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第15話 森も一応危険地帯

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 甘草は隕石衝突前から漢方薬としてメジャーだった植物で、今でも回復薬として重宝されているものだと解る。
「やっぱ、野菜とかもそうだったけど、使っていたやつから先に色々と調べたんだよな」
 漢方薬という単語から、俺は魔法が使えるようになって真っ先に調べられたんだろうなと、甘草を根っこごと摘みつつ改めて実感する。漢方薬の時も根っこが重要だったように、今でも根っこにも成分がたっぷり含まれているようだ。
「そりゃあ、そうよね。隕石衝突で色々と変わっちゃって、変な植物も増えたけど、知ってるやつは大丈夫かってなるもん」
 胡桃がその横に生えていたセンブリを摘みながら、今更でしょと笑う。
 今日は男女ペアとなっているので、胡桃が横にいるわけだが、よく喋るし、割と俺を小馬鹿にしてくれることが発覚した。
 まあ、普段は女子の佳希と連んでいるから、あれこれ知識を仕入れているのだろう。比べて俺は教科書すらまともに開かない男だ。すでに差が開いているのは仕方がない。
(それに、意外と可愛い子の上から目線は嫌いじゃないんだよなあ。幼馴染みの友葉のせいだな)
 俺は黙々と採取作業に集中しつつ、そんなことを考える。
 その問題の友葉は、あの後、医学科で精密検査を受けて、他に異常はないとの診断されたようだ。今日も魔法科の扱きを受けていることだろう。
「そう言えば、魔法科の事故って、いわゆる粉塵爆発だったって?」
 俺は次に回復薬に使える植物を探しつつ、胡桃に話題を振る。
「らしいね。霧を発生させて敵を攪乱するっていう魔法を使っていたところに、横から火炎魔法が来て、一気に大爆発だって。グラウンドの傍にいた人たちも巻き込まれて大変だったけど、一番はその爆発の中心にいた子たちよね。身体がバラバラで、医学研究科の先生たち総出で復活させたらしいわ。死んでから数分以内だったから助かったんだって。手遅れだったらアンデッドにされていたところよね」
 胡桃はすでにあれこれ情報を仕入れていたようで、嬉々として色々と付属情報を教えてくれる。しかし、俺はそれにドン引きしてしまう。
「あ、アンデッドって、あの俺たちの農園の横の」
「そうそう。あれって魔法科レベルの魔法使いじゃないと意味がないんだって。復活が上手くいかないそうよ」
「へ、へえ」
 アンデッドについては詳しく知りたくないんだけど。俺はドン引きしつつ、魔法使いが死んでその後はアンデッドって何かおかしくないかと、頭が混乱してくる。
「ああ、それは昔で言うキョンシーと同じなんだって。術者の使役下にある存在になるってことだよね。だからますます、魔法使いじゃないと困るんだって」
「いや、あの、胡桃さん。その前に、そんな強い魔法使いの死体って、そう簡単に手に入るものなんですか?」
 俺は思わず軍手を嵌めている手を挙げて訊いた。魔法使い、つまり国家魔法師ともあろう者が、そう簡単に死ぬのだろうか。
「そりゃあ、他の研究科の人よりも危険なことばっかりやってるし、国家魔法師は任務で危険な場所に行くからね」
 完全復活魔法があるとはいえ、結構死亡率も高いよと、胡桃は笑顔で教えてくれる。が、その笑顔が怖い。
「なんか、憧れだけを持っていた頃に戻りたくなるな」
 国家魔法師といえば全国民憧れの職業だったはずなのに。この魔法学院に入ってから、そのイメージがどんどん覆されるんですけど。
 しかし、魔力濃度の高い地帯は、それだけ動植物は凶暴、人間にも毒のような場所だ。そこに自ら赴くのだから、危険で常に死が付き纏うのは仕方ないのかもしれない。
「はあ」
 現実を知るとびっくりするってのはこのことだよな。俺は突如降ってきて頭をがりがりと噛みついてくる、中型噛みつき雀を捕まえると、瞬時に魔法で拘束していた。雀はぎいっと鳴くが、俺はそれもぽいっと籠の中に入れておく。動物科に渡すのだ。
(まったく、森の中は危険だ。魔法学院に入学しないと入れないだけある)
 そう、俺たちが今いるこの森もまた、危険地帯の一つであることは間違いなかった。


「結構採れたな」
「ああ」
 夕方。魔法学院に戻った俺たちは、採った植物を分類し、乾燥させるものと、そのまま使うものに選り分けていく。半日ぶりに合流した旅人は、何故か全身泥だらけ、あちこちにかすり傷を作っていた。
「お前、森の中で何をしていたんだよ」
「いや、市村さんが興味の赴くままにどっか行っちゃうから、追い掛けてたらこうなった」
 呆れる俺に、組んだ相手が悪かったんだよと旅人は遠い目をしている。なるほど、最初から薬学研究科を目指した佳希のことだ。森は宝の山に見えたことだろう。
 その佳希は胡桃や、薬学科の先輩、雅に石野桐亜いしのきりあ江川天えがわてんといったメンバーに囲まれて、いつもではあり得ないほど笑顔で喋っている。
 ちなみに先輩たちで一番年上は男子の江川天で四年、女子の石野桐亜と平岡雅は同学年の三年だ。二年は不在、というか、いるのかどうか不明である。
「石野先輩、可愛いよな」
 旅人は桐亜の、いかにも文学少女のような感じが好きだと言い出す。三つ編みのおさげに眼鏡なんて、今時珍しい古風なスタイルである。
「ああいうのが好みなんだ」
 俺は須藤とは真逆じゃんと驚く。
「須藤先生はあれだよ。崇めるタイプの女性。石野先輩は守ってあげたくなる」
「あっそ」
 崇めるって何? と思ったものの、俺もドSな須藤をあれこれと想像することがあるので、あまり深くはツッコめない。
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