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第10話 予想外の事実

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「魔法と科学は関係ある、ですか。ううん、でも、それって錬金術とかですよね」
 朝ご飯を食べつつ、さすがにカワウソになる呪いは無理でしょうと、美織は否定的な見解を述べた。すると、史晴もそれで解決するかどうかは解らないと頷く。
 そんな史晴はまだカワウソ姿で、前足で器用にウインナーを掴んで食べていた。その姿は可愛くて、美織としては癒される。
「もちろん、総てが説明できるわけではないし、一部はトリック、つまりはマジックに通じるところがあるというだけだ。しかし、漠然と魔法と考えるより、そして呪いと考えるよりは俺たちに馴染む。ま、最初から科学的に証明できないかとやっていたわけだし」
「まあ、そうですねえ」 
 確かに医学的な見地から、違いはあるのかと調べていた。そして今や遺伝子やら分子レベルに至ろうとしている。しかし、それとこれは別のような。
「それに、呪われる原因が、単純なものかどうか」
「ああ、そうですね」
 原因が解れば対処法も解るのではないか。これもまた、科学的なアプローチと言えるだろう。つまり因果関係の証明だ。そして、この呪われる原因というのがネックとなっている。
「本当に覚えていないんですか。その清野っていう人」
「まったく」
「――」
 自分の気を引こうとしていたという事実すら、昨日、裕和から聞いて初めて知ったと史晴は言う。どれだけ女子に興味がないんだ。そして今、自分と一緒にいるのって奇跡じゃないか。そんなレベルになってくる。
「それは、酒井さんから詳しく聞きましょう。それが安全です」
「そうだな」
「で、もう一人から聞き取りですね」
 他の人の名前が出てくるのか。はたまた清野という人の情報が出てくるのか。ともかく、史晴だけでは話にならない。というか、周囲に興味がなさすぎ。
「些細な理由ではないと信じたいね」
 そして史晴は、こんな面倒なことになっていて、しかもタイムリミットまである状態の呪いが、痴話げんかレベルでは困ると、本気で嘆いているのだった。





 無事に史晴が人間に戻ったのは、十一時だった。どうにも変化する時間が読めない。ともかく大学へと、そこから二人は大慌てで大学へと向かう。
「困りますよね」
「ああ。しかし、前からきっちり何時間って決まってなかったからな」
「ですか」
 時間も困るが、急に戻って真っ裸な史晴が現れるのも困りものだ。今回は変化する瞬間を見ていたのでバスタオルを投げることで事なきを得た。それを思い出すと、美織の顔が勝手に熱くなるが、史晴は気づいていない。この、まったく周囲を気にしないのは大問題だと、美織も呪った人に同情したくなるレベルで気にしてくれない。
「先に今日の研究をしたいんだが」
「――ど、どうぞ。私は加藤先生のところに行ってきます」
「ああ」
 しかも、研究室に着くなり、自分の研究がやっぱり優先という史晴だ。ひょっとしたらタイムアウトになるかもしれない。その恐怖が全く去らない今、それを止めることは出来ないが、何だか複雑な気分にはなる。が、まだまだ自由の利く美織が頑張ればいいだけ。この間までの何もしないよりはマシ。そう言い聞かせ、まずは葉月の部屋へと行く。
「よう。丁度よく計算が終わったぞ」
「あ、ありがとうございます」
 でもって、葉月も最初に研究の話から入るので、思わずがくっと肩を落とした。しかし、計算が終わっているのは喜ばしい。
「どうでしたか?」
「駄目だな。これだと観測値と合わない」
「ああ、やっぱり」
 薄々、そうじゃないかなと思っていたので、美織は苦笑するだけだ。ちなみに、美織たちが研究しているのは宇宙論と呼ばれるもので、ざっくり言えば、宇宙の成り立ちについて考える学問だ。
「って、それはいいんですよ」
 ついつい自分の研究に没頭しそうになるが、解決しなければ問題はこっちではない。下手すれば宇宙の成り立ちより解らない壮大な謎だ。
「ああ、占部な。どうだった?」
「まったく進歩なしです」
「ううむ。昨日、酒井から聞き出したんだろ?」
「ええ。清野と言う人が、先輩の気を引こうと頑張っていたとか。でも、本人は全く覚えていないらしいです」
「ふうん。清野ねえ」
「知っているんですか」
「まあね」
 しかし、葉月はそこでううむと唸ってしまう。これはどういうことか。
「あの」
「その子は一昨年、死んでいる」
「は?」
 全く予想していなかった単語に、美織は間抜けた声を上げた。それに、葉月は深々と溜め息を吐く。
「一昨年の九月くらいだったかな。台風で増水した川に流されたらしい」
「か、川に」
「あ、そう言えば、占部が呪われたとかいうのも同じくらいか」
「――」
 な、なんか、一気に雲行きが怪しくなってきた。ひょっとして幽霊の仕業と、美織はぞくっと背筋に寒気が走った。
「あほか。占部が目撃したのは男なんだろ?」
「あ、そうだ」
「ま、幽霊がその魔法使いに依頼したのかもしれないね。って、どんなファンタジーだ?」
 自分でまとめておいて、葉月はあり得んと首を横に振った。たしかに、言葉にするととんでもなく間抜けだ。
「でも、先輩がカワウソって時点で」
「ま、そうだな。すでにファンタジーだった」
 そんな感じて、二人揃って重い溜め息を吐き出してしまうのだった。
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