41 / 43
第41話 お昼はわいわい
しおりを挟む
「しかも田んぼの中では、お掃除ロボットのようにうろうろと動いてデータを取ることは出来ませんね。そこはドローンとの組み合わせになりますか。画像認識でどこまで複雑な動きを解決できるかってところになりますね」
「そうだね。俯瞰図があれば少しは簡単かもしれない。しかし、実際に田んぼに出てみるとこれがびっくりするくらいに複雑なんだよなあ」
「アメリカと違って、一人の人が大きな面積を受け持っているわけではないからですね」
「うん」
そんな感じで、しばらくは二人の話し合いが続いた。和哉と悠人はそれを黙って聞いていたが、いい勉強になった。議論の進め方、問題点の見つけ方など、トップレベルの二人の話し合いには無駄がなく、しかも横で聞いているだけでもわくわくさせられるものだった。
和哉は適宜ノートパソコンでメモを取っていて、後で研究支援をどうするかという部分で今の話し合いを活用するようだった。すでに何か浮かんだのか、顔にはやる気が満ち溢れている。
「先生。そろそろお昼ですよ」
しばらくして仁美がストップを掛けにやって来た。止めないと延々と喋り続けているのだろうなと、悠人も聞いていただけなのに時間を忘れていたので苦笑してしまう。来たのは十時くらいだったというのに、あっという間に十二時を回っていた。
「つい熱中してしまった。お昼はどうする。何か買いに行こうか」
「あっ、大丈夫です。差し入れを預かって来ました」
学生もいると教えたところ多めに沙希が用意してくれていたから、大学院生二人を含めて食べても余るはずだ。それ伝えると仁美と憲明がやったと素直に喜んだ。コンビニ弁当やスーパーのお惣菜ばかりで、その味に飽きていたのだという。
「じゃあ、車から取って来ますよ。大丈夫、クーラーボックスに入れてあるから腐ってないよ。食中毒の心配もありません」
和哉がちゃっかり車にあったクーラーボックスに昼食を入れてくれていたのだ。おかげで冷蔵庫がなかったらどうするかという問題もクリアされていた。
「ここって電子レンジありますか」
悠人が確認すると、久遠がもちろんと頷いた。それがないと不便だからと、他の物を用意するよりも先に導入していたという。これで持ってきた料理は温かいご飯として食べられそうだ。クーラーボックスごとここに運んで来れば総て済むだろう。
「どこで食べますか。というよりレンジはどこですか」
「ああ、そうだな。じゃあ、家庭科室で昼ご飯だな。ガスコンロがあそこにあるから、家庭科室に設置したんだよ」
「そこは以前の学校のままなんですね」
「それが一番だよ。下手に配置を変えようとするとガスが問題になるんだ」
「なるほど。でも、なんか変な感じですけどね」
「まあね」
そんなことを久遠たちとワイワイ言いつつ、昼ご飯のために家庭科室へと移動となった。しかもそこはすでに何度も久遠が利用しているために、この校舎の中で盛大に散らかっていて生活感のある場所になっていた。
「ガスコンロもあるし、いいよねって思うけど、自炊するのが面倒になるんだよね。ついついスーパーのお惣菜とかコンビニのお弁当を食べちゃうんだよ」
「ああ。でしょうね」
片隅にあるごみ袋には、大量の弁当の空容器やカップ麺の空容器があり、ガスコンロの周りは料理をした形跡はなかった。大学院生たちもコンビニ弁当だというし、久遠自身も沙希が目撃した時にスーパーで弁当を買っていた。そちらが便利だとなってしまったのだろう。普段から料理する習慣がないと、そちらの誘惑に負けてしまうのは仕方がない。
「うわ、デザートにケーキまである」
早速クーラーボックスを開けた仁美が、サツマイモで作ったケーキを見つけて喜んだ。勉強するならば糖分も必要と、沙希が入れてくれたものだった。サツマイモをふんだんに使ったケーキは甘さが十分で美味しかったが、今日はホイップクリームのトッピングまで付いていた。
「まさか手伝いに来て、こんな豪華な昼食にありつけるとはラッキー」
憲明も久々に手作りだと、取り出した煮物やおにぎり、炒め物なんかに大満足そうな顔をしている。差し入れ効果が凄い。普段、どんなものを食べているのか心配になるレベルだ。ここに来ていない時は普通のご飯を食べているのではないのか。
「甘いな。独り暮らしをするとすぐに手作りのありがたみが解るようになる。と同時に、カップ麺や冷凍食品が発達していてよかったとも思うようになるな。作るって本当に面倒だよ。特に一人前は難しいんだ」
「はあ、なるほど」
呆れた目で見ていたら、憲明に真面目な顔で諭された。なるほど、これは大学に入ったら解ることの一つらしい。しかし、一人前って難しいのだろうか。それって作り過ぎるということだろうか。
「そうそう。それに初めのうちは実家に住んでいても、最終的に大学の近くに引っ越す羽目になるのよ。通うのが面倒になるんだから。そうなるとますますカップ麺とお友達になるわよ」
さらに仁美までそんなことを力説する。ううむ、大学院生も色々と大変そうだ。そんな先輩たちの苦労話を聞きつつ、悠人は手早くあれこれと温めて行った。その手際の良さを仁美に褒められる。
「谷原さんの言ったとおりね。即戦力だわ。しかも料理できる感じがする」
「ははっ。まあ、簡単なものしか無理ですけど」
「いいわね。料理できる男はモテるわよ」
