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第一章 異世界召喚編
17 エリアノ教会
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中に入ると入り口に白衣のシスターがいて、会釈で出迎えてくれた。マナも軽く頭を下げると、上にいたメラメラがシスターを驚かせた。一方で、マナは清楚なシスターに、ちょっとした憧れを抱いていた。
教会内部は、左右に長椅子が列になって配置されていて、中央には祭壇へと続く通路がある。祭壇の前には机があり、そこに人の好さそうな若い神父の姿があった。
長椅子に座って祈りをささげていた何人かは、マナの頭の上にいるものから視線を動かせなくなっていた。
マナは中央の通路を数歩進んで立ち止まり、最奥の女神像を見つめた。マナが以前いた世界と比べると、女神の様子は全く違っていた。マナの感覚で言うと、異世界の女神は魔法使いとか賢者というような様相であった。女神の足元には数体の妖精の像があって、どれも女神を崇めるように両手を上げている。
マナは女神というものの姿を見た時、感動的で信心深い気持ちになれるのだろうと思っていた。しかし、現実のそれを目にすると、どうにも拭いきれない違和感を覚えた。その違和感が何かは全く分からない。とにかく何かが違うと思わずにいられないのだ。そんな真那の気持ちを知っているかのように、メラメラが、「ふぅ~」と重いため息を吐いた。
「マナ様、どうかしまして?」
「うんん、何でもないよ」
怪訝な顔のユリカに、マナは何となくがっかりした気持ちを隠した。そして、3人が通路を進んで開いている椅子に座ると、神父が声をかけてきた。
「あなたは妖精使いですか?」
黒衣のダルマティカに同色のショートマントを羽織った神父が、祭壇の前の机から早足で歩き、マナに近づいてくる。そしてマナの姿を確認すると、彼は大きく目を開けて立ち止まった。
「あの、契約してるだけで、使い、という程ではないと思います」
「いけません!」
優し気な神父の強い語気に当てられて、マナはびくついてしまう。途端にユリカが警戒心を露わにした。
「フェアリーを人の頭の上に乗せるなど、女神の怒りに触れます」
「あの、この子、ここが好きみたいで」
「あなたは本当に妖精使いなのですか? もしそうならば常識をわきまえなければいけません。特にあなたは不用意な行動な慎まなければ!」
そこまで言われてマナに逆らう気概はなかった。メラメラを頭の上から下ろして胸に抱く。この時、マナは納得できない気持ちを抑えつつ、これがこの世界の常識なのだろうと思った。
「申し訳ありませんでした。主に教えなかった、わたしの責任です。以後気を付けます」
頭を下げたのはユリカだった。
「分かって下さればいいのです」
神父はにこやかに答える。マナが、彼に大声を出させてしまった事が申し訳ないと思うくらいに、紳士的な態度だった。
「この方は、それなりの身分があるとお見受けしますが」
「お分かりになりますか?」
ユリカの返答に神父が頷く。
「分かりますとも、あなたのようによくできた従者に護衛の騎士まで付いているのですから。町人に扮してまでここに来たのならば、何か特別な用向きでもあるのでは?」
「あの、聞きたいことがあるんです!」
マナが急に立ち上がって神父に迫ると、彼は少し驚いて目を見開いた。
「分かりました。では、奥の客室にご案内いたしましょう」
神父が手を上げると、周囲にいた数人にシスターが動き出した。
案内されたのは、赤い絨毯に白いクロスのテーブル、それなりに高価な調度品などがある、上流階級専用の客室だった。出された紅茶も上等で、口にした瞬間に良い香りが広がり、心地よい風味がすっと喉に染み渡った。
「教会に、こんな部屋があるんですね」
マナが特に考えもなく何となく言うと、決して微笑を崩さない神父が答えた。
「貴族が身分を隠して教会を訪れる事は良くあるのです。人の悩みに身分は関係ないのですよ。あなたはどのような悩みがあるのでしょうか?」
「そういう事であれば、俺、いや、わたしは外した方が良さそうですね」
事情を知らないレクサスが席を立とうとすると、マナは必要以上に首を振って言った。
