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第三十二話 暴露
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翌朝、世間は凄まじい事になっていた。
首相官邸や現役大臣の自宅にまで大勢の記者や報道陣が押しかけ、当人達が出てくるのを今か今かと待っている。
「はっ、さすがにあの事件の後じゃ匿名の情報でもこんだけ動くんだな」
本拠地内の談話室。ソファーでくつろぎながら、急遽特別報道番組へと番組編成が切り替わったテレビを見ていた樹端が鼻で笑う。
「匿名と言いつつ、送ってきたのが俺達なのはわかっているだろうな」
「あれだけのパフォーマンスをやっておいて全く反応が無かったらさすがにやり切れないわ」
テレビを見ての樹端の感想に、広い談話室内で各々好きな場所に座っている双也と永那が答える。
テレビ画面の右上には『非人道的な人体実験の真実』との主題が掲げられ、なかなか現れない大臣達にしびれを切らした番組サイドが映像をスタジオに戻し、巨大なボードやフリップを使ってアナウンサーや有識者と言われるコメンテーター達が情報を確認しながらの議論に切り替えた。
テレビで使われている情報のほとんど全ては、昨夜の荒隆達による研究所襲撃で得たものを組織の情報部が報道各社や警察組織全体へと匿名でばらまいたものだ。変革者を名乗り国会議事堂に乱入した五人の正体が一向にわからず、いかに他の報道機関を出し抜くかに明け暮れていた報道各社にとって、今回の情報は格好の餌となった。
あの日の国会中継は対テロリスト対策用の特殊部隊突入直前に停止させられたが、煤山による子供達を使った公務執行妨害や、屋外で行われた煤山率いる研究所員達との闘いは少しでもいいから情報を欲していた報道陣の手によってテレビで流されている。その映像を見た全ての人が分かっていたのだ。変革者を名乗る五人が普通ではないことを。それからそう月日も経たないうちに、特殊兵団を作る人体実験の情報が匿名でもたらされた。関連付けない方が無理というものだ。
「お、総理が出てきたみたいだぜ」
樹端の言葉通りテレビ画面が首相官邸の中継へと切り替わり、総理大臣が秘書やSP達に守られながら現れた。報道陣からは口々に質問が飛び出す。
「人体実験は本当にあったのですか?」
「あの変革者を名乗る者達との関係は?」
そういった質問が飛び交っていたが総理大臣は何一つ声を発することなく足早にその場を通り抜ける。
「当然だんまりだろうな」
「自分一人の責任では済まないものね」
総理大臣達の予想通りの行動を、腕を組んで眺める双也と肩をすくめる永那。その時、微かな音を立てて談話室の扉が開き、三人の視線が集まる。入ってきたのは朝から姿を消していた荒隆だった。
「荒隆、どこ行ってたんだ?」
「野暮用」
「ふーん?」
樹端の問い掛けに対し、言外に答える気はないと告げる。それ以上詮索する気もないのか、樹端の視線はテレビへと戻っていった。永那と双也は違ったようで、物言いたげな視線を荒隆へと向けている。視線に気付いていた荒隆が口を開く。
「言いたいことがあるなら言えよ」
「あまり危険は冒すなよ」
「よっぽど気に入ったのね」
双也の忠告と、永那の一見何を指しているのかわからない発言をも正確に汲み取った荒隆が口の端を釣り上げる事でそれに答える。やれやれと言わんばかりに肩をすくめた永那は、座っていた椅子から立ち上がると唯一の出入口である扉へと向かっていく。
「美早の様子を見てくるわ。きっと病室で暇してるでしょうから」
可愛い妹分の心配を口にしつつ談話室を後にした。
背後で喋る三人の会話を聞きながらテレビを見ていた樹端が、ふと思い出したように振り向く。
「なぁ、これでほんとにこの国が変わるのか?」
「関わりのあった大臣や大臣経験者のリストまで公表している報道もある。さすがにもみ消すのは不可能だろう。それに、大丈夫なんだろ?」
「……ダメなら俺達が直接手を下すだけだ」
樹端の疑問に答えていた双也が、最後だけ意味深な視線を荒隆へ送る。全てバレているのだと察した荒隆がため息交じりに答えた。
所変わって国会議員、出井州凌平の議員事務室。秘書の待機場所と壁とガラスで仕切られた奥まった一室で出井州が一人、小さなメッセージカードを片手に笑っている。
『やることはやった。次はあんたの番だ』
宛先も差出人の名前もない、ただそれだけが印刷されたカードが鍵のかかった事務机の引き出しに入っていた。昨夜、出井州がこの部屋を秘書と共に立ち去った時にはなかったものだ。この奥まった部屋の鍵は出井州自身が、事務室の鍵は秘書が持っている。そして間違いなく昨日もきちんと戸締りをして帰ったのだ。
「やってくれるね。まさかこれだけの為にくるとは思わなかったよ」
差出人不明のともすれば危険物扱いされかねないそれを、出井州は大事そうに胸の内ポケットへと仕舞う。このカードを見た瞬間から、出井州には差出人が分かっていた。
