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第12話 太鼓持ち
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「まあ、深瀬の奴もお嬢様のことは憎からず思っているようですからねえ。向こうも二人きりで会いたいと思っているでしょう」
それに小島は、苦笑だけを漏らした。
そう、桐山が察しているとおり、小島は互いの気持ちに気づいている。それを知っているから、桐山は彼に助けを求めたのだ。そして、同時に監視役にしようとしている。どちらの家にも出入りできる彼ならば、自分の行動が村で噂になっていないかどうか、知ることは簡単だからだ。
「大丈夫。ちゃんと深瀬にもこの計画を伝えます。必ずここでお会いできるようになりますよ」
「ありがとう。想いを成就したいわけではないの。ただ、この気持ちを大切にしたいだけです」
桐山はそこで言葉を切ると、先に蔵から出ていた。するとそこに、荒井が慌てた様子でやって来る。
「お嬢様、ずっと外におられたんですか。本当に、一体どちらに行かれたかと慌ててしましたよ」
「あら、ごめんなさい」
桐山は何でもないように返し、最近ではちょっと出かけるだけでもこれだと溜め息を吐く。それはおそらく、荒井も両親も自分の気持ちに気づいているからだろう。言葉にも態度にも出していないはずだが、深瀬のこととなったら敏感に反応するのが桐山の者だ。そして、深瀬と間違いがあってはならない。そう強く意識しているのだ。
しかし、こう過剰に反応されるようになっては、いつ見合いを強行するか解らないと、こちらがハラハラするとは思わないのだろうか。
「では、お嬢様、これで失礼します」
と、そこにぬっと蔵から出てきた小島がそう返す。その間の悪さに、桐山は飛び跳ねるほどドキッとした。そして慌てて荒井を見ると、その目が何をやっていたと追及するように鋭くなるのが、夕闇の中でも解った。
「ああ、荒井さんもいらっしゃったんですね。どうも遅い時間にお邪魔しました。いやあ、あの壺はなかなかですねえ。いいものを見せていただきましたよ。桐山の旦那様にもそうお伝えください」
しかし、小島は慌てた様子もなく、平然とそんなことを言い出す。壺って何だと思っていたが
「ああ。旦那様がこの前、買い求めてこられたものですね。大きくてびっくりしたでしょう。あの時も小島君にも見せたいとおっしゃってましたが、今日いらしていたなんて、気づかずにすみません。お嬢様。それでしたら一言おっしゃってくだされば、そのような案内、私が致しますのに」
荒井は壺に関して知っていたようで、ふうっと溜め息を吐く。どうやら桐山が知らなかっただけで、父が壺を買って来たことは有名であるらしい。最近は物思いに耽ることが多かったから、完全に聞き逃していた。こういうことが周囲の疑惑を招くのだ。今後は注意して動く必要があるなと心の中に留め置く。
「新しいお菓子が出来たでしょ。そのことについて話をしたついでです。久々に小島君とお話ししたかったし、問題ないわ」
桐山は何とか誤魔化し、小島に小さくありがとうと頷いておく。小島はそれで了解してくれ
「では、遅くなってしまったので、今日は失礼します。お菓子、ごちそうさまでした。旦那様にもよろしくお伝えください」
そう挨拶をすると、堂々と帰って行った。これで、桐山が良からぬ企みをしていることも、バレずに済んだわけだ。まったく、太鼓持ちと言われるだけのことはあるなと、小島の処世術に桐山は舌を巻く。
「壺なんて、どうして買ったのかしら」
しかし、この後の嘘に問題あってはならないと、桐山は荒井から壺に関しての情報を聞き出しておく。何事もやる前にバレては意味がない。小島を引き込んだ今、ここからが勝負なのだ。
「いつもの一目惚れでございますわ。旦那様は東京の会社に行くと、ついでにいつも寄り道をなさっていらっしゃいますからね。その割にすぐに蔵に仕舞ってしまうんだから、困ったものですよ。壺の前は大きなお皿でしたし。そのうち蔵の中が物だらけになってしまいますわ」
「へえ」
確かに都会に出ると何かを買わずにはいられないのが、最近の父だ。それだけ、作った会社が上手くいっているということだろう。お菓子がそんなにも売れるのか。甘い物は好きだが、毎日食べたいとは思わない桐山には不思議なことだった。
「ああ、それよりもご夕食の時間ですよ」
ぼんやりとする桐山に、荒井はそう言って家の中に急き立てたのだった。
それに小島は、苦笑だけを漏らした。
そう、桐山が察しているとおり、小島は互いの気持ちに気づいている。それを知っているから、桐山は彼に助けを求めたのだ。そして、同時に監視役にしようとしている。どちらの家にも出入りできる彼ならば、自分の行動が村で噂になっていないかどうか、知ることは簡単だからだ。
「大丈夫。ちゃんと深瀬にもこの計画を伝えます。必ずここでお会いできるようになりますよ」
「ありがとう。想いを成就したいわけではないの。ただ、この気持ちを大切にしたいだけです」
桐山はそこで言葉を切ると、先に蔵から出ていた。するとそこに、荒井が慌てた様子でやって来る。
「お嬢様、ずっと外におられたんですか。本当に、一体どちらに行かれたかと慌ててしましたよ」
「あら、ごめんなさい」
桐山は何でもないように返し、最近ではちょっと出かけるだけでもこれだと溜め息を吐く。それはおそらく、荒井も両親も自分の気持ちに気づいているからだろう。言葉にも態度にも出していないはずだが、深瀬のこととなったら敏感に反応するのが桐山の者だ。そして、深瀬と間違いがあってはならない。そう強く意識しているのだ。
しかし、こう過剰に反応されるようになっては、いつ見合いを強行するか解らないと、こちらがハラハラするとは思わないのだろうか。
「では、お嬢様、これで失礼します」
と、そこにぬっと蔵から出てきた小島がそう返す。その間の悪さに、桐山は飛び跳ねるほどドキッとした。そして慌てて荒井を見ると、その目が何をやっていたと追及するように鋭くなるのが、夕闇の中でも解った。
「ああ、荒井さんもいらっしゃったんですね。どうも遅い時間にお邪魔しました。いやあ、あの壺はなかなかですねえ。いいものを見せていただきましたよ。桐山の旦那様にもそうお伝えください」
しかし、小島は慌てた様子もなく、平然とそんなことを言い出す。壺って何だと思っていたが
「ああ。旦那様がこの前、買い求めてこられたものですね。大きくてびっくりしたでしょう。あの時も小島君にも見せたいとおっしゃってましたが、今日いらしていたなんて、気づかずにすみません。お嬢様。それでしたら一言おっしゃってくだされば、そのような案内、私が致しますのに」
荒井は壺に関して知っていたようで、ふうっと溜め息を吐く。どうやら桐山が知らなかっただけで、父が壺を買って来たことは有名であるらしい。最近は物思いに耽ることが多かったから、完全に聞き逃していた。こういうことが周囲の疑惑を招くのだ。今後は注意して動く必要があるなと心の中に留め置く。
「新しいお菓子が出来たでしょ。そのことについて話をしたついでです。久々に小島君とお話ししたかったし、問題ないわ」
桐山は何とか誤魔化し、小島に小さくありがとうと頷いておく。小島はそれで了解してくれ
「では、遅くなってしまったので、今日は失礼します。お菓子、ごちそうさまでした。旦那様にもよろしくお伝えください」
そう挨拶をすると、堂々と帰って行った。これで、桐山が良からぬ企みをしていることも、バレずに済んだわけだ。まったく、太鼓持ちと言われるだけのことはあるなと、小島の処世術に桐山は舌を巻く。
「壺なんて、どうして買ったのかしら」
しかし、この後の嘘に問題あってはならないと、桐山は荒井から壺に関しての情報を聞き出しておく。何事もやる前にバレては意味がない。小島を引き込んだ今、ここからが勝負なのだ。
「いつもの一目惚れでございますわ。旦那様は東京の会社に行くと、ついでにいつも寄り道をなさっていらっしゃいますからね。その割にすぐに蔵に仕舞ってしまうんだから、困ったものですよ。壺の前は大きなお皿でしたし。そのうち蔵の中が物だらけになってしまいますわ」
「へえ」
確かに都会に出ると何かを買わずにはいられないのが、最近の父だ。それだけ、作った会社が上手くいっているということだろう。お菓子がそんなにも売れるのか。甘い物は好きだが、毎日食べたいとは思わない桐山には不思議なことだった。
「ああ、それよりもご夕食の時間ですよ」
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