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第二章 聖メディアーノ学園編
27 ティア姫との邂逅
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翌朝、マナが目を覚ますと、メラメラの姿がなかった。
「ユリカ、メラメラ見なかった?」
「先程まで部屋中を飛び回っていましたけど、いないのですか?」
「どうしよう、どこに行ったんだろう」
マナがそわそわしだすと、ユリカがドアを確認する。
「あらやだ、ドアが開いています。自分で開けて出ていったようです」
「大変!」
マナはベッドから降りて靴をはくと、慌ててドアに駆け寄る。
「いけません、そんな恰好では!」
ユリカが駆け寄って、マナに若葉色のガウンを被せた。そして二人で廊下に出ていくと、すぐにメラメラの姿を見つけることが出来た。
「メラメラちゃん、おいしいクッキーですよ~」
隣の部屋の前で、桃色のガウンを纏ったティア姫が、メラメラに餌付けをしていた。メラメラがクッキーを両手で受け取って食べ始めると、その隙をついてティア姫がフェアリーを捕まえて抱きしめる。
「いや~ん、かわいいっ!」
「あのぅ」
おずおずと話しかけてきたマナに、ティア姫が天使のような笑顔を見せる。マナには、彼女自身が輝きを放っているように見えた。
「申し訳ありません。メラメラちゃんがあんまり可愛いもので、つい」
「いいんです。メラメラを可愛がってくれて、ありがとうございます」
「そうだわ!」
ティア姫が手を合わせてから、さも楽し気に言った。
「朝食をご一緒しませんこと? わたくし、マナ様とお話ししてみたかったのです」
「ええ、えっと、はい……」
マナはなし崩し的に承諾した。その後にティア姫の後ろのドアが開いて、姫よりも少し年上に見える金髪の侍女が出てきて目を吊り上げた。
「姫様! 勝手にお部屋を出られては困ります!」
「ナスターシャ、丁度いいところに来たわ! 朝食はマナ様とご一緒する事にしましたからね!」
「またそのような気まぐれを……」
「メラメラちゃんの分もお願いね」
そう嘯く姫に、ナスターシャは、やれやれとため息を吐いた。
「分かりました、準備しますので、お部屋に戻って着替えて下さい」
上機嫌のティア姫は、マナにメラメラを返すと言った。
「では、後程お目にかかりましょう」
朝食に呼ばれたマナは、ティア姫を前にして、自分という存在のつまらなさを見せつけられているように感じてしまった。
目の前にはフレンチトーストとサラダの軽食、デザートは恐ろしく豊かで、ナッツとチョコレートをふんだん使ったプディング、美しい色彩のゼリー、フルーツもあれば、クッキーやビスケットの種類も豊富だった。マナはティア姫の顔も見ずに、それらのデザートに視線を落として、甘いもの好きなのかな、などと考えていた。
「どうしました? 好きではない物でもありまして?」
「い、いいえ! とても素敵だと思います!」
マナを心配そうに見つめていたティア姫が、ふっと笑顔になる。その様は、同じ女性のマナが見ても、ため息が出そうになる。ティア姫の容姿は、美しいとか可愛いとかいう領域を越えていて、非人間的とさえ言えた。
息が詰まるような思いをしているマナの隣では、メラメラが素晴らしいデザートに興奮して食べまくっていた。
「メラメラちゃん、美味しい?」
「すご~く美味しい! ありがと、ティア~」
メラメラがフルーツを突き刺したフォークを上げると、ティア姫から可愛らしい笑声が漏れる。
「そんなに喜んでくれるなんて、嬉しいわ」
ティア姫の侍女ナスターシャが、ロイヤルミルクティーを淹れて出してくれる。
「マナ様も召し上がって下さい」
「はい、いただきます」
ナスターシャの勧めで、マナがフレンチトーストを一欠けら口に入れる。口の中でカスタードクリームのような甘みと風味に、バターのこくや焼き目の香ばしさが相まって、驚くような旨さを引き出す。卵液の沁みたパンはスポンジケーキのようにふんわりと柔らかで、マナはこれはフレンチトーストに似せた別の食べ物だと思った。
「ナスターシャのお茶は、最高ですのよ」
そういうティア姫と一緒に、マナもロイヤルミルクティーを一口、それが無糖なのに驚いた。マナは、甘くないロイヤルミルクティーを飲むのは初めてだが、甘いものばかりだったので、それがとても口に馴染んだ。
「おいしい……」
「気に入ってくれたようで、良かったですわ」
それからマナがティア姫の質問攻めにされた。マナは、必要最低限の言葉だけ返して、自分からティア姫に話しかようとはしなかった。最後に、ディナーも一緒にどうかと誘われたが、他の友達の先約があるからと嘘を言って断った。正直に言って、マナはティア姫と一緒にいるのが辛かったのだ。
