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第32話 失踪
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「くそっ」
まさか悟明をこちらから呼ぶことも出来ないとは。しかし、そう思ってしまった自分にも腹が立ち、困惑してしまう。と、そんなことを思っていると早速、信者と思われる団体が入って来た。
「マジかよ」
勘弁してくれよと思っていると、信者たちはぞろぞろと俺の前にやって来た。そして、初めてここに来た時に悟明がしてみせたように印を組み、礼拝していく。
「うっ」
すると、俺の身体の中に、あの破壊衝動に似た呪力の増幅が起こった。ぞわっとそれが湧き上がるのが苦しく、思わず身体を捩ると電気ショックを食らう。
「くっ」
思っていた以上に苦しい拷問になるらしい。信者たちが傍にいたのは数分だったというのに、すでに額に汗が浮かび、息が上がっている。しかも、一度昂った呪力はこの礼拝堂では落ち着くことがないようで、俺の身体の中で激しく渦巻いている。
「うっ」
そんな苦しい状況の中、信者の集団がまたやって来た。どうやら今、礼拝の時間になっているらしい。もちろん、悟明がその時間に合わせて俺を攫ってきたのだろうが、こちらとしては最悪以外の何物でもない。
「マジかよ」
一時間も持たない。それが俺の本音になるとはすぐだった。
さらに同じ頃。王宮では大問題が起こっていた。
「陛下がどこにもおられません」
「何だって」
その報告を受けた瑞樹と聖嗣が慌てて御座所に向かうと、そこは見事にもぬけの殻だった。
「一体いつからだ?」
「解りません。ただ、南夏家の騒動があり、王宮が手薄になっていたのは事実です」
報告する西秋心海は憔悴しきった顔で報告する。外交を担当する彼女としては、ただでさえ南夏家の問題で神経を擦り減らしていたところに、帝の行方不明だ。胃がキリキリと痛むのが、横にいる瑞樹にも聖嗣にも解る。
「姫神教会の仕業か」
しかし、今は心海の心配をしている場合ではない。いや、心海のためにも、この事態を一刻も早く収束させなければならない。聖嗣は難しい顔で、主のいなくなった御座所へと目を向ける。そこには微かに姫神の力の残滓が感じられる。
「くそっ。どうにもあいつらのペースで進むな。しかも、これほどまでに姫神の力が高まっているのも、奴らのせいということですよね」
瑞樹は放置しすぎたのではないかと聖嗣を睨む。
「いえ。むしろここまで力が高まっていることを隠し通されたことに、私は驚いています。ひょっとしたら、この王宮の封印を利用されているのかもしれないです」
「何だって」
責任逃れのような発言に、瑞樹は思わず聖嗣の胸倉を掴んでしまう。
「責任転嫁ではありません。正直に言って、私たちは姫神教会がそれほどの力を持っているとは考えていなかったんです。呪力を使える者がいることは掴んでいましたが、これほどまでに南夏家に対抗できるとは思えませんでした。つまり、こちらが実態を把握できないようになっていたんです」
そんな瑞樹の暴挙にも驚かず、聖嗣は淡々と自らの主張を展開する。
「ふむ」
動揺を見せない聖嗣を苦々しく見つつも、その可能性が高いかと瑞樹は聞く体勢になる。
「姫神教会の建物にしてもそう。あそこに籠姫山の石があることを、我々は掴めませんでした」
「……」
単なる言い訳ではなさそうだ。宰相たる瑞樹は聖嗣の言葉が真実であると判断した。しかし、そうなるとかなり厄介な状況ということになる。
「誰かが南夏家の呪術を妨害した」
心海の呟きに、二人も認めたくないが頷くしかない。つまり、王宮内にも内通者がいるということだ。
「しかし、一体誰が」
「だが、内通者がいると想定すれば、タイミングよく帝をかどわかすことが出来たのも、納得できる」
「そうですが、呪術師が絡んでいるとなると、問題はさらに複雑です」
とんでもない事実だと、聖嗣の顔が険しくなる。しかも、南夏家を欺くだけの呪力を持った誰かがいるのだ。
「不可能に近いですよ」
聖嗣の思わずの本音に、瑞樹も心海も難しい顔で黙り込むしかないのだった。
「すぐに王になられることを納得していただけて、非常に嬉しく思います」
わざとらしい悟明の言葉に、俺はぶっ飛ばしてやりたい衝動を抑え込むのに苦労した。しかし、現状、こいつをぶっ飛ばす手段はない。
磔から解放された俺だが、今度は仰々しい衣装を着せられ身動きが取り難い。さらに足には動きを封じる呪符まで貼られている。今、俺は一人で椅子から立ち上がることさえ出来ないのだ。
