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第25話 今日は無事に帰れないな
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しかし突っ込みつつも桜太ものめり込んでしまった。先輩たちの突飛な発想の嵐は突っ込みどころ満載だが楽しかった。分野も実験内容も常にばらばらというところに今の科学部に通じるものを感じてしまう。しかも中には絶対に無理だったと思える実験内容も記されていた。
「おおい。科学部諸君。帰らないのか?私は帰りたいぞ。っていうか帰ってくれる」
夜の7時。まったく終わったという報告に来ない桜太にしびれを切らした松崎は化学教室を覗き込んで叫んだ。
「えっ?」
「うわっ。外が暗くなろうとしてる」
それぞれが資料から顔を上げて時間を忘れていた事実に気づいた。たしかこの資料を読み始めたのは昼だった。そこから6時間は経過している。元々薄暗い北館は電気を点けているのが当たり前なので、外の変化に気づかなかったのだ。
「こういう資料を作っていた頃の科学部も楽しそうだよな。実験にはあんまり興味なかったけどさ、みんなでわいわいやってる感じがするし」
立ち上がって伸びをする楓翔がそんなことを言った。
「ふん。そんなことを思えるのは一年の5月までだ。すぐに実験嫌いになるかマッドサイエンティスト道を歩むことになる」
速攻で突っ込む亜塔は絶対に嫌だという感じだ。本当に科学部を愛してるのだろうか。疑問に思ってしまう。しかも最初は水素水の検証でもしろとか言っていなかっただろうか。
「そうだな。この資料の混沌具合を見ただろ?興味のあることに突っ走るのは変わらないんだよ。お前らも七不思議で解ってるだろ?」
まさかの莉音が亜塔の肩を持つ。しかも科学部での実験は二度とご免といった顔をしていた。
「あの、何かあったんですか?」
桜太はあまりにも嫌がるので気になってしまう。
「あれだよ。資料を見ていて思い出したんだけどさ、科学部の実験って精神的に恐ろしく疲弊するんだよ。実験が廃止になって今のスタイルに落ち着く速さはダーウィンもびっくりだろうな。それほどまでに科学部はまともな進化をしたんだ」
そんな意見を述べる芳樹は遠い目をしていた。一年生の間に何があればあんな顔になるのか。ますます興味をそそられる。しかし芳樹は愛しのカエルと会えなかったことが悔しいらしく、カエルの鳴き声を求めて窓に張り付いてしまった。その背中は実験よりカエルがいいという哀愁が漂っていた。
「ともかく、家でも検証しよう。この調子では夏休みがこの資料だけで終わってしまう」
桜太はそう提案していくつかの資料を鞄に仕舞った。
「そうね。でもこれだけ同時に色々とやっていたとなると、どの状況でも発光しそうだけど」
疲れたように言う千晴の意見は尤もだ。これだけやっていれば間違って何かが光り出しても不思議ではない。
「あんた達、七不思議を解明するんじゃなかったの?」
顧問の松崎の突っ込みは、全員の胸に痛いほど突き刺さるのだった。
翌日。あまりに混沌とした資料に業を煮やした男がいた。それは意外にも莉音である。ここはもう実験の詳細を知っている男に訊くのが一番と、林田に連絡を取って呼び出したのだ。
「中沢先輩。よく林田先生のメアドを知ってましたね」
科学部の面々は莉音の英断に拍手を送り、その疑問を代表して桜太がぶつけた。
「林田先生が行った大学院、なんと菜々絵さんがいる大学のところだったんだよ。それでこの間再会していたってわけさ。訊いてもいないのに教えてくれたメアドも役に立つ」
莉音はそう説明するが、これで伝わるのは桜太だけだ。しかも母親の名前を親しげに呼ばれた桜太の心中は複雑である。これはもうますます莉音が新しい父になる日が近づいたということか。そろそろ離婚の危機に瀕しているアメリカの父上に連絡しないと拙いかもしれない。
「菜々絵さん?」
敏感に反応したのは千晴だ。やはりまだ恋心は捨て切れていないらしい。
「あああっ。ということは近所にいたんですね」
ややこしい事態になる前にと桜太が割って入った。ここで複雑な関係を科学部の連中に知られることは避けたい。さらに問題がややこしくなるのは目に見えている。
「そうだ。だから今日の午後にはここに現れることになっている。無事に博士号を取得して今や自分の好きな研究に没頭しているという自慢話を延々聞かされる可能性が高いけどな」
莉音は心底嫌そうな顔をした。すでにメールをした後に電話攻撃を受けているのだ。そこで林田の自慢話をマシンガントークで聞かされている。深夜の二時間、あのハイテンションに付き合わされるのは亜塔の面倒を見るよりしんどい。