「ちゃんと期待に応えてみせるよ。荒隆くん」
その小さな呟きは誰の耳に届くこともなく消えた。
首相官邸や現役大臣の自宅にまで大勢の記者や報道陣が押しかけ、当人達が出てくるのを今か今かと待っている。
「はっ、さすがにあの事件の後じゃ匿名の情報でもこんだけ動くんだな」
本拠地内の談話室。ソファーでくつろぎながら、急遽特別報道番組へと番組編成が切り替わったテレビを見ていた樹端が鼻で笑う。
「匿名と言いつつ、送ってきたのが俺達なのはわかっているだろうな」
「あれだけのパフォーマンスをやっておいて全く反応が無かったらさすがにやり切れないわ」
テレビを見ての樹端の感想に、広い談話室内で各々好きな場所に座っている双也と永那が答える。
テレビ画面の右上には『非人道的な人体実験の真実』との主題が掲げられ、なかなか現れない大臣達にしびれを切らした番組サイドが映像をスタジオに戻し、巨大なボードやフリップを使ってアナウンサーや有識者と言われるコメンテーター達が情報を確認しながらの議論に切り替えた。
テレビで使われている情報のほとんど全ては、昨夜の荒隆達による研究所襲撃で得たものを組織の情報部が報道各社や警察組織全体へと匿名でばらまいたものだ。変革者を名乗り国会議事堂に乱入した五人の正体が一向にわからず、いかに他の報道機関を出し抜くかに明け暮れていた報道各社にとって、今回の情報は格好の餌となった。
あの日の国会中継は対テロリスト対策用の特殊部隊突入直前に停止させられたが、煤山による子供達を使った公務執行妨害や、屋外で行われた煤山率いる研究所員達との闘いは少しでもいいから情報を欲していた報道陣の手によってテレビで流されている。その映像を見た全ての人が分かっていたのだ。変革者を名乗る五人が普通ではないことを。それからそう月日も経たないうちに、特殊兵団を作る人体実験の情報が匿名でもたらされた。関連付けない方が無理というものだ。
「お、総理が出てきたみたいだぜ」
樹端の言葉通りテレビ画面が首相官邸の中継へと切り替わり、総理大臣が秘書やSP達に守られながら現れた。報道陣からは口々に質問が飛び出す。
「人体実験は本当にあったのですか?」
「あの変革者を名乗る者達との関係は?」
そういった質問が飛び交っていたが総理大臣は何一つ声を発することなく足早にその場を通り抜ける。
「当然だんまりだろうな」
「自分一人の責任では済まないものね」
総理大臣達の予想通りの行動を、腕を組んで眺める双也と肩をすくめる永那。その時、微かな音を立てて談話室の扉が開き、三人の視線が集まる。入ってきたのは朝から姿を消していた荒隆だった。
「荒隆、どこ行ってたんだ?」
「野暮用」
「ふーん?」
樹端の問い掛けに対し、言外に答える気はないと告げる。それ以上詮索する気もないのか、樹端の視線はテレビへと戻っていった。永那と双也は違ったようで、物言いたげな視線を荒隆へと向けている。視線に気付いていた荒隆が口を開く。
「言いたいことがあるなら言えよ」
「あまり危険は冒すなよ」
「よっぽど気に入ったのね」
双也の忠告と、永那の一見何を指しているのかわからない発言をも正確に汲み取った荒隆が口の端を釣り上げる事でそれに答える。やれやれと言わんばかりに肩をすくめた永那は、座っていた椅子から立ち上がると唯一の出入口である扉へと向かっていく。
「美早の様子を見てくるわ。きっと病室で暇してるでしょうから」
可愛い妹分の心配を口にしつつ談話室を後にした。
背後で喋る三人の会話を聞きながらテレビを見ていた樹端が、ふと思い出したように振り向く。
「なぁ、これでほんとにこの国が変わるのか?」
「関わりのあった大臣や大臣経験者のリストまで公表している報道もある。さすがにもみ消すのは不可能だろう。それに、大丈夫なんだろ?」
「……ダメなら俺達が直接手を下すだけだ」
樹端の疑問に答えていた双也が、最後だけ意味深な視線を荒隆へ送る。全てバレているのだと察した荒隆がため息交じりに答えた。
所変わって国会議員、出井州凌平の議員事務室。秘書の待機場所と壁とガラスで仕切られた奥まった一室で出井州が一人、小さなメッセージカードを片手に笑っている。
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宛先も差出人の名前もない、ただそれだけが印刷されたカードが鍵のかかった事務机の引き出しに入っていた。昨夜、出井州がこの部屋を秘書と共に立ち去った時にはなかったものだ。この奥まった部屋の鍵は出井州自身が、事務室の鍵は秘書が持っている。そして間違いなく昨日もきちんと戸締りをして帰ったのだ。
「やってくれるね。まさかこれだけの為にくるとは思わなかったよ」
差出人不明のともすれば危険物扱いされかねないそれを、出井州は大事そうに胸の内ポケットへと仕舞う。このカードを見た瞬間から、出井州には差出人が分かっていた。
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