「大丈夫です。悩みとか、そういうのじゃないんです」
「それでは、このわたしに聞きたい事とは?」
暫しの沈黙。マナは落ち着いて考えを纏めていた。その間、神父は急かしたりはせず、柔和な笑顔で少女を見守る。
「わたしエリアノ教会のことをあまり知らなくて、女神エリアノとフェアリーの関係とか、フェアリーが生まれた理由とか、そういうのを知りたいんです」
「そうでしたか、それは尊い事です。わたしの知る限りの全てをお教えいたしましょう」
「ありがとうございます」
「まずは教会の歴史から簡単にお話ししましょう。エリアノ教会が生まれたのは百年程前で、女神エリアノは同時期に実在していた人物です」
「え!? 女神様って本当にいたんですか!?」
驚くマナに、神父が強く頷き、そして語りかけた。
「エリアノ教会の教義は、百年前に生きし女神エリアノの教えに基づいています。女神エリアノの教えは、それまでの教会の教えよりも遥かに崇高であり、さらにフェアリーの存在が彼女を神へと昇華させたのです」
「女神エリアノとフェアリーって、どういう関係なの?」
それがマナが一番知りたいところだ。フェアリーを知るという事は、メラメラを知るということにつながる。とにかくフェアリーに関して少しでも多くの知識が欲しかった。
神父は静かに語った。
「エリアノは天の声を聞いたのです。そして、第二の人類とも言えるフェアリーをその手で創造した。そして彼女は教皇となり、人々にフェアリーを与え導いたのです」
そこでマナは疑問が浮かんだ。
「あの、友達が言ってたんですけど、フェアリーって人間の手で造られるって」
「その通りですよ。エリアノはフェアリーを生み出す術も人々に伝えています。今でもシルフリアでは多くのフェアリーが生まれています」
「そうなんですね。ロディスでは、メラメラ以外のフェアリーは見た事ないですけど」
「シルフリア王国は、フェアリーをあまり外に出したがらないのです。フェアリーを独占することによって生まれる優位性を確保するのが目的です。きっと、あなたのフェアリーは神によって与えられし……」
神父の口が止まった。そして、次第に微笑が崩れて苦笑に転じていく。マナがどうしたのかなと思っていると、神父の視線が自分の懐に固定されている事に気付く。視線を下に向けると、メラメラが膨れ面で胡散臭そうに神父を睨んでいた。
教会内部は、左右に長椅子が列になって配置されていて、中央には祭壇へと続く通路がある。祭壇の前には机があり、そこに人の好さそうな若い神父の姿があった。
長椅子に座って祈りをささげていた何人かは、マナの頭の上にいるものから視線を動かせなくなっていた。
マナは中央の通路を数歩進んで立ち止まり、最奥の女神像を見つめた。マナが以前いた世界と比べると、女神の様子は全く違っていた。マナの感覚で言うと、異世界の女神は魔法使いとか賢者というような様相であった。女神の足元には数体の妖精の像があって、どれも女神を崇めるように両手を上げている。
マナは女神というものの姿を見た時、感動的で信心深い気持ちになれるのだろうと思っていた。しかし、現実のそれを目にすると、どうにも拭いきれない違和感を覚えた。その違和感が何かは全く分からない。とにかく何かが違うと思わずにいられないのだ。そんな真那の気持ちを知っているかのように、メラメラが、「ふぅ~」と重いため息を吐いた。
「マナ様、どうかしまして?」
「うんん、何でもないよ」
怪訝な顔のユリカに、マナは何となくがっかりした気持ちを隠した。そして、3人が通路を進んで開いている椅子に座ると、神父が声をかけてきた。
「あなたは妖精使いですか?」
黒衣のダルマティカに同色のショートマントを羽織った神父が、祭壇の前の机から早足で歩き、マナに近づいてくる。そしてマナの姿を確認すると、彼は大きく目を開けて立ち止まった。
「あの、契約してるだけで、使い、という程ではないと思います」
「いけません!」
優し気な神父の強い語気に当てられて、マナはびくついてしまう。途端にユリカが警戒心を露わにした。
「フェアリーを人の頭の上に乗せるなど、女神の怒りに触れます」
「あの、この子、ここが好きみたいで」
「あなたは本当に妖精使いなのですか? もしそうならば常識をわきまえなければいけません。特にあなたは不用意な行動な慎まなければ!」
