らの行為は明らかなる失策だったからだ。
赤い制服の令嬢が立ち止まり、王太子に抱かれるマナを憎々し気に見つめて舌打ちしていた。
天使のようなティア姫、天真爛漫なシャル、引っ込み思案のマナ、騎士を目指し正義感の強いゼノビア、全てを冷静に見極めるアルメリア、この五人の妃候補が醸すバランスは絶妙で、マナを中心とした人間関係に至っては非常に良好であった。五人のうち誰が妃になっても悪い事にはならないだろう。しかし、部外者の人間には問題があった。
♢♢♢
ティア姫のカリスマ性は多くの人間を引きつけ、彼女の周囲にはいつもクラスメイトがいて賑やかだった。マナは他人と群れるのが苦手なので姫のグループにあえて自分から入る事はない。教室では姫の方からマナに歩み寄ってくる事が常であった。
この日も姫は休み時間に数人の令嬢に囲まれて話をしている途中、はたと気付いたようにマナに近づいてきた。
「マナ様、今日は良い陽気ですし、皆さんとお庭でランチする事にしましたの。マナ様もご一緒にいかがです?」
「いいんですか、わたしなんかが一緒で」
「いくぞ~、お庭でラ~ンチ!」
メラメラが飛び上がって嬉しそうに言うと姫はその小さな頭をなでて微笑する。
「とびきり美味しいサンドイッチを用意しましょうね」
「うわ~い!」
メラメラがもろ手を挙げる。和気あいあいとしている雰囲気のマナ達に、姫の取り巻きの少女たちが棘のある視線を送っていた。平民のくせに姫君から誘わせるとは、彼女らにとってそれは許しがたい事だった。
学園の御令嬢方が次々とアルカードに祝辞を送る一方で、当人は余り嬉しそうではなかった。相変わらずアルメリアが手を抜いて次席に留まっていたからだ。
アルカードの近くにいたティア姫が、彼の頬をつついて悪戯っぽく笑った。
「どうしましたの、そんな暗い顔をして、首席なんですからもっと喜びましょう」
無邪気で全く悪意のないティア姫に王太子が苦笑いを浮かべる。
「そ、そうだね、別に嬉しくないわけではないんだ」
シャルと一緒に様子を見ていたマナは、アルカードと話をしたかったが、ティア姫と彼の間に入るのが憚られてもたもたしていた。するとシャルが意地悪い笑みを浮かべて、マナをアルカードの前に押し出した。慌てたマナはとにかく一番に思っていた事を言った。
「ア、アルカード様、首席おめでとうございます」
「ありがとう、君はどうだった?」
「わたしは、その、恥ずかしくて」
「マナ様はとても頑張りましたのよ!」
周囲まで照らすようなティア姫の声が、マナの言葉を途中でかき消してしまった。それからティア姫は少々興奮気味に続けた。
「わたくしと一緒に勉強して、マナ様は五十位も順位を上げましたの」
「そうか、それは良かった! 僕も嬉しいよ!」
アルカードは自分の首席よりもよほど嬉しそうだった。
「殿下には申し訳ありませんけど、マナ様とわたくしで主席と次席を取る約束をしていますの」
「望むところさ、僕の所まで来るのを待っているよ」
マナはアルカードに見つめられて、胸がキュッと締め付けられた。
「二人はいい友達みたいだね、これからもマナの事をよろしく頼むよ」
はたで見ていたシャルは、何だか痛々しい気持ちになってしまう。同じ妃候補のティア姫にマナの事を頼むとはどうなんだろう。アルカードの感覚はどこかずれている感じがする。妃候補が並みの人間であれば骨肉の争いになっただろと思う。
その時、数人の生徒が早足で歩いてきてマナにぶつかった。かなり強い力でマナは前に弾き飛ばされてしまう。それを丁度目の前にいたアルカードが受け止めた。
「大丈夫かい?」
「す、すみません」
マナはアルカードに抱かれると、恥じらいながらも幸せであった。
シャルはマナにぶつかっていった連中を目で追っていた。
「またあいつらか」
シャルは呆れはしたが、食って掛かるような事はしなかった。何故なら、彼女らの行為は明らかなる失策だったからだ。
赤い制服の令嬢が立ち止まり、王太子に抱かれるマナを憎々し気に見つめて舌打ちしていた。
天使のようなティア姫、天真爛漫なシャル、引っ込み思案のマナ、騎士を目指し正義感の強いゼノビア、全てを冷静に見極めるアルメリア、この五人の妃候補が醸すバランスは絶妙で、マナを中心とした人間関係に至っては非常に良好であった。五人のうち誰が妃になっても悪い事にはならないだろう。しかし、部外者の人間には問題があった。
♢♢♢
ティア姫のカリスマ性は多くの人間を引きつけ、彼女の周囲にはいつもクラスメイトがいて賑やかだった。マナは他人と群れるのが苦手なので姫のグループにあえて自分から入る事はない。教室では姫の方からマナに歩み寄ってくる事が常であった。
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「マナ様、今日は良い陽気ですし、皆さんとお庭でランチする事にしましたの。マナ様もご一緒にいかがです?」
「いいんですか、わたしなんかが一緒で」
「いくぞ~、お庭でラ~ンチ!」
メラメラが飛び上がって嬉しそうに言うと姫はその小さな頭をなでて微笑する。
「とびきり美味しいサンドイッチを用意しましょうね」
「うわ~い!」
メラメラがもろ手を挙げる。和気あいあいとしている雰囲気のマナ達に、姫の取り巻きの少女たちが棘のある視線を送っていた。平民のくせに姫君から誘わせるとは、彼女らにとってそれは許しがたい事だった。
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