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クリスマスまで待てないから餅つきやろう(黒シリーズスピンオフ)

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「クリスマスまで待てません!餅つきやりましょう!!」
「ほぼタイトル通りの台詞?!」
 突然の高橋怜央の宣言に、本を読んでいた金谷文隆は驚いた。これ、いつものパターンだ。今後色々と更新される予定だが、こういう前説があるので気楽に読んで頂きたい。しかもどういうわけか、文隆が寛いでいると、どういうわけか(お決まりとして)怜央が何か企む。
「長いんですよ、間が。こちらではまだ載せてないから解らないでしょうけど、ポッキーの日から一か月以上もイベントが空くなんて」
 どんどんと、テーブルを叩いて怜央が吼える。日本人は何かとイベントをやっている。それに便乗した企画だが、月一の登場なんて嫌だと怜央が騒ぐ。
「お前なあ。ちゃんと本編の黒シリーズが存在するだろ?まだこっちに来てないけど、続きも控えているんだ。別にいいだろ?」
「あれとこれは別物ですよ。あんな深刻なストーリーとギャグBLを一緒にしないでください!」
 登場人物が言うことかと、文隆は呆れる。たしかにあれ、暗く深刻なストーリーだ。おかげで閲覧数が伸びないと、作者も嘆いている。そのための宣伝用ギャグストーリーがこれだ。
「ということで、歳末餅つき大会をやりましょう」
「餅つきねえ」
 そんなもん、やったことないぞと文隆は思う。どうやってやるのだろう。
「もち米と蒸し器だけ用意しておいてください。後は俺が段取りしておくんで」
 すでにやる気の怜央はそう宣言すると、足早に文隆の部屋から去って行くのだった。




「へえ。これでお餅が出来るの?」
 ということで、唐突に始まった歳末餅つき大会。二人のお目当ての相手、可愛い系男子である佐々木直人は目をキラキラとさせていた。好奇心旺盛な人物だけに、目新しいものには食いつく。ついでに、怜央が用意した物が良かったのだろう。
「そうですよ。ここに蒸し上がったもち米を入れると、お餅が搗きあがるというわけです」
「へえ」
 そんな感心している直人の目の前にあるのは、餅つき機だ。家庭用の小さなやつ。それを怜央は通販で買っていた。文隆はもち米を蒸しながら、それでいいのかなと思わなくもない。餅つき大会じゃなかったのか。
「不満そうですね、文隆」
「ああ。まあね。餅つき大会っていうより、餅丸め大会になっていると思うんだが」
 文隆がありのままの感想を述べると、怜央はそのとおりと頷いた。
「当たり前でしょう。理系に体力を求めてはいけません。特に俺たちのような理論系の人間は、日々パソコンの前から動かないんですよ。杵と臼で餅を作ろうものなら、翌日筋肉痛は避けられません」
「言っちゃったよ」
 そこ、ギャグなんだから筋肉痛もオチとしていいんじゃないかと、文隆は思う。でも、そういうのは怜央の美学に反するらしい。
「ともかく、綺麗な白い餅を作る。これ、別サイトでやってる妄想コンテスト(2018年の話)のお題を拝借しているんで、白い餅、これが重要です」
「そこも言っちゃうんだ」
「ええ。白ってテーマならば他でもよかったのに、ねえ」
 そこで怜央が意味ありげに笑う。その顔だけで何を言いたいか解った文隆は、ちょっと悲しい気分だ。だって、二人はこれでも恋人同士なのだ。複雑な三角関係なのだ。はあ。
「餅が不味くなる」
「何も言ってませんよ」
 文隆の吐き出した言葉に、怜央はにやにやだ。何を想像したのか、しっかり伝わってしまっている。その間、問題の直人はといえば、餅つき機をしげしげと眺めていた。早く動かないかなと、それを待ちわびる子どもと変わらない。
「直人さん、もうすぐ蒸し上がりますからね」
「むう」
 どう動くんだろうと悩みながら直人は頷いた。一応、餅つきの風景は見たことがある。一生懸命、杵を振り上げて作るのだ。ところが、目の前にある機械は、中心に何やら回転させる部品のついた、大きな鍋のような感じ。これがどう動くのだろう。楽しみだ。
「では、入れますよ」
 あまりに熱心に機械を見る直人に苦笑しつつ、文隆は蒸し上がったもち米を持って直人の傍に行った。そして、そっと機械の中に入れる。炊き上がりのお米の匂いが、ダイニングに広がった。
「美味しそう」
「まだですよ」
 すでに食べれそうという直人に、怜央はここからが本番と、透明な蓋をして餅つき機のスイッチを入れた。すると、もち米がぶるぶると震えだす。
「おおっ」
「意外と面白い」
 感嘆の声を上げる直人と、初めて餅つき機を見た文隆は驚いた。
「でしょ?俺の祖父の家にこれの旧型があったんでね。意外と面白いのは知ってました」
 にやにやと得意げな怜央だ。「餅つきなんて機械にやらせればいいじゃない」というのは、祖父からなんだなと文隆は思った。が、そんなことを言っているうちに、もち米はどんどん餅っぽくなっていく。大きな雪見だいふくを見ている気分だ。
「凄い。勝手につるつるになっていく」
 直人はもう齧り付いて見ていた。いやあ、これだけ楽しんでくれるならば、歳末餅つき大会大成功だと怜央はご満悦である。
 やがて機会が停止し、大きなお餅が登場した。それを、怜央と文隆でダイニングテーブルに用意しておいた、粉を打ってある台へと運ぶ。
「鏡餅、作りますか?」
「そうだな。直人さん、小さい方をお願いしますね」
 これ全部を食うのは無理だなと、鏡餅もついでに作ることとなる。文隆は大きさの違う塊を作ると、直人に小さい方を渡した。
「えっと」
「こうやって丸めてください」
 搗きたての餅を人生初めて触った直人は、どうするのと戸惑っている。それに怜央が嬉しそうに実践してみせた。綺麗な丸い餅が出来上がる。
「ほう」
 直人は感心した声を上げると、せっせと丸め始める。が、不器用な直人がやると、上手く丸くならない。
「むう」
「そんなに真剣に丸くしなくても大丈夫ですよ」
 文隆が大きな餅を作ったところで、直人の手から餅を取る。並べてみると出来栄えの差が見えるが、重ねてしまうから大丈夫。上に色々と飾りつけもするので、見栄えの悪さは気にならなくなるだろう。
「へえ。鏡餅ってそういうものなんだ」
 文隆の説明に、直人は感心。この人、大人になってからもイベントに興味がないままだったんだなと、文隆も怜央も溜め息だ。
 その後、残りを正月に食べる用の餅に丸めていく。
「じゃあ、搗き立てのお餅を食べてみますか」
 怜央の発案で、きな粉と餡子が用意される。それを掛けて、三人は搗き立ての餅を堪能だ。
「美味しい」
「ふふっ。ああ、あれがあれだったらなあ」
 もちをみょ~んと伸ばして食べる直人を見て、怜央がそんな不穏な発言をする。
「怜央。やっぱりお前」
「考えちゃうでしょ。せっかく白ってテーマなのに」
 やらしいことしたいよと、怜央が真剣に訴えてくる。だとしても、食品で発想するんじゃない。
「餅を食え。この変態!」
 こうして、クリスマス前に企画された餅つき大会は無事に終了するのだった。
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