まさか悟明をこちらから呼ぶことも出来ないとは。しかし、そう思ってしまった自分にも腹が立ち、困惑してしまう。と、そんなことを思っていると早速、信者と思われる団体が入って来た。
「マジかよ」
勘弁してくれよと思っていると、信者たちはぞろぞろと俺の前にやって来た。そして、初めてここに来た時に悟明がしてみせたように印を組み、礼拝していく。
「うっ」
すると、俺の身体の中に、あの破壊衝動に似た呪力の増幅が起こった。ぞわっとそれが湧き上がるのが苦しく、思わず身体を捩ると電気ショックを食らう。
「くっ」
思っていた以上に苦しい拷問になるらしい。信者たちが傍にいたのは数分だったというのに、すでに額に汗が浮かび、息が上がっている。しかも、一度昂った呪力はこの礼拝堂では落ち着くことがないようで、俺の身体の中で激しく渦巻いている。
「うっ」
そんな苦しい状況の中、信者の集団がまたやって来た。どうやら今、礼拝の時間になっているらしい。もちろん、悟明がその時間に合わせて俺を攫ってきたのだろうが、こちらとしては最悪以外の何物でもない。
「マジかよ」
一時間も持たない。それが俺の本音になるとはすぐだった。
さらに同じ頃。王宮では大問題が起こっていた。
「陛下がどこにもおられません」
「何だって」
その報告を受けた瑞樹と聖嗣が慌てて御座所に向かうと、そこは見事にもぬけの殻だった。
「一体いつからだ?」
「解りません。ただ、南夏家の騒動があり、王宮が手薄になっていたのは事実です」
報告する西秋心海は憔悴しきった顔で報告する。外交を担当する彼女としては、ただでさえ南夏家の問題で神経を擦り減らしていたところに、帝の行方不明だ。胃がキリキリと痛むのが、横にいる瑞樹にも聖嗣にも解る。
「姫神教会の仕業か」
しかし、今は心海の心配をしている場合ではない。いや、心海のためにも、この事態を一刻も早く収束させなければならない。聖嗣は難しい顔で、主のいなくなった御座所へと目を向ける。そこには微かに姫神の力の残滓が感じられる。
「くそっ。どうにもあいつらのペースで進むな。しかも、これほどまでに姫神の力が高まっているのも、奴らのせいということですよね」
瑞樹は放置しすぎたのではないかと聖嗣を睨む。
「いえ。むしろここまで力が高まっていることを隠し通されたことに、私は驚いています。ひょっとしたら、この王宮の封印を利用されているのかもしれないです」
「何だって」
責任逃れのような発言に、瑞樹は思わず聖嗣の胸倉を掴んでしまう。
「責任転嫁ではありません。正直に言って、私たちは姫神教会がそれほどの力を持っているとは考えていなかったんです。呪力を使える者がいることは掴んでいましたが、これほどまでに南夏家に対抗できるとは思えませんでした。つまり、こちらが実態を把握できないようになっていたんです」
そんな瑞樹の暴挙にも驚かず、聖嗣は淡々と自らの主張を展開する。
「ふむ」
動揺を見せない聖嗣を苦々しく見つつも、その可能性が高いかと瑞樹は聞く体勢になる。
「姫神教会の建物にしてもそう。あそこに籠姫山の石があることを、我々は掴めませんでした」
「……」
単なる言い訳ではなさそうだ。宰相たる瑞樹は聖嗣の言葉が真実であると判断した。しかし、そうなるとかなり厄介な状況ということになる。
「誰かが南夏家の呪術を妨害した」
心海の呟きに、二人も認めたくないが頷くしかない。つまり、王宮内にも内通者がいるということだ。
「しかし、一体誰が」
「だが、内通者がいると想定すれば、タイミングよく帝をかどわかすことが出来たのも、納得できる」
「そうですが、呪術師が絡んでいるとなると、問題はさらに複雑です」
とんでもない事実だと、聖嗣の顔が険しくなる。しかも、南夏家を欺くだけの呪力を持った誰かがいるのだ。
「不可能に近いですよ」
聖嗣の思わずの本音に、瑞樹も心海も難しい顔で黙り込むしかないのだった。
「すぐに王になられることを納得していただけて、非常に嬉しく思います」
わざとらしい悟明の言葉に、俺はぶっ飛ばしてやりたい衝動を抑え込むのに苦労した。しかし、現状、こいつをぶっ飛ばす手段はない。
磔から解放された俺だが、今度は仰々しい衣装を着せられ身動きが取り難い。さらに足には動きを封じる呪符まで貼られている。今、俺は一人で椅子から立ち上がることさえ出来ないのだ。
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