上 下
10 / 48

第10話 もやもやするなあ

しおりを挟む
 二人で空いている席に座ると、すぐに思念を読んでメニューが運ばれてくる。俺は宣言通り、この店で一番デカいパフェ。友葉はイチゴたっぷりのクレープだった。
「なんか、久しぶりだね。こうやって二人で甘い物を食べるなんて」
 はむっとクレープに噛みつく姿は、見慣れているはずなのに可愛いと思ってしまう。俺はそうだなと素っ気なく返しつつ、こいつもいつの間にか年頃の女子なんだなと、訳の解らないことを考える。
「美味しい」
 いつも自分に纏わり付き、たまには小言を言うだけの友葉は、はむはむと上機嫌にクレープを食べ続けて、俺の煩悩を容赦なく刺激してくる。ぺろっとクリームを舐める舌に、俺はごくっと唾を飲み込んでいた。
(ああ、やばっ。ってか、友葉に色目使うとか、俺、ないわ~)
 自分の危険に気づき、俺はぶんぶんと首を横に振る。そしてパフェの一番上にあったアイスクリームの塊を一気に口に放り込んだ。
「冷たっ」
 が、当然のように冷たさが襲い、ついでに頭がキーンとくる。
「もう、何やってるの?」
「い、いや」
 慌てて横に付いていたメロンを食べつつ、お前が意外に可愛いからだろと、口の中でもごもごと言い訳する。
「ああ、もう。真央といると悩んでいるのが馬鹿馬鹿しくなってくるなあ」
「どういう意味だよ」
 くすくすと笑う友葉に、俺は悩みが飛ぶんだったらいいけどと、複雑な気分になりつつ、巨大パフェを食い進める。
(くそっ、マジでデカい。ってか、これ、入ってるのビールジョッキじゃん)
 俺はあまりの量に食い切れるかなあと遠い目だ。
「私、なんで魔法科に受かったんだろう」
 しかし、思考をパフェに逃がしている場合ではなかった。イチゴのクレープを食べ終えた友葉が、溜め息とともに重たい一言を放ってくれる。
「魔法科、大変なのか?」
 俺は大量に詰め込まれているコーンフレークと格闘しながら、それとなく訊く。ここであんまり深刻そうに訊ねては駄目だ。
「大変、だよ。なんか常に順位を付けられるっていうか。四年後の国家魔法師の試験のことをずっと意識しなきゃいけないっていうか」
 友葉はカフェオレを追加注文しながらぼやく。だが、それって凄く贅沢な悩みだと、国家魔法師の資格試験にすら挑戦できない俺は思ってしまった。
 この先、俺は魔法薬学研究科で四年間過ごしても、得られるのは魔法薬学学士という、卒業したことを表す学位だけだ。これは隕石がぶつかる前の大学と変わらない。
 もちろん、魔法学院を卒業し、しかも薬学を修めたというのは証明されるから、それに見合った職業には就ける。でも、決して国家魔法師にはなれないのだ。
 受験の結果は、将来に大きく影響する。いくら再チャレンジ出来るとはいえ、国家魔法師になるための魔法科の入学は凄く遠い。
「今日もね。瞬間移動魔法の試験があったの。でも、私、決められた距離までワープ出来なくてさ。もう、その後の補習が大変だったんだよね」
「へえ」
 しゃりしゃりとコーンフレークを食べながら、俺なんて瞬間移動魔法なんて使えねーぜと劣等感を煽られる。
(ああ、やっぱ、凄え壁があるんだよな、魔法科と他の学科って)
 つい数ヶ月前まで、当たり前に入学できると思っていた自分をぶん殴りたくなってきた。
「その後の炎系魔法も駄目でさ。ああもう、受かったの、偶然なのかも。入ったら凄い人ばっかりなんだよ」
 それでも、受かった友葉の愚痴は止まらない。自分がそれにチャレンジ出来ていることが恵まれているなんて、思ってもいないのだろう。
「ふうん」
 おかげで、俺の相槌は適当になり、コーンフレークを食う速度だけが上がっていく。
「そんなに食べて、大丈夫?」
「大丈夫だよ。牧場中の草むしりをした後だからな」
 お前らが格好良く魔法使いらしいことをやっている時、俺たちは雑草をむしり取ってるんだぜ。そう言えたら、どれだけいいか。
 でも、周りが優秀すぎて凹んでいる友葉には言えるわけもなく、ひたすらこれでもかと詰め込まれたコーンフレークを食い続けるしかないのだった。



「魔法科って、一年の退学率がめっちゃ高いっていうもんね。やっぱ凄い実力主義なんだ」
「みたいだな」
 翌日。俺は昨日溜め込んだもやもやを旅人に向けて放っていた。すると、魔法科の半分は一年で退学するという情報を入手することになったのだ。
 入るのも大変ならば、卒業するのも大変。そして最後は国家魔法師の試験が待ち構えている。そう考えると、凄い場所だ。
「でも、みんなの憧れだから、仕方ないよね。国家魔法師になれば、隕石ゾーンへの冒険が認められたり、国の危機に立ち向かったり、色んな所が資格を翳せば入れたりと幅広いし」
 旅人は隕石への冒険をしたかったなあとぼやく。
「お前、それに憧れてんの? 俺は普通に国家間の対抗試合に出たかっただけだけど」
 俺は国家魔法師の憧れがマニアック過ぎないと呆れてしまう。
「こら。足を止めるな!」
 と、駄弁っていたら、問題の魔法科の教授、越智瑠美おちるみに怒鳴られた。三十代のこの教授は何かと怖い。そして俺たちは今、そんな先生が監督する体育という名の魔法学の授業中だ。が、ランニングって黙ってやっていると辛い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?

イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える―― 「ふしだら」と汚名を着せられた母。 その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。 歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。 ――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語―― 旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません 他サイトにも投稿。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

もふきゅな
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...