27 / 42
第27話 予想外
しおりを挟む
王宮の中はすでに多くの官人が行き交っていた。それもそのはずで、王宮の始業時間は日の出前と定められている。四時ともなれば、半数以上の職場で始業していることだろう。だが、その官人たちがなぜかピリピリしているのを感じた。特に俺が南夏聖夜だと気づいている奴らの顔が、明らかに引き攣っている。
「ヤバそうだな」
萌音がその反応を見つけて、くくっと笑ってくれる。
「ヤバそう、どころじゃないですよ。ひょっとして俺、死刑になるんじゃないですか。姫神復活が許せないってのが王家と南夏家の立場なんだから、あり得ますよね」
「……」
それあり得ると萌音は大きく目を見開くと、俺の顔を指差してくる。
おいおい。
「せめて否定してください」
俺は素直過ぎる反応に呆れつつ、そうでなければ、官人たちの顔が引き攣る理由なんてないよなと思う。
「享年十九か。辞世の句は考えたか」
「酷いですね。確定事項にしないでください」
注意しつつも、俺の顔も引き攣ってくる。このまま回れ右して帰りたい。
まさかとは思うが、本当に死刑になったらどうしよう。逃げられるだろうか。残念ながら、姫神復活阻止のためとはいえ、そう簡単に死んでやるつもりはない。
めらめらと闘志を漲らせていると、萌音がぽんぽんっと肩を叩いてくる。なんだよとそちらを向くと、人差し指でほっぺたを思い切りぶっ刺された。
「――古典的な嫌がらせは止めてください」
「ははっ。まだ余裕がありそうだな。冗談はともかく、姫神のお気に入りを、いきなり殺すことはないだろう。やるなら姫神が宿ってからだ」
「あっ」
それはそうか。ここで問答無用に俺を殺したら、それこそ姫神の機嫌を損ねることになる。しかも、悟明というお気に入りが別にいるのだ。マジで姫神教会が姫神の力を使って王宮に乗り込んでくるかもしれない。
「なるほど。つまり、殺すにしても、その前に姫神を宿す儀式があるはずだってことですね。姫神の意向を確認しなければ、手出しすることは出来ないはずだ、ってことですか」
「そういうことだ」
「まあ、どちらにしろ、いい展開は待っていないってわけです」
「まあな」
萌音が頷いたところで、前回も貴族四家が揃っていた会議室へと到着していた。
「行くぞ、腹に力を入れろ」
「はい」
萌音の言葉に頷くと、俺はぐっと全身に緊張を漲らせる。これからどういう展開になろうと、俺は俺を押し通す。決着は俺が決める。
ざっと御簾を払って中に入ると、当然のように当主四人が待ち構えている。だが、その四人が四人とも特別な儀式の時に着用する祭服をまとっていたので、俺はぎょっとしてしまった。
まさかすぐに儀式に移るつもりか。しかし、その割にはこの会議室には人払いがされているようで、俺を不意打ちで拘束してくるようなことはなかった。萌音も拍子抜けだという顔で、腰の刀から手を放していた。
「朝早くからすまないね。しかし、今後の予定を考えると、この時間が適していたのだ」
そんな俺たちの警戒っぷりに苦笑しつつ、東春瑞樹が口を開いた。
今後の予定。
それは姫神を宿すことか、死刑か。
俺は緊張を隠すことが出来ず、強張った顔で瑞樹を見る。しかし、瑞樹はあっちが答えると、手で父の南夏聖嗣を指した。その聖嗣はいつになく厳しい顔をしている。そして目は射貫くように鋭かった。
「何を、する気ですか?」
軍部に入ると父に告げた時と同じ、いや、それ以上の眼光に、思わず声が上擦ってしまう。
聖嗣は言うまでもなく最強の呪術師だ。怒らせたら俺を瞬殺することも可能である。それを今、身をもって実感した気がした。
「これからお前にやってもらうのは」
「や、やってもらうのは」
そこで聖嗣は黙り込み、なかなか次の言葉を言ってくれない。俺の緊張はピークに達し、冷や汗がだらだらと流れる。
「やってもらうのは」
沈黙に耐え切れず、俺がもう一度訊ねると、聖嗣がようやく口を開いた。
「婚姻の儀だ」
「……」
想像すらしていなかった単語に、俺はフリーズする。それは横にいた萌音も同じだったようで、見たこともないぽかんとした顔で固まる。
「婚姻の儀だ。それも、姫神と帝、お二人とのだ」
「……えっ?」
結婚。
しかも二人と。
それも姫神と帝だって。
何の苦行ですか?
姫神の器だと言われた時以上に思考が追い付かず、俺はそのまま白目を剥いて、ばたんっと豪快に倒れていたのだった。
「ヤバそうだな」
萌音がその反応を見つけて、くくっと笑ってくれる。
「ヤバそう、どころじゃないですよ。ひょっとして俺、死刑になるんじゃないですか。姫神復活が許せないってのが王家と南夏家の立場なんだから、あり得ますよね」
「……」
それあり得ると萌音は大きく目を見開くと、俺の顔を指差してくる。
おいおい。
「せめて否定してください」
俺は素直過ぎる反応に呆れつつ、そうでなければ、官人たちの顔が引き攣る理由なんてないよなと思う。
「享年十九か。辞世の句は考えたか」
「酷いですね。確定事項にしないでください」
注意しつつも、俺の顔も引き攣ってくる。このまま回れ右して帰りたい。
まさかとは思うが、本当に死刑になったらどうしよう。逃げられるだろうか。残念ながら、姫神復活阻止のためとはいえ、そう簡単に死んでやるつもりはない。
めらめらと闘志を漲らせていると、萌音がぽんぽんっと肩を叩いてくる。なんだよとそちらを向くと、人差し指でほっぺたを思い切りぶっ刺された。
「――古典的な嫌がらせは止めてください」
「ははっ。まだ余裕がありそうだな。冗談はともかく、姫神のお気に入りを、いきなり殺すことはないだろう。やるなら姫神が宿ってからだ」
「あっ」
それはそうか。ここで問答無用に俺を殺したら、それこそ姫神の機嫌を損ねることになる。しかも、悟明というお気に入りが別にいるのだ。マジで姫神教会が姫神の力を使って王宮に乗り込んでくるかもしれない。
「なるほど。つまり、殺すにしても、その前に姫神を宿す儀式があるはずだってことですね。姫神の意向を確認しなければ、手出しすることは出来ないはずだ、ってことですか」
「そういうことだ」
「まあ、どちらにしろ、いい展開は待っていないってわけです」
「まあな」
萌音が頷いたところで、前回も貴族四家が揃っていた会議室へと到着していた。
「行くぞ、腹に力を入れろ」
「はい」
萌音の言葉に頷くと、俺はぐっと全身に緊張を漲らせる。これからどういう展開になろうと、俺は俺を押し通す。決着は俺が決める。
ざっと御簾を払って中に入ると、当然のように当主四人が待ち構えている。だが、その四人が四人とも特別な儀式の時に着用する祭服をまとっていたので、俺はぎょっとしてしまった。
まさかすぐに儀式に移るつもりか。しかし、その割