「ユリカ、メラメラ見なかった?」
「先程まで部屋中を飛び回っていましたけど、いないのですか?」
「どうしよう、どこに行ったんだろう」
マナがそわそわしだすと、ユリカがドアを確認する。
「あらやだ、ドアが開いています。自分で開けて出ていったようです」
「大変!」
マナはベッドから降りて靴をはくと、慌ててドアに駆け寄る。
「いけません、そんな恰好では!」
ユリカが駆け寄って、マナに若葉色のガウンを被せた。そして二人で廊下に出ていくと、すぐにメラメラの姿を見つけることが出来た。
「メラメラちゃん、おいしいクッキーですよ~」
隣の部屋の前で、桃色のガウンを纏ったティア姫が、メラメラに餌付けをしていた。メラメラがクッキーを両手で受け取って食べ始めると、その隙をついてティア姫がフェアリーを捕まえて抱きしめる。
「いや~ん、かわいいっ!」
「あのぅ」
おずおずと話しかけてきたマナに、ティア姫が天使のような笑顔を見せる。マナには、彼女自身が輝きを放っているように見えた。
「申し訳ありません。メラメラちゃんがあんまり可愛いもので、つい」
「いいんです。メラメラを可愛がってくれて、ありがとうございます」
「そうだわ!」
ティア姫が手を合わせてから、さも楽し気に言った。
「朝食をご一緒しませんこと? わたくし、マナ様とお話ししてみたかったのです」
「ええ、えっと、はい……」
マナはなし崩し的に承諾した。その後にティア姫の後ろのドアが開いて、姫よりも少し年上に見える金髪の侍女が出てきて目を吊り上げた。
「姫様! 勝手にお部屋を出られては困ります!」
「ナスターシャ、丁度いいところに来たわ! 朝食はマナ様とご一緒する事にしましたからね!」
「またそのような気まぐれを……」
「メラメラちゃんの分もお願いね」
そう嘯く姫に、ナスターシャは、やれやれとため息を吐いた。
「分かりました、準備しますので、お部屋に戻って着替えて下さい」
上機嫌のティア姫は、マナにメラメラを返すと言った。
「では、後程お目にかかりましょう」
朝食に呼ばれたマナは、ティア姫を前にして、自分という存在のつまらなさを見せつけられているように感じてしまった。
目の前にはフレンチトーストとサラダの軽食、デザートは恐ろしく豊かで、ナッツとチョコレートをふんだん使ったプディング、美しい色彩のゼリー、フルーツもあれば、クッキーやビスケットの種類も豊富だった。マナはティア姫の顔も見ずに、それらのデザートに視線を落として、甘いもの好きなのかな、などと考えていた。
「どうしました? 好きではない物でもありまして?」
「い、いいえ! とても素敵だと思います!」
マナを心配そうに見つめていたティア姫が、ふっと笑顔になる。その様は、同じ女性のマナが見ても、ため息が出そうになる。ティア姫の容姿は、美しいとか可愛いとかいう領域を越えていて、非人間的とさえ言えた。
息が詰まるような思いをしているマナの隣では、メラメラが素晴らしいデザートに興奮して食べまくっていた。
「メラメラちゃん、美味しい?」
「すご~く美味しい! ありがと、ティア~」
メラメラがフルーツを突き刺したフォークを上げると、ティア姫から可愛らしい笑声が漏れる。
「そんなに喜んでくれるなんて、嬉しいわ」
ティア姫の侍女ナスターシャが、ロイヤルミルクティーを淹れて出してくれる。
「マナ様も召し上がって下さい」
「はい、いただきます」
ナスターシャの勧めで、マナがフレンチトーストを一欠けら口に入れる。口の中でカスタードクリームのような甘みと風味に、バターのこくや焼き目の香ばしさが相まって、驚くような旨さを引き出す。卵液の沁みたパンはスポンジケーキのようにふんわりと柔らかで、マナはこれはフレンチトーストに似せた別の食べ物だと思った。
「ナスターシャのお茶は、最高ですのよ」
そういうティア姫と一緒に、マナもロイヤルミルクティーを一口、それが無糖なのに驚いた。マナは、甘くないロイヤルミルクティーを飲むのは初めてだが、甘いものばかりだったので、それがとても口に馴染んだ。
「おいしい……」
「気に入ってくれたようで、良かったですわ」
それからマナがティア姫の質問攻めにされた。マナは、必要最低限の言葉だけ返して、自分からティア姫に話しかようとはしなかった。最後に、ディナーも一緒にどうかと誘われたが、他の友達の先約があるからと嘘を言って断った。正直に言って、マナはティア姫と一緒にいるのが辛かったのだ。
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