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第31話 招待客の中の仲間外れ
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「まずは、絶対に違う弁護士から行くか。こいつが黒だったら大笑いだ」
にやにやと笑いながら英士はスマホで検索する。すると、緒方忠文が勤める弁護士事務所のホームページが出てきた。所属する弁護士は十五人。大所帯だ。しかも東京と大阪に事務所があるという。
「大手に所属しているんだな。専門は民事か」
「見た感じ、刑事訴訟を担当してそうですけどね」
英士のスマホを覗き見た翔馬は、そこに写る忠文の顔を見てそんな感想を抱いた。刑事である将平と似たような雰囲気を持っているなと思ったせいだ。
「こいつと接点はなさそうだな。出身地も大学も、千春と関係ない。それに、わざわざ嫌がらせをすることもないか。というより、気にくわないことがあれば裁判に持ち込みそうなタイプだよな。でも、千春の研究はオリジナルだということは間違いないし、裁判する名目がないか」
「そうですよ。ちゃんと学会で発表した後のものですしね。論文だって、話題になる前のものも多数あります。同業者だってあれが先生の生み出したものだと知ってますよ。というより、ネットを騒がしたくらいですからそこを疑う奴はいないです」
裁判沙汰になるような疚しいことは全くないと翔馬は自信を持って断言する。
「だな。まあ、緒方は立場的にもやらないだろ。くだらない悪戯のせいで弁護士資格の停止なんて、洒落にならないだろうからな」
「それを言うなら、他の人だってそうじゃないですか」
「いや。だからさ、緒方はあり得ないんだって。緒方は異質だと思うよ。この招待客の中で、明らかにこいつだけ浮いている。だから先に消すために検索したんだから」
「へっ」
そうなのかと、翔馬は一覧表をじっと睨む。しかし、職業に共通点はない。年齢もバラバラだ。それは最初に確認したことではなかったか。
「いやいや。弁護士以外に共通する事項が存在するんだよ」
英士はそう言ってにやりと笑うが、翔馬にはさっぱり閃かない。
小説家に建築家、そして千春が研究者。どこに共通点があるというのか。
「クリエイティブな要素を含む。これだよ」
「ああ、言われてみれば」
たしかにそういう共通因子は存在するなと、翔馬は頷いた。そして弁護士が弾かれるのも解る。彼らは法に則って仕事をしているのだ。クリエイティブに動かない。むしろ動いてもらっては困る。
「そういうこと。さらに、何かを作っているっていう大雑把な括りも出来るんだよ」
「そうですね。うちの先生は人工知能、小説家は当然小説で、建築家も建築物ですね。そして弁護士だけが何も作らないことになる」
「だろ。というわけで、緒方は別なんだよ。おそらくこいつは、安西の知り合いなんじゃねえか」
「でしょうかね。ということは、この二人も面識がないのに呼ばれた可能性があると」
「そうだとは思うけど、どちらかが悪戯犯だと考えると、違うってことになるな」
「ああ。先生を呼び出させたってことですか。面白い奴がいるとかなんとか言って」
「そう。だったら、今起きている事件で安西が殺された理由も解るってもんだ」
結構繋がったぞと、英士は苦笑いを浮かべる。こう考えればこの中に犯人がいるという仮定の話でしかないが、今回のことと嫌がらせを結びつけるにはこれしかない。
「なるほど。でも、どっちでしょう」
「そうだな。決定打がなさそうだよな。どちらにもこの嫌がらせの山のメリットがあるわけでもないし」
そこがこの仮定の最大の問題点だよなと、英士はより一層苦笑いになるのだった。
石田の用意してくれたビーフシチューは絶品で、食欲がないかと思われたがぺろっと平らげてしまった。自分の胃袋の現金さに驚きつつも、こういう時、プロの料理人がいてくれて良かったとも思う。
「地下水を利用した仕掛けがあるなんて驚きだな。ひょっとして他にもそういう仕掛けがあるんでしょうか?」
同じくすぐに食べ終えた大地が、どう思うと千春に訊いてくる。たしかに仕掛けが一つだけとは考え難い。だが、他に何かあるかと訊かれても咄嗟に思いつくものはなかった。
「それに、もし他に仕掛けがあるならば、ドアのように影響が出ているはずだからな」
「ああ、そうか。ドアが開かないのは地下水の水位が上がったから、ですもんね」
他に使用できなくなったというのは、今のところない。トイレも水道も問題ないことから、こちらは地下水が絡んでいないらしかった。
「それにしても、どうしてあんな仕掛けを作ったんだか。意味があるとは思えないな。ひょっとして、安西先生の遊び心だったのかな」
忠文はそっちが知りたいと首を傾げた。たしかにドアが使えなくなる仕掛けなんて、何の必要があるのだろう。時間を予測できるとはいえ、大雨が降ると影響するくらいだ。不便極まりない。
「そう言えば、どうやって夜中の間、閉め切っていたんでしょうね。他にも予測していた時間以外に閉まった場合、安西先生は開けることが出来た。つまり、水の量を調節する場所があるはずですよね」
「ああ、そう言えば」
すっかり忘れていたがと、忠文は手を叩いた。たしかに田辺は、調節が可能らしいと証言していた。ということは、どこかにその仕掛けを操作できる場所があるはずだ。
「今度はそれを探さないといけないわけか」
「でしょうね。尤も、その仕掛けが発見できたとしても、この大雨では操作は無理でしょうけど」
雨水で増水し続けるのだから排水が追い付かないだろうと千春は指摘する。それに地下水が関係しているとならば、雨が止んだ後もしばらく水位は上がったままだろう。他へと染み込むまでに時間が掛かるからだ。となると、ドアは数日間使えないことになる。