仁美はうんうんとそんなことまで言う。すると、横で聞いていた憲明と和臣が肩を竦めるのが見えた。二人は料理が苦手だということか。
「いただきます」
こうして手早く準備が進み、和哉がさっと片づけてくれたテーブルを使ってご飯がスタートした。久遠の呑気な号令が出ると同時に、憲明と仁美の箸が勢いよく動く。その食べっぷりは素晴らしかった。
「おいしい。新井さん、いつもこんなおいしいものを食べてるんですか。羨ましい」
「ええ、まあ、家に居る時は」
「とはいえこいつ、小食なんでね。皆さんの半分くらいしか食べないんですよ。羨ましがっても理解できないって顔してるでしょ」
「ええっ、勿体ない。ああでも、だからそれだけスマートなのね。羨ましいお腹周りだわ。っていうか細すぎでしょ」
和哉の注釈に、仁美はもっと食べなさいよと早速詰る。確かに凄い小食で、今もおにぎり一個でいいという感じだ。しかし、その割にはやせ細っている印象はない。一体どういうカロリーの収支になっているのか。悠人は改めて和臣の体型をしげしげと観察してしまった。
「一体何で生命活動を維持してるのって疑問になるね」
「ああ。それはチョコとかせんべいは食べるからな。脳みそを動かすにはどうしても糖分が必要だし」
「その間食が食べられない原因なのでは」
「そうよ。間食止めてちゃんと食べないと」
悠人の指摘に、仁美もそう言って援護射撃をする。その仁美はというと、すでにデザートのサツマイモケーキに入っていた。
「そうだね。俯瞰図があれば少しは簡単かもしれない。しかし、実際に田んぼに出てみるとこれがびっくりするくらいに複雑なんだよなあ」
「アメリカと違って、一人の人が大きな面積を受け持っているわけではないからですね」
「うん」
そんな感じで、しばらくは二人の話し合いが続いた。和哉と悠人はそれを黙って聞いていたが、いい勉強になった。議論の進め方、問題点の見つけ方など、トップレベルの二人の話し合いには無駄がなく、しかも横で聞いているだけでもわくわくさせられるものだった。
和哉は適宜ノートパソコンでメモを取っていて、後で研究支援をどうするかという部分で今の話し合いを活用するようだった。すでに何か浮かんだのか、顔にはやる気が満ち溢れている。
「先生。そろそろお昼ですよ」
しばらくして仁美がストップを掛けにやって来た。止めないと延々と喋り続けているのだろうなと、悠人も聞いていただけなのに時間を忘れていたので苦笑してしまう。来たのは十時くらいだったというのに、あっという間に十二時を回っていた。
「つい熱中してしまった。お昼はどうする。何か買いに行こうか」
「あっ、大丈夫です。差し入れを預かって来ました」
学生もいると教えたところ多めに沙希が用意してくれていたから、大学院生二人を含めて食べても余るはずだ。それ伝えると仁美と憲明がやったと素直に喜んだ。コンビニ弁当やスーパーのお惣菜ばかりで、その味に飽きていたのだという。
「じゃあ、車から取って来ますよ。大丈夫、クーラーボックスに入れてあるから腐ってないよ。食中毒の心配もありません」
和哉がちゃっかり車にあったクーラーボックスに昼食を入れてくれていたのだ。おかげで冷蔵庫がなかったらどうするかという問題もクリアされていた。
「ここって電子レンジありますか」
悠人が確認すると、久遠がもちろんと頷いた。それがないと不便だからと、他の物を用意するよりも先に導入していたという。これで持ってきた料理は温かいご飯として食べられそうだ。クーラーボックスごとここに運んで来れば総て済むだろう。
「どこで食べますか。というよりレンジはどこですか」
「ああ、そうだな。じゃあ、家庭科室で昼ご飯だな。ガスコンロがあそこにあるから、家庭科室に設置したんだよ」
「そこは以前の学校のままなんですね」
「それが一番だよ。下手に配置を変えようとするとガスが問題になるんだ」
「なるほど。でも、なんか変な感じですけどね」
「まあね」
そんなことを久遠たちとワイワイ言いつつ、昼ご飯のために家庭科室へと移動となった。しかもそこはすでに何度も久遠が利用しているために、この校舎の中で盛大に散らかっていて生活感のある場所になっていた。
「ガスコンロもあるし、いいよねって思うけど、自炊するのが面倒になるんだよね。ついついスーパーのお惣菜とかコンビニのお弁当を食べちゃうんだよ」
「ああ。でしょうね」
片隅にあるごみ袋には、大量の弁当の空容器やカップ麺の空容器があり、ガスコンロの周りは料理をした形跡はなかった。大学院生たちもコンビニ弁当だというし、久遠自身も沙希が目撃した時にスーパーで弁当を買っていた。そちらが便利だとなってしまったのだろう。普段から料理する習慣がないと、そちらの誘惑に負けてしまうのは仕方がない。
「うわ、デザートにケーキまである」
早速クーラーボックスを開けた仁美が、サツマイモで作ったケーキを見つけて喜んだ。勉強するならば糖分も必要と、沙希が入れてくれたものだった。サツマイモをふんだんに使ったケーキは甘さが十分で美味しかったが、今日はホイップクリームのトッピングまで付いていた。
「まさか手伝いに来て、こんな豪華な昼食にありつけるとはラッキー」
