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第43話 頼みがあるんだが
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雅彦の店に着くと、まだディナータイムには早い時間だというのに混雑し始めていた。千鶴たちは予約しているようなものなので、二階にある個室タイプの座敷席に通される。
「いやあ、繁盛しているねえ」
春成は席に着くなり、おしぼりで顔を拭きながら言う。その姿はお坊さんではなく近所のサラリーマンのようだ。
「おじさんって、何でお手拭きで顔を拭いちゃうんだろう」
「さあ」
「脂かな」
「君たち、そういうことは小声で言いなさい」
その姿に女子たちが賑やかに感想を言うので、春成は苦笑しながら注意した。確かにおしぼりで顔を拭けるのはおじさんの特権だろうか。
「ようこそ、郷土料理松山丸へ」
そこにお通しを持って祖父の雅彦が現れた。にこにこと笑顔で春成から順に手早くお通しを置いていく。
「いやいや。今日は可愛いお嬢さん方を紹介してくれて助かりましたよ」
「なんの。お転婆で困ってます」
「ちょっとお祖父ちゃん」
友達もいるんだから考えてよと千鶴は抗議の声を上げたが、琴実もがっくんも知ってるとばかりに苦笑していた。まったくと千鶴は肩を竦める。
「今日はゆっくりしていってください。あっ、春成さんはお酒を飲みますか」
「そうだな。じゃあ、魚料理が中心のようだし、何か地酒を」
「でしたら、媛しずくを使った純米おりがらみはどうですか?」
「あっ、それ、この間八木先生が飲んでいたやつだ」
聞いたことがあると千鶴が言うと、春成はではそれでと頷いた。
「すぐにご用意します。千鶴たちはポンジュースでいいか」
「うん。二人は大丈夫?」
「あの、炭酸が入ったやつはありますか」
琴実が普通のより炭酸が飲みたいと主張すると
「あるよ。じゃあ、みんなそれでいいかな」
雅彦はポンジュースサイダーを三つオーダーしてくれた。確かにあちこち歩きまわったからか、普通のポンジュースより炭酸が入っている方が嬉しい。全員分の飲み物が来たところで、乾杯となった。
「では、この素敵な縁に乾杯」
「乾杯」
春成の音頭に合わせてみんなでグラスを合わせる。春成はお猪口を掲げてからぐびっと一気に飲み干した。
「くう、生き返る」
そしてそんな一言を言うものだから、三人はまたサラリーマンみたいと笑ってしまう。あれ、ビールじゃなくても言うんだ。そう思うとまた笑ってしまう。
「いいなあ。女子高生は箸が転がっても笑う年頃かあ」
それに、春成はしみじみと若いねえと目を細める。もう注意するだけ無駄だと悟ったらしい。
「お箸が転がったくらいでは笑わないですけどね」
「もののたとえだよ」
「くくっ」
冷静に反論する春成に、やっぱり笑ってしまう三人だ。確かにこれならばお箸がころころ転がっても笑ってしまうかも。千鶴はそう思いつつも、気持ちを切り替えるようにお通しとして出されたタコときゅうりの酢の物に箸を伸ばす。
「疲れているからか、美味しい」
「本当ね。でも、やっぱり家で食べるのとは大違い」
「タコがコリコリしてる」
千鶴、琴実、がっくんは三人揃って幸せそうな顔になる。それを見て春成は、やっぱり若いなあとにこにこだ。
こうして鯛やさわらの刺身、茶わん蒸し、じゃこ天などを堪能し、いよいよメインの二種類の鯛めしへと移る。
「うわあ。こうやって並ぶと不思議な気分」
「そうだね」
琴実とがっくんは、土鍋で出てきた鯛めしと、一人ずつ並ぶ刺身と小さなどんぶりを見比べて笑い合う。そしてしっかりスマホで写真を撮っていた。
「SNSにあげるなら、うちの店名もよろしく」
「もちろん」
「ちゃんと宣伝するよ」
琴実とがっくんは任せてと笑う。頼もしい友人たちだ。それを春成は今時だなあと苦笑している。
「メインを頂きつつ、千鶴さん。ちょっと頼みたいことがあるんだが」
「え?私ですか?」
それぞれが鯛の刺身を出し汁にくぐらせているところに、千鶴は指名されてきょとんとしてしまう。一体何だろう。
「実はこれも雅彦さんに頼もうかと思っていたんだが、忙しそうだろ。君が手伝ってくれると助かるんだが」
「なになに」
「千鶴ちゃんだけ?」
春成の依頼に琴実とがっくんは興味津々だ。しかし、千鶴はなんだか嫌な予感がする。
「ああ、そっちの二人にも頼みがあるんだが、それは千鶴さんとは別で頼みたい」
「ええっ」
「なんだろう」
二人はわざとらしく笑っているが、すでに亮翔に絡むことだと察知している様子。それは千鶴も同じだ。なぜか千鶴だけに頼むとなれば、あの腹黒坊主絡みしかないだろう。何といっても、千鶴は美希にそっくりであるらしいし。それで悩んでいることを、師匠の春成もお見通しだろうし。
「いやあ、繁盛しているねえ」
春成は席に着くなり、おしぼりで顔を拭きながら言う。その姿はお坊さんではなく近所のサラリーマンのようだ。
「おじさんって、何でお手拭きで顔を拭いちゃうんだろう」
「さあ」
「脂かな」
「君たち、そういうことは小声で言いなさい」
その姿に女子たちが賑やかに感想を言うので、春成は苦笑しながら注意した。確かにおしぼりで顔を拭けるのはおじさんの特権だろうか。
「ようこそ、郷土料理松山丸へ」
そこにお通しを持って祖父の雅彦が現れた。にこにこと笑顔で春成から順に手早くお通しを置いていく。
「いやいや。今日は可愛いお嬢さん方を紹介してくれて助かりましたよ」
「なんの。お転婆で困ってます」
「ちょっとお祖父ちゃん」
友達もいるんだから考えてよと千鶴は抗議の声を上げたが、琴実もがっくんも知ってるとばかりに苦笑していた。まったくと千鶴は肩を竦める。
「今日はゆっくりしていってください。あっ、春成さんはお酒を飲みますか」
「そうだな。じゃあ、魚料理が中心のようだし、何か地酒を」
「でしたら、媛しずくを使った純米おりがらみはどうですか?」
「あっ、それ、この間八木先生が飲んでいたやつだ」
聞いたことがあると千鶴が言うと、春成はではそれでと頷いた。
「すぐにご用意します。千鶴たちはポンジュースでいいか」
「うん。二人は大丈夫?」
「あの、炭酸が入ったやつはありますか」
琴実が普通のより炭酸が飲みたいと主張すると
「あるよ。じゃあ、みんなそれでいいかな」
雅彦はポンジュースサイダーを三つオーダーしてくれた。確かにあちこち歩きまわったからか、普通のポンジュースより炭酸が入っている方が嬉しい。全員分の飲み物が来たところで、乾杯となった。
「では、この素敵な縁に乾杯」
「乾杯」
春成の音頭に合わせてみんなでグラスを合わせる。春成はお猪口を掲げてからぐびっと一気に飲み干した。
「くう、生き返る」
そしてそんな一言を言うものだから、三人はまたサラリーマンみたいと笑ってしまう。あれ、ビールじゃなくても言うんだ。そう思うとまた笑ってしまう。
「いいなあ。女子高生は箸が転がっても笑う年頃かあ」
それに、春成はしみじみと若いねえと目を細める。もう注意するだけ無駄だと悟ったらしい。
「お箸が転がったくらいでは笑わないですけどね」
「もののたとえだよ」
「くくっ」
冷静に反論する春成に、やっぱり笑ってしまう三人だ。確かにこれならばお箸がころころ転がっても笑ってしまうかも。千鶴はそう思いつつも、気持ちを切り替えるようにお通しとして出されたタコときゅうりの酢の物に箸を伸ばす。
「疲れているからか、美味しい」
「本当ね。でも、やっぱり家で食べるのとは大違い」
「タコがコリコリしてる」
千鶴、琴実、がっくんは三人揃って幸せそうな顔になる。それを見て春成は、やっぱり若いなあとにこにこだ。
こうして鯛やさわらの刺身、茶わん蒸し、じゃこ天などを堪能し、いよいよメインの二種類の鯛めしへと移る。
「うわあ。こうやって並ぶと不思議な気分」
「そうだね」
琴実とがっくんは、土鍋で出てきた鯛めしと、一人ずつ並ぶ刺身と小さなどんぶりを見比べて笑い合う。そしてしっかりスマホで写真を撮っていた。
「SNSにあげるなら、うちの店名もよろしく」
「もちろん」
「ちゃんと宣伝するよ」
琴実とがっくんは任せてと笑う。頼もしい友人たちだ。それを春成は今時だなあと苦笑している。
「メインを頂きつつ、千鶴さん。ちょっと頼みたいことがあるんだが」
「え?私ですか?」
それぞれが鯛の刺身を出し汁にくぐらせているところに、千鶴は指名されてきょとんとしてしまう。一体何だろう。
「実はこれも雅彦さんに頼もうかと思っていたんだが、忙しそうだろ。君が手伝ってくれると助かるんだが」
「なになに」
「千鶴ちゃんだけ?」
春成の依頼に琴実とがっくんは興味津々だ。しかし、千鶴はなんだか嫌な予感がする。
「ああ、そっちの二人にも頼みがあるんだが、それは千鶴さんとは別で頼みたい」
「ええっ」
「なんだろう」
二人はわざとらしく笑っているが、すでに亮翔に絡むことだと察知している様子。それは千鶴も同じだ。なぜか千鶴だけに頼むとなれば、あの腹黒坊主絡みしかないだろう。何といっても、千鶴は美希にそっくりであるらしいし。それで悩んでいることを、師匠の春成もお見通しだろうし。
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