にやにやと笑いながら英士はスマホで検索する。すると、緒方忠文が勤める弁護士事務所のホームページが出てきた。所属する弁護士は十五人。大所帯だ。しかも東京と大阪に事務所があるという。
「大手に所属しているんだな。専門は民事か」
「見た感じ、刑事訴訟を担当してそうですけどね」
英士のスマホを覗き見た翔馬は、そこに写る忠文の顔を見てそんな感想を抱いた。刑事である将平と似たような雰囲気を持っているなと思ったせいだ。
「こいつと接点はなさそうだな。出身地も大学も、千春と関係ない。それに、わざわざ嫌がらせをすることもないか。というより、気にくわないことがあれば裁判に持ち込みそうなタイプだよな。でも、千春の研究はオリジナルだということは間違いないし、裁判する名目がないか」
「そうですよ。ちゃんと学会で発表した後のものですしね。論文だって、話題になる前のものも多数あります。同業者だってあれが先生の生み出したものだと知ってますよ。というより、ネットを騒がしたくらいですからそこを疑う奴はいないです」
裁判沙汰になるような疚しいことは全くないと翔馬は自信を持って断言する。
「だな。まあ、緒方は立場的にもやらないだろ。くだらない悪戯のせいで弁護士資格の停止なんて、洒落にならないだろうからな」
「それを言うなら、他の人だってそうじゃないですか」
「いや。だからさ、緒方はあり得ないんだって。緒方は異質だと思うよ。この招待客の中で、明らかにこいつだけ浮いている。だから先に消すために検索したんだから」
「へっ」
そうなのかと、翔馬は一覧表をじっと睨む。しかし、職業に共通点はない。年齢もバラバラだ。それは最初に確認したことではなかったか。
「いやいや。弁護士以外に共通する事項が存在するんだよ」
英士はそう言ってにやりと笑うが、翔馬にはさっぱり閃かない。
小説家に建築家、そして千春が研究者。どこに共通点があるというのか。
「クリエイティブな要素を含む。これだよ」
「ああ、言われてみれば」
たしかにそういう共通因子は存在するなと、翔馬は頷いた。そして弁護士が弾かれるのも解る。彼らは法に則って仕事をしているのだ。クリエイティブに動かない。むしろ動いてもらっては困る。
「そういうこと。さらに、何かを作っているっていう大雑把な括りも出来るんだよ」
「そうですね。うちの先生は人工知能、小説家は当然小説で、建築家も建築物ですね。そして弁護士だけが何も作らないことになる」
「だろ。というわけで、緒方は別なんだよ。おそらくこいつは、安西の知り合いなんじゃねえか」
「でしょうかね。ということは、この二人も面識がないのに呼ばれた可能性があると」
「そうだとは思うけど、どちらかが悪戯犯だと考えると、違うってことになるな」
「ああ。先生を呼び出させたってことですか。面白い奴がいるとかなんとか言って」
「そう。だったら、今起きている事件で安西が殺された理由も解るってもんだ」
結構繋がったぞと、英士は苦笑いを浮かべる。こう考えればこの中に犯人がいるという仮定の話でしかないが、今回のことと嫌がらせを結びつけるにはこれしかない。
「なるほど。でも、どっちでしょう」
「そうだな。決定打がなさそうだよな。どちらにもこの嫌がらせの山のメリットがあるわけでもないし」
そこがこの仮定の最大の問題点だよなと、英士はより一層苦笑いになるのだった。
石田の用意してくれたビーフシチューは絶品で、食欲がないかと思われたがぺろっと平らげてしまった。自分の胃袋の現金さに驚きつつも、こういう時、プロの料理人がいてくれて良かったとも思う。
「地下水を利用した仕掛けがあるなんて驚きだな。ひょっとして他にもそういう仕掛けがあるんでしょうか?」
同じくすぐに食べ終えた大地が、どう思うと千春に訊いてくる。たしかに仕掛けが一つだけとは考え難い。だが、他に何かあるかと訊かれても咄嗟に思いつくものはなかった。
「それに、もし他に仕掛けがあるならば、ドアのように影響が出ているはずだからな」
「ああ、そうか。ドアが開かないのは地下水の水位が上がったから、ですもんね」
他に使用できなくなったというのは、今のところない。トイレも水道も問題ないことから、こちらは地下水が絡んでいないらしかった。
「それにしても、どうしてあんな仕掛けを作ったんだか。意味があるとは思えないな。ひょっとして、安西先生の遊び心だったのかな」
忠文はそっちが知りたいと首を傾げた。たしかにドアが使えなくなる仕掛けなんて、何の必要があるのだろう。時間を予測できるとはいえ、大雨が降ると影響するくらいだ。不便極まりない。
「そう言えば、どうやって夜中の間、閉め切っていたんでしょうね。他にも予測していた時間以外に閉まった場合、安西先生は開けることが出来た。つまり、水の量を調節する場所があるはずですよね」
「ああ、そう言えば」
すっかり忘れていたがと、忠文は手を叩いた。たしかに田辺は、調節が可能らしいと証言していた。ということは、どこかにその仕掛けを操作できる場所があるはずだ。
「今度はそれを探さないといけないわけか」
「でしょうね。尤も、その仕掛けが発見できたとしても、この大雨では操作は無理でしょうけど」
雨水で増水し続けるのだから排水が追い付かないだろうと千春は指摘する。それに地下水が関係しているとならば、雨が止んだ後もしばらく水位は上がったままだろう。他へと染み込むまでに時間が掛かるからだ。となると、ドアは数日間使えないことになる。
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