そこまで言われてマナに逆らう気概はなかった。メラメラを頭の上から下ろして胸に抱く。この時、マナは納得できない気持ちを抑えつつ、これがこの世界の常識なのだろうと思った。
「申し訳ありませんでした。主に教えなかった、わたしの責任です。以後気を付けます」
頭を下げたのはユリカだった。
「分かって下さればいいのです」
神父はにこやかに答える。マナが、彼に大声を出させてしまった事が申し訳ないと思うくらいに、紳士的な態度だった。
「この方は、それなりの身分があるとお見受けしますが」
「お分かりになりますか?」
ユリカの返答に神父が頷く。
「分かりますとも、あなたのようによくできた従者に護衛の騎士まで付いているのですから。町人に扮してまでここに来たのならば、何か特別な用向きでもあるのでは?」
「あの、聞きたいことがあるんです!」
マナが急に立ち上がって神父に迫ると、彼は少し驚いて目を見開いた。
「分かりました。では、奥の客室にご案内いたしましょう」
神父が手を上げると、周囲にいた数人にシスターが動き出した。
案内されたのは、赤い絨毯に白いクロスのテーブル、それなりに高価な調度品などがある、上流階級専用の客室だった。出された紅茶も上等で、口にした瞬間に良い香りが広がり、心地よい風味がすっと喉に染み渡った。
「教会に、こんな部屋があるんですね」
マナが特に考えもなく何となく言うと、決して微笑を崩さない神父が答えた。
「貴族が身分を隠して教会を訪れる事は良くあるのです。人の悩みに身分は関係ないのですよ。あなたはどのような悩みがあるのでしょうか?」
「そういう事であれば、俺、いや、わたしは外した方が良さそうですね」
事情を知らないレクサスが席を立とうとすると、マナは必要以上に首を振って言った。
「大丈夫です。悩みとか、そういうのじゃないんです」
「それでは、このわたしに聞きたい事とは?」
暫しの沈黙。マナは落ち着いて考えを纏めていた。その間、神父は急かしたりはせず、柔和な笑顔で少女を見守る。
「わたしエリアノ教会のことをあまり知らなくて、女神エリアノとフェアリーの関係とか、フェアリーが生まれた理由とか、そういうのを知りたいんです」
「そうでしたか、それは尊い事です。わたしの知る限りの全てをお教えいたしましょう」
「ありがとうございます」
「まずは教会の歴史から簡単にお話ししましょう。エリアノ教会が生まれたのは百年程前で、女神エリアノは同時期に実在していた人物です」
「え!? 女神様って本当にいたんですか!?」
驚くマナに、神父が強く頷き、そして語りかけた。
「エリアノ教会の教義は、百年前に生きし女神エリアノの教えに基づいています。女神エリアノの教えは、それまでの教会の教えよりも遥かに崇高であり、さらにフェアリーの存在が彼女を神へと昇華させたのです」
「女神エリアノとフェアリーって、どういう関係なの?」
それがマナが一番知りたいところだ。フェアリーを知るという事は、メラメラを知るということにつながる。とにかくフェアリーに関して少しでも多くの知識が欲しかった。
神父は静かに語った。
「エリアノは天の声を聞いたのです。そして、第二の人類とも言えるフェアリーをその手で創造した。そして彼女は教皇となり、人々にフェアリーを与え導いたのです」
そこでマナは疑問が浮かんだ。
「あの、友達が言ってたんですけど、フェアリーって人間の手で造られるって」
「その通りですよ。エリアノはフェアリーを生み出す術も人々に伝えています。今でもシルフリアでは多くのフェアリーが生まれています」
「そうなんですね。ロディスでは、メラメラ以外のフェアリーは見た事ないですけど」
「シルフリア王国は、フェアリーをあまり外に出したがらないのです。フェアリーを独占することによって生まれる優位性を確保するのが目的です。きっと、あなたのフェアリーは神によって与えられし……」
神父の口が止まった。そして、次第に微笑が崩れて苦笑に転じていく。マナがどうしたのかなと思っていると、神父の視線が自分の懐に固定されている事に気付く。視線を下に向けると、メラメラが膨れ面で胡散臭そうに神父を睨んでいた。
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