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第36話 反対勢力は鬼

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 あれこれと言いたいことはあるが、それを言ってもどうしようもないことを、鈴音はもう理解している。仕方なく、溜め息で吐き出してしまうしかない。
「挨拶回りと同時に行わなければならないのが、反対勢力の炙り出しだ。一つは羅刹だというのが解ったが、そっちの調査はどうなっている?」
 健星は項垂れている鈴音を無視してユキに確認を取る。
「左近が先に見てきた様子だと、間違いなく反対派が集まっているということですね。健星の場合は祓われる可能性が大きいのでなかなか手出しは出来ないものの、鈴音様ならば勝てると踏んでいたようです」
 何という恥知らずなと、ユキは握ったままだった拳をぷるぷると震わせる。その様子に、鈴音はユキって何かと真っ直ぐな性格よねと、そんなことを思ってしまった。
「ふむ。しかし、羅刹が集めているとなると鬼ばかりか」
「ええ。酒呑童子なんかも加担しているようですね」
「面倒だな。坂田金時《さかたのきんとき》でも召喚したくなってくる」
 やれやれと健星は言うが、鈴音は完全に置いて行かれていた。ええっと、だから羅刹って何?
「説明してよ。どうしてここの人たちって私に王様になれっていうわりに、説明してくれないわけ?」
 鈴音は紅茶をずずっと音を立てながら啜り、不満を全面的に表明してみた。すると健星は面倒臭そうな顔をしたが
「そうか。説明があちこちで尻切れとんぼになっているんだったな」
 と、頭を掻いて気持ちを切り替えてくれた。そうそう、総てが中途半端なまま、あの底抜けに明るい月読命と会うまでに至っているのだ。鈴音は大きく頷く。
「まず、羅刹は鬼だ。それも凶暴。酒呑童子も同じく鬼だ。ここまではいいか?」
「鬼って、あの気持ち悪い?」
 鈴音は気を失う前にちらっと見た鬼を思い出し、うげっという顔をしてしまう。
「あれは餓鬼《がき》という雑魚だ。地獄のあちこちにいて、常に空腹だから手当たり次第に襲う。強欲な人間の成れの果てでもあるな」
「へ、へえ」
 説明もさらにうげっとなる内容だった。人間の成れの果てって、あれが? 一体何がどうなればあんな姿になるんだろう。強欲ってそんなに怖いものなんだ。
「で、そういう雑魚鬼どもを纏めているのが羅刹や酒呑童子だ。羅刹ってのは岩手の鬼で、酒呑童子というのは京都の鬼だな」
「え? 鬼ってそんなあちこちにいたものなの?」
 岩手に京都。出てきた地名にびっくりしてしまう。
「ふん。面倒だから説明を省略するが、鬼は全国にいるものだったんだ」
「ふ、ふうん」
 一体何を省略したんだろう。って、訊くなって意味だろうから訊けないのがもどかしい。
「ともかく、鬼というのは権力に反対するものなんだ。こういう政権交代の際に出てくるのは当然だな。しかも一方が人間でもう一方が半妖となれば、反対したくもなるんだろう」
 健星は面倒臭いなあと、本気で嫌そうな顔をしている。
「戦うのは難しい相手なの?」
「まあな。力も強いし、雑魚どもを纏めているとなると、ますます面倒だ。餓鬼というのは数が多いからな。もともと地獄にいる奴と地獄に堕ちて餓鬼になった奴といて、それ全部が反対勢力に纏められているとなると、一つの軍隊が出来上がるぜ」
 そんな全面戦争みたいなのは嫌だと、健星は本気で嫌そうだった。これは鈴音にとっては意外だった。てっきり何でも力でねじ伏せるタイプかと思っていたのに。
「健星も平和的に解決したいって思うものなの?」
「戦が非効率って話だ。三週間の間で片付く問題じゃなくなるしな。関ヶ原の戦いじゃあるまいし、一日で済むか」
「はあ」
 しかし、嫌がっている理由は独特だった。なんだ、期限を考えるとやりたくないってだけなのか。しかも例えが関ヶ原って。やっぱり健星という男が解らなくなる。
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