上 下
34 / 72

第34話 健星の駄目な部分

しおりを挟む
 ともかく、後宮という呼び名ではあるが、メインは女官たちが働く場所ということらしい。たまに遊びに来る男どもがいるが、それはそれ。平安時代に合わせただけということらしい。
「じゃあ、私が王様になったからといって、ここを男性の住む場所にする必要はないってことよね」
「そうね。でも、旦那様は傍にいて欲しいものでしょ。私は泰章さんと長く一緒にいられなかったから、あなたにはちゃんと、夫婦の時間を過ごしてほしいと思っているわ」
「っつ」
 何気ない言葉が凄い形で戻って来て、鈴音は息を飲んで顔を真っ赤にしてしまう。夫婦の時間って。まだ高校生なのよ。そんなの、妄想したことはあっても、具体的に考えたことなんてない。
「ええっと、男の人たちはどこで働いているの?」
 鈴音はその話題から逃れるように質問を変える。すると、それまで黙ってむすっと後ろを歩いていた健星が口を開いた。
「内裏の外、大内裏にある官庁街だ。ここでお前の考えそうな、なぜ男女で働く場所が違うのかという問いに答えておくと、それは服装の問題だ。平安時代の様式を取り入れたことにより、裾を引きずる衣装の女子は板の間が連続している場所でないと移動が難しいという問題がある。そこで後宮が利用されているといわけだ」
「ははあ。ありがとう。じゃあ、こっちでバリバリ仕事をしているわけだ」
「そうだ。そもそも王が神様で子孫について考える必要なんてないからな。平安時代にこの様式を取り入れたはいいが、ここが後宮として機能したことなど一度もない。昔から、ここは女官が務めを果たす場所だ」
 先回りして答えた健星は、遊ばれているんだよと溜め息だ。なるほど、次の王様が半妖の鈴音で、そのパートナーが健星となれば、普通に使うのもオッケーだよってことか。
 いやいや、こんな顔は良くても性格最悪な、スパダリ要素は持っていてもすぐ拳銃をぶっ放すような危険な男は願い下げですよ。
「お前、今、凄く失礼なことを考えていただろ」
「はっ、別に」
 何で解ったんだろう。鈴音はふんとそっぽを向きつつ、油断ならないなあと困ってしまう。この人とこれから冥界を支えていくなんて大丈夫だろうか。いや、その前に選挙があるんだ。
「そもそも、私が王様で本当にいいわけ?」
 もう何度目となるか解らない質問を、再度健星にぶつけてしまう。
「いいも悪いも、他に落としどころがない。昔のように異類婚姻譚が多く発生するわけではないから、半妖なんて絶滅危惧種だ。それに、能力の高い妖怪から生まれていないと、説得力に欠ける。そこらの鶴が恩を返したくらいじゃ駄目なんだよ」
「あんた、鶴の恩返しを何だと思ってるのよ」
「鶴と人間が結婚した話」
「・・・・・・元も子もない」
 鶴じゃ駄目って言いたいのは解るけど、言い方があるだろ。ぐるっと後宮を回り終えて、鈴音はこれから大変だわと溜め息を吐くしかない。しかし、何かと直球で言ってしまう健星が、王様では上手くいかない理由も察してしまう。
「腹を括るしかないわね」
 昼御座所に戻り、いずれ自分が座るという椅子を見つめ、鈴音は王になると決意するしかないのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...