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第26話 社長の視点
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「何だ、谷原さんか」
そこに作業を終えた和臣がやって来て、何の用事かと思えばと溜め息を吐く。来いとしか言わなかったから、てっきり勉強で解らないところでもあるのかと思ったという。話しかけられそうな雰囲気ではなかったから説明しなかっただけなのに。
「ごめん。忙しそうだったから」
「いや」
「相変わらずだな。お前の世界は常に勉強か研究で回ってるんだな」
そんなやり取りを見て、和哉がははっと笑う。どうやらこういうやり取り、他でもやっていて珍しくないようだ。一体、和臣は東京でどんな生活をしているのやら。
「放っておいてください。それより何か用事ですか」
「用事っていうか、一杯やらないかと思ってね。ついでにうちの会社に興味を持ってくれるとありがたいかもって思ってる。ほら、お前ってもうすぐ院が終了するだろ」
「ということは、後半が用件の重要な部分ですね」
「まあね」
和臣の指摘に和哉は肩を竦めると、いいじゃないかと笑ってみせる。どこまでも気さくな人だ。
「そうですね。お話は聞きたいですが、飲みに行くのは面倒なので、うちで済ませてください。母さんに連絡しますから。それに、そうすれば悠人も混ざれるし」
「あっ、そうだな。和臣の甥っ子とあれば将来有望だ。ぜひともうちの会社に興味を持ってほしいところだね」
悠人を指差す和臣に、そうだそうだと和哉は嬉しそうに手を叩く。意外にも何かと豪快な人らしい。というか、当初の印象から大分変わってくる。もっと寡黙な感じかと思っていた。
「い、いいんですか」
「いいよ。進路相談だったらこの人も乗ってくれるからさ、悩んでいる悠人にもいい刺激になるはずだ。それに俺とは違う意見をもらえるだろうよ。あと、隣町まで移動するのは面倒だし、飲んだらまたタクシー代が発生するのも困る。作業を大幅に止めるようなことはしたくない」
「な、なるほど」
「せこいなあ。すっかり隣町で飲むつもりだったから車で来てるのに」
「うちに泊ればいいんですよ。茶の間なら提供します」
「なんなら俺の横でも」
「おや、いいのかい。じゃあ、遠慮なく」
こうして和哉を加えての夕食と決まった。和臣は志津を迎えに行っている沙希に連絡し、少し余分に食材を買って来てもらうよう頼む。
「じゃあ、俺はせめて酒の調達に行ってくるよ。総てごちそうになるのは気が引けるからね。悠人君、手伝ってくれるかい」
「え、ええ、もちろんです」
こうしていきなり和哉と一緒に近くのコンビニまで出掛けることとなった。もちろん、和哉が乗ってきた車でだ。社長ってどんな車に乗っているんだろうと期待したが、その車は意外にもワゴン車だった。
「てっきり外車かと思ってました」
「ああ、これね。あれこれ運ぶのに便利だからさ、ワゴン車にしたんだよ。パソコンを運ぶのも他の機械類を運ぶのもこれでオッケー。ついでに今日みたいに酒の調達もね」
「なるほど、機動力重視ですね」
「そうそう。それにまだまだ洒落た車で生活するには遠いんだよ。社長といえどもあくせく働かなきゃね」
ははっと笑う和哉からは、とても苦労しているようには見えない。しかし、そう見せないようにしているだけのようだ。そこでふと、あの校舎を利用しているらしい男のことを思い出し、社長という立場からどう思うか訊ねてみた。
「へえ、そんな面白い噂があるんだ。あそこの校舎の再利用ねえ。確かにベンチャー企業の一つって可能性は高いよね。で、問題は和臣のばあちゃんが情報源だってことか。しかもわざわざ怪談じみたことを言ってってことね」
「ええ。結局妙な部分は誇張だったみたいで、夜に変な音がするってことだけが事実みたいですね。あと、近所の人がラジコンみたいな音がするって言ってましたけど、これといって変わったことはないみたいです。それでも校舎は綺麗に掃除されていて、何かに使うつもりなのは確かみたいですね。それに、和臣さんはすでに何をしようとしているのか、解ってるみたいで」
「へえ。今のところ夜間だけなんだよね」
「ええ」
「他に何か気になることは」
「草がぼうぼうなのか、和臣さんは気になるみたいですけど」
「ううん、なるほどね。確かに、俺も想像する範囲内では、草は邪魔だろうな。よほどの面倒臭がりなんだろうか。それとも人手が足りないのかな」
「一人で利用しているようですから、人手は足りないと思いますね」
「へえ、一人か。それはますます、準備中ってところだろうね」
そんな話をしていると、あっという間にコンビニに着いた。すぐに店内に入ると、和哉が素早くお酒を見繕っていく。色んな種類を買うようだ。悠人も一緒に飲んだ方が楽しいからと、ジュースをいくつか買ってもらった。
「さて、廃校舎を利用している人。そんな謎も酒の肴になりそうだな。それにしても、あいつが居酒屋に行かないって言い出す可能性は考えていたけど、まさか夕食にお呼ばれとなるとは思ってなかったあ」
帰り道、この展開は予想外だったしと面白がる和哉だ。昔ならばあり得なかっただろうとまで言う。
そこに作業を終えた和臣がやって来て、何の用事かと思えばと溜め息を吐く。来いとしか言わなかったから、てっきり勉強で解らないところでもあるのかと思ったという。話しかけられそうな雰囲気ではなかったから説明しなかっただけなのに。
「ごめん。忙しそうだったから」
「いや」
「相変わらずだな。お前の世界は常に勉強か研究で回ってるんだな」
そんなやり取りを見て、和哉がははっと笑う。どうやらこういうやり取り、他でもやっていて珍しくないようだ。一体、和臣は東京でどんな生活をしているのやら。
「放っておいてください。それより何か用事ですか」
「用事っていうか、一杯やらないかと思ってね。ついでにうちの会社に興味を持ってくれるとありがたいかもって思ってる。ほら、お前ってもうすぐ院が終了するだろ」
「ということは、後半が用件の重要な部分ですね」
「まあね」
和臣の指摘に和哉は肩を竦めると、いいじゃないかと笑ってみせる。どこまでも気さくな人だ。
「そうですね。お話は聞きたいですが、飲みに行くのは面倒なので、うちで済ませてください。母さんに連絡しますから。それに、そうすれば悠人も混ざれるし」
「あっ、そうだな。和臣の甥っ子とあれば将来有望だ。ぜひともうちの会社に興味を持ってほしいところだね」
悠人を指差す和臣に、そうだそうだと和哉は嬉しそうに手を叩く。意外にも何かと豪快な人らしい。というか、当初の印象から大分変わってくる。もっと寡黙な感じかと思っていた。
「い、いいんですか」
「いいよ。進路相談だったらこの人も乗ってくれるからさ、悩んでいる悠人にもいい刺激になるはずだ。それに俺とは違う意見をもらえるだろうよ。あと、隣町まで移動するのは面倒だし、飲んだらまたタクシー代が発生するのも困る。作業を大幅に止めるようなことはしたくない」
「な、なるほど」
「せこいなあ。すっかり隣町で飲むつもりだったから車で来てるのに」
「うちに泊ればいいんですよ。茶の間なら提供します」
「なんなら俺の横でも」
「おや、いいのかい。じゃあ、遠慮なく」
こうして和哉を加えての夕食と決まった。和臣は志津を迎えに行っている沙希に連絡し、少し余分に食材を買って来てもらうよう頼む。
「じゃあ、俺はせめて酒の調達に行ってくるよ。総てごちそうになるのは気が引けるからね。悠人君、手伝ってくれるかい」
「え、ええ、もちろんです」
こうしていきなり和哉と一緒に近くのコンビニまで出掛けることとなった。もちろん、和哉が乗ってきた車でだ。社長ってどんな車に乗っているんだろうと期待したが、その車は意外にもワゴン車だった。
「てっきり外車かと思ってました」
「ああ、これね。あれこれ運ぶのに便利だからさ、ワゴン車にしたんだよ。パソコンを運ぶのも他の機械類を運ぶのもこれでオッケー。ついでに今日みたいに酒の調達もね」
「なるほど、機動力重視ですね」
「そうそう。それにまだまだ洒落た車で生活するには遠いんだよ。社長といえどもあくせく働かなきゃね」
ははっと笑う和哉からは、とても苦労しているようには見えない。しかし、そう見せないようにしているだけのようだ。そこでふと、あの校舎を利用しているらしい男のことを思い出し、社長という立場からどう思うか訊ねてみた。
「へえ、そんな面白い噂があるんだ。あそこの校舎の再利用ねえ。確かにベンチャー企業の一つって可能性は高いよね。で、問題は和臣のばあちゃんが情報源だってことか。しかもわざわざ怪談じみたことを言ってってことね」
「ええ。結局妙な部分は誇張だったみたいで、夜に変な音がするってことだけが事実みたいですね。あと、近所の人がラジコンみたいな音がするって言ってましたけど、これといって変わったことはないみたいです。それでも校舎は綺麗に掃除されていて、何かに使うつもりなのは確かみたいですね。それに、和臣さんはすでに何をしようとしているのか、解ってるみたいで」
「へえ。今のところ夜間だけなんだよね」
「ええ」
「他に何か気になることは」
「草がぼうぼうなのか、和臣さんは気になるみたいですけど」
「ううん、なるほどね。確かに、俺も想像する範囲内では、草は邪魔だろうな。よほどの面倒臭がりなんだろうか。それとも人手が足りないのかな」
「一人で利用しているようですから、人手は足りないと思いますね」
「へえ、一人か。それはますます、準備中ってところだろうね」
そんな話をしていると、あっという間にコンビニに着いた。すぐに店内に入ると、和哉が素早くお酒を見繕っていく。色んな種類を買うようだ。悠人も一緒に飲んだ方が楽しいからと、ジュースをいくつか買ってもらった。
「さて、廃校舎を利用している人。そんな謎も酒の肴になりそうだな。それにしても、あいつが居酒屋に行かないって言い出す可能性は考えていたけど、まさか夕食にお呼ばれとなるとは思ってなかったあ」
帰り道、この展開は予想外だったしと面白がる和哉だ。昔ならばあり得なかっただろうとまで言う。
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