「あの実験狂が来るのか?今日は無事に帰れないな」
その亜塔がいきなり真顔になって言う。それはもう覚悟をしたほうがいいと物語っていた。
「おおい。科学部諸君。帰らないのか?私は帰りたいぞ。っていうか帰ってくれる」
夜の7時。まったく終わったという報告に来ない桜太にしびれを切らした松崎は化学教室を覗き込んで叫んだ。
「えっ?」
「うわっ。外が暗くなろうとしてる」
それぞれが資料から顔を上げて時間を忘れていた事実に気づいた。たしかこの資料を読み始めたのは昼だった。そこから6時間は経過している。元々薄暗い北館は電気を点けているのが当たり前なので、外の変化に気づかなかったのだ。
「こういう資料を作っていた頃の科学部も楽しそうだよな。実験にはあんまり興味なかったけどさ、みんなでわいわいやってる感じがするし」
立ち上がって伸びをする楓翔がそんなことを言った。
「ふん。そんなことを思えるのは一年の5月までだ。すぐに実験嫌いになるかマッドサイエンティスト道を歩むことになる」
速攻で突っ込む亜塔は絶対に嫌だという感じだ。本当に科学部を愛してるのだろうか。疑問に思ってしまう。しかも最初は水素水の検証でもしろとか言っていなかっただろうか。
「そうだな。この資料の混沌具合を見ただろ?興味のあることに突っ走るのは変わらないんだよ。お前らも七不思議で解ってるだろ?」
まさかの莉音が亜塔の肩を持つ。しかも科学部での実験は二度とご免といった顔をしていた。
「あの、何かあったんですか?」
桜太はあまりにも嫌がるので気になってしまう。
「あれだよ。資料を見ていて思い出したんだけどさ、科学部の実験って精神的に恐ろしく疲弊するんだよ。実験が廃止になって今のスタイルに落ち着く速さはダーウィンもびっくりだろうな。それほどまでに科学部はまともな進化をしたんだ」
そんな意見を述べる芳樹は遠い目をしていた。一年生の間に何があればあんな顔になるのか。ますます興味をそそられる。しかし芳樹は愛しのカエルと会えなかったことが悔しいらしく、カエルの鳴き声を求めて窓に張り付いてしまった。その背中は実験よりカエルがいいという哀愁が漂っていた。
「ともかく、家でも検証しよう。この調子では夏休みがこの資料だけで終わってしまう」
桜太はそう提案していくつかの資料を鞄に仕舞った。
「そうね。でもこれだけ同時に色々とやっていたとなると、どの状況でも発光しそうだけど」
疲れたように言う千晴の意見は尤もだ。これだけやっていれば間違って何かが光り出しても不思議ではない。
「あんた達、七不思議を解明するんじゃなかったの?」
顧問の松崎の突っ込みは、全員の胸に痛いほど突き刺さるのだった。
翌日。あまりに混沌とした資料に業を煮やした男がいた。それは意外にも莉音である。ここはもう実験の詳細を知っている男に訊くのが一番と、林田に連絡を取って呼び出したのだ。
「中沢先輩。よく林田先生のメアドを知ってましたね」
科学部の面々は莉音の英断に拍手を送り、その疑問を代表して桜太がぶつけた。
「林田先生が行った大学院、なんと菜々絵さんがいる大学のところだったんだよ。それでこの間再会していたってわけさ。訊いてもいないのに教えてくれたメアドも役に立つ」
莉音はそう説明するが、これで伝わるのは桜太だけだ。しかも母親の名前を親しげに呼ばれた桜太の心中は複雑である。これはもうますます莉音が新しい父になる日が近づいたということか。そろそろ離婚の危機に瀕しているアメリカの父上に連絡しないと拙いかもしれない。
「菜々絵さん?」
敏感に反応したのは千晴だ。やはりまだ恋心は捨て切れていないらしい。
「あああっ。ということは近所にいたんですね」
ややこしい事態になる前にと桜太が割って入った。ここで複雑な関係を科学部の連中に知られることは避けたい。さらに問題がややこしくなるのは目に見えている。
「そうだ。だから今日の午後にはここに現れることになっている。無事に博士号を取得して今や自分の好きな研究に没頭しているという自慢話を延々聞かされる可能性が高いけどな」
莉音は心底嫌そうな顔をした。すでにメールをした後に電話攻撃を受けているのだ。そこで林田の自慢話をマシンガントークで聞かされている。深夜の二時間、あのハイテンションに付き合わされるのは亜塔の面倒を見るよりしんどい。
「あの実験狂が来るのか?今日は無事に帰れないな」
その亜塔がいきなり真顔になって言う。それはもう覚悟をしたほうがいいと物語っていた。
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