憲明も久々に手作りだと、取り出した煮物やおにぎり、炒め物なんかに大満足そうな顔をしている。差し入れ効果が凄い。普段、どんなものを食べているのか心配になるレベルだ。ここに来ていない時は普通のご飯を食べているのではないのか。
「甘いな。独り暮らしをするとすぐに手作りのありがたみが解るようになる。と同時に、カップ麺や冷凍食品が発達していてよかったとも思うようになるな。作るって本当に面倒だよ。特に一人前は難しいんだ」
「はあ、なるほど」
呆れた目で見ていたら、憲明に真面目な顔で諭された。なるほど、これは大学に入ったら解ることの一つらしい。しかし、一人前って難しいのだろうか。それって作り過ぎるということだろうか。
「そうそう。それに初めのうちは実家に住んでいても、最終的に大学の近くに引っ越す羽目になるのよ。通うのが面倒になるんだから。そうなるとますますカップ麺とお友達になるわよ」
さらに仁美までそんなことを力説する。ううむ、大学院生も色々と大変そうだ。そんな先輩たちの苦労話を聞きつつ、悠人は手早くあれこれと温めて行った。その手際の良さを仁美に褒められる。
「谷原さんの言ったとおりね。即戦力だわ。しかも料理できる感じがする」
「ははっ。まあ、簡単なものしか無理ですけど」
「いいわね。料理できる男はモテるわよ」
仁美はうんうんとそんなことまで言う。すると、横で聞いていた憲明と和臣が肩を竦めるのが見えた。二人は料理が苦手だということか。
「いただきます」
こうして手早く準備が進み、和哉がさっと片づけてくれたテーブルを使ってご飯がスタートした。久遠の呑気な号令が出ると同時に、憲明と仁美の箸が勢いよく動く。その食べっぷりは素晴らしかった。
「おいしい。新井さん、いつもこんなおいしいものを食べてるんですか。羨ましい」
「ええ、まあ、家に居る時は」
「とはいえこいつ、小食なんでね。皆さんの半分くらいしか食べないんですよ。羨ましがっても理解できないって顔してるでしょ」
「ええっ、勿体ない。ああでも、だからそれだけスマートなのね。羨ましいお腹周りだわ。っていうか細すぎでしょ」
和哉の注釈に、仁美はもっと食べなさいよと早速詰る。確かに凄い小食で、今もおにぎり一個でいいという感じだ。しかし、その割にはやせ細っている印象はない。一体どういうカロリーの収支になっているのか。悠人は改めて和臣の体型をしげしげと観察してしまった。
「一体何で生命活動を維持してるのって疑問になるね」
「ああ。それはチョコとかせんべいは食べるからな。脳みそを動かすにはどうしても糖分が必要だし」
「その間食が食べられない原因なのでは」
「そうよ。間食止めてちゃんと食べないと」
悠人の指摘に、仁美もそう言って援護射撃をする。その仁美はというと、すでにデザートのサツマイモケーキに入っていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
踏切少女は、線香花火を灯す
住倉霜秋
青春
僕の中の夏らしさを詰め込んでみました。
生きていると、隣を歩いている人が増えたり減ったりしますよね。
もう二度と隣を歩けない人を想うことは、その人への弔いであり祈りであるのです。
だから、私はこの小説が好きです。
この物語には祈りがあります。
放課後はネットで待ち合わせ
星名柚花
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】
高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。
何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。
翌日、萌はルビーと出会う。
女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。
彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。
初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
土俵の華〜女子相撲譚〜
葉月空
青春
土俵の華は女子相撲を題材にした青春群像劇です。
相撲が好きな美月が女子大相撲の横綱になるまでの物語
でも美月は体が弱く母親には相撲を辞める様に言われるが美月は母の反対を押し切ってまで相撲を続けてる。何故、彼女は母親の意見を押し切ってまで相撲も続けるのか
そして、美月は横綱になれるのか?
ご意見や感想もお待ちしております。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
赫然と ~カクゼント
茅の樹
青春
昭和の終わりに新人類と称された頃の「若者」にもなりきれていない少年たちが、自分自身と同じような中途半端な発展途上の町で、有り余る力で不器用にもぶつかりながら成長していく。
周囲を工事中の造成地にかこまれている横浜の郊外にある中学校に通う青野春彦は、宇田川、室戸 と共にUMA(未確認生物)と称されて、一部の不良生徒に恐れられていて、また、敵対する者ものも多かった。
殴り殴られ青春を謳歌する彼らは、今、恋に喧嘩に明け暮れ「赫然と」輝いている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる