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勝負は大晦日から始まってる!?

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 年末年始も黒シリーズスピンオフとなります(笑)


「さ、気合を入れていきましょう」
「はい?」
 急にそんなことを言う怜央に、毎度のことながら文隆は驚かされる。が、いつもと違い、文隆は本を読んでいない。絶賛、部屋の掃除の最中だ。
「いいですか?互いのプライベート空間にずかずか入り、色々と探れるチャンスがこの大みそかだと思いません?」
「いいえ」
 訳の分からないことを言う怜央に、文隆は即答。すると、怜央が何かを取り出して掲げた。
「おまっ」
「文隆って案外初心ですよね~。直人の寝顔写真を枕の下に入れているなんて」
「――」
 速攻でプライベートの秘密を暴かれた文隆は、顔を真っ赤にして写真を取り返した。夢くらい二人でラブラブだったらいいな、そんな儚い願望だ。放っておいてほしい。
「という感じで、互いのプライベートを見ちゃいましょう」
「いや。そのメインは直人さんなんだよな」
「ええ。奴の男としての部分が見たい」
「――」
 男としての部分?それは何を指して言うのか。文隆は色々と想像し、そして阻止しなければと決意する。一番ヤバいヤツだった時が困るからだ。
「それに大みそかですよ。ここは正月に向けて布石を打っておかないと」
「いや、布石って。正月料理を作るくらいだけど」
 他に何かやることがあるのかと、文隆は首を捻る。すると怜央が真剣な顔になった。
「あのですね。このままだったらシリーズが本当に完結するまでに、直人と次のステップに進むこともなく終わりますよ。いいんですか?まずはキス。それをする下地を作っておかないと」
「ほう」
 それも難しいと思うけどと、文隆は写真を枕の下に戻し、掃除を再開する。
「夢の中のキスで満足なんですか?」
 そんな文隆に、怜央、会心の一撃。文隆はその場にへたり込んだ。
「ま、満足じゃないけど」
「でしょ?となると、まずは直人の男の本能を刺激しないと。特に文隆は抱いてもらいたいんでしょ?俺よりハードルが高いですよ」
「――」
 なぜ、こんなにも力説されなければならないのか。文隆はへたり込んだまま悩む。しかし、怜央の言うことにも一理ある。こちらから動かなければ直人は動かない。それは自然の摂理のごとく、厳然とした事実だった。
「ま、まあ、キスならば、頑張ってもらおうか」
「そうこなくっちゃ。じゃ、直人を呼んできますね。警戒心を解くという意味でも、文隆の部屋の掃除から手伝ってもらうべきです」
 そう言うと、怜央は意気揚々と出て行った。文隆はもちろん、その間に直人の寝顔写真を、机の鍵のかかる引き出しへと仕舞うのだった。



「年末って、大掃除をしなきゃいけないんだよね。大学でも急かされてやるなあ」
 呼ばれてやって来た直人は、そんなことを言いながら素直に掃除を手伝ってくれた。ああ、いい人だよなと、文隆は苦笑しつつ思う。
「直人さん。研究室は綺麗な方ですか?」
「ううん。汚い。びっくりした」
「――そうですか」
 それは意外と、文隆は笑ってしまう。
「あれでしょ?不器用だから、あれこれ汚すんでしょ?しかも普段は全く掃除をしない」
 しかし怜央は意外でも何でもないと、ずばっと指摘した。
「む、むう。そのとおり」
 すると直人の顔が真っ赤になる。なるほど、そういう考え方もあったかと、文隆は納得だった。
「そうなんだよね。服も、真っ黒だからぱっと見解らないんだけど、汚れているんだよね。ジュースとか蕎麦のお汁とか、零しているらしくて」
「ちゃんと洗ってますか?」
 怜央はそう言いつつ、にやにや顔で直人に近づく。そしてパーカーをくんくんと嗅いだ。ちょっぴり直人特有の臭いがする。
「むう。これ、二日目」
「なるほど」
 今日は洗いに出しましょうと、怜央はにやにやだ。別に悪い臭いではない。というより、好きな相手の匂いが解ってラッキーだ。
「変態」
「ええっ。普通でしょ?」
 ぼそっとツッコんだ文隆に、怜央は羨ましいだけだろと笑う。それに、文隆はぐっと言葉に詰まった。
「終わったよ」
 そんな話をしていると、カーペットのコロコロを任されていた直人が、コロコロを差し出してきた。先ほど文隆が一度掛けているので、それほどゴミは付いていない。
「じゃあ、ここは終わりですね。次は」
「俺の部屋に行きましょう」
 受け取ってコロコロを捲る文隆と、意気揚々な怜央。そんな二人に挟まれて、直人は怜央の部屋へと入ることになる。
 が、怜央の部屋だと思うと、直人が緊張するのが解った。というのも、ヤバい物があることは知っているのだ。
「直人、期待してます?」
 にやっと笑って、いそいそとベッドの下から鎖を取り出すので、文隆が素早く回収。どこがキスだ。明らかにその先に行こうとしている。
「ちっ。このまま押し倒して3Pでも良かったでしょ」
「おいおい。年末だからって総てが許されると思うなよ」
 残念がる怜央に、そうはいくかと文隆は睨んだ。直人を見ると、やはり青ざめている。
「まあまあ。やっぱりここの掃除は自分でします。直人の部屋に行きましょう」
 怜央があっさりと諦めたので、場所は直人の部屋へと移る。そこは、生活感のない空間だった。
「ここに越してきたまんまって感じですね」
 ここまでとはと、怜央は呆れる。が、文隆は何度か掃除や洗濯物を置くためにやって来ているので知っている。こういう時、家事担当は得だ。ちなみに直人の匂いだって知っている。こっそり、洗濯機に入れる前に嗅いでしまった。人のことは言えない。
「むう。だって、ご飯食べて寝るだけだもん」
「――」
 直人は何がおかしいのと、腕を組んで唸る。たしかにそうだろう。仕事終わって帰って来て、ご飯食べて寝る。でもね、一応は恋人と一緒に生活しているんだよと、怜央は言いたくなる。
「さ、掃除しましょう」
 期待外れという顔をする怜央を放置し、文隆は直人にコロコロを渡した。直人は早速、部屋の隅からコロコロ掛けを開始した。
「ベッドの下にも秘密はないってことか?」
 怜央は諦めきれずに即、ベッドの下を覗き込んだ。すると、何やら箱が置いてある。
「何でしょう、これ」
 怜央が箱を取り出して、蓋を開ける。
「ああっ」
 すると直人が大絶叫だ。これは期待大。そう思って文隆もついつい中を覗き込んでしまう。
「あっ」
 しかし、出てきたのはハロウィンの時のジャックオランタンや、紅葉の枯れた葉っぱ、他にもクリスマスケーキの上に載っていた飾りや、三人で撮った写真だった。怜央の期待していたようなものは一つも無い。
「なるほど。子どもの宝箱みたいですね」
「むう。だって、初めてだから」
「そうですね」
「大事ですね」
 恥ずかしそうに言う直人に、怜央も文隆もメロメロだった。こうして、直人の小さな秘密、三人での思い出をちゃんと大事にしてくれている事実を知る、大掃除となったのだった。
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