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第2話 田舎の家は快適

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「いいんじゃないか。パソコンかスマホさえあれば大丈夫とか言ってたぞ。今時、コンピュータに張り付いている必要はないんだと。だったら初めから帰れるって言えって話だよな」
「へえ」
 悠人の確認に詳しく語ってくれる信明は、一応は息子の都合を確認したということか。それはそうだろう。和臣は遊んでいるわけではない。しかし、離れられるのに帰るのが面倒で実験中と言ったのか。それはそれで複雑な気持ちにさせられる。和臣ももう大人だから、いちいち家族に干渉されたくないのだろうか。
「じゃあ、行くか」
 一通りの会話が終わったところで、信明の乗ってきた軽トラックの助手席に乗り込む。これもいつものことだ。駅の周辺は神社もあるから発展しているが、ちょっと外れると一気に田舎町。車で移動するのが一番という場所だ。しかも、信明は農家だから軽トラックも当然というところ。
「今年はスイカが豊作だよ。たんと食べてくれ」
 そして運転席に乗り込んだ信明は、早速そんなことを言う。それを聞いてスイカかと、悠人は今から楽しみになる。小さい頃は畑の要らないスイカを、畑の肥料にするからということで、棒を持って割っていく遊びをしたものだ。しかし、さすがにこの年になるとそれはやらない。叔父も割ってくれる人がいないと適当に廃棄するようだ。
 でも、この年になっても食べるのは大歓迎だ。特に信明のところで作っているスイカはスーパーで買ったものより断然美味しいと思う。信明は凝り性なところがあるから、それで他よりも美味しいのだろうと最近では思っている。それはもう、楽しみになろうというものだ。
「豊作ですか。今年は暑いですもんね」
「そうそう。しかもその割に天候が安定してるだろ。いつもより台風も少ないしな。そのおかげかスイカもたくさんできているんだが、他の野菜も多く出来ちゃってね。収穫も大変だが、出荷できない野菜が多くて困ってるんだよね。何だっけ、供給過剰っていうの。ただでさえ値段が安くなって大変だよ」
 そんなことを言いつつも、がははっと大声で笑う信明だ。笑えてしまうところが凄い。何事も前向きに考える人だと思っていたが、こんなことまで笑い飛ばしてしまうのか。
「まあ、うちは米も作ってるからな。そっちの分で野菜の損失はまあまあ補えるよ」
「へえ。でも、そういう野菜って、やっぱり廃棄されるんですか」
 しかし、採れすぎると廃棄されるはずではと、先ほどのスイカを割った思い出がよみがえり心配になる。すると、夏野菜は信明の母が漬物にして家で消費しているのだと教えてくれた。しかも一部は道の駅でも販売していて、これがなかなか好評なのだという。なるほど、その手があったかと、悠人は素直に驚いた。
「とはいえ、それでも追い付かないくらいに量が多いからな。漬物と野菜、よかったら持って帰ってくれ。スイカは重いから後で送っておくよ」
「はい、ありがとうございます」
 そのくらいはお安い御用と、悠人は頷いた。信明の作る野菜は両親も大好きなので、今年は漬物もあると知れば喜ぶだろう。
 ああ、普段とは違う風景に、都会ではまずしない会話。これが悠人のお盆前のいつもの光景だ。そんな普段との違いでようやく、日々の悩みもちょっと吹き飛ぶ。
 しばらく国道を走って行き、十五分ほどで叔父の家に到着した。その家は大正時代に建てられたものだそうで、とても古風だ。全体的に木がふんだんで、そして瓦屋根。最近では見かけない、ちょっと耐震性能は不安があるものの、昔ながらの平屋建ての日本家屋だった。
「あら、いらっしゃい」
 軽トラックが庭に止まると、叔母の新井沙希が廊下から顔を覗かせた。エプロンをしていることから、台所で何かしていたようだ。そんな沙希は、甥っ子の悠人から見ても美人だなと思う人で、母の弥生も羨ましがる美肌の持ち主だった。農家なのに日焼けしていないのは、手入れのたまものであるとか。
「お世話になります」
「いいのよ。さ、早く上がって。丁度今、冷やしていたスイカを切ってたの」
「ははっ」
 早速かと思いつつ、悠人は大きなボストンバックを肩にかけると玄関に回った。信明はそのまま軽トラックで田んぼの確認に行くという。悠人が降りるとすぐに出て行ってしまった。
「涼しい」
 玄関は東側にあり、この時間は少しひんやりとしている。土間になっているそこから上がると、すぐに右手が台所だ。左手を少し進んだところに和臣が使っている部屋があるが、そちらは今は当然ながら無人で、とても静かだ。
 いや、家全体がどこか静かで、そしてひんやりしている。冷房を効かせているわけではないのに、不思議なことだ。昔ながらの知恵が詰まっているからか。冬は寒そうだが、夏はとても快適だ。
「いつもの部屋を使ってね」
「あっ、はい」
 廊下のひんやりした空気を堪能していたら、沙希がスイカを持って現れた。悠人は恥ずかしくなって、慌てて廊下を進む。南側の大きな部屋が客間として使われていて、小さい頃は両親とその部屋で川の字で寝たものだ。今回は一人だから、八畳もある部屋を独り占めできてしまう。
「ううん。広すぎて困る感じ」
 部屋の隅にカバンを置いて見渡すと、ちゃぶ台だけが置かれた部屋は非常に広く感じた。すぐそこに見える庭や畑、さらに遠くに見える山々が、遠くに来たなという気分にさせた。しかし、同時に慣れた風景でもある。毎年のように一週間はここに滞在しているのだ。すぐに感覚を取り戻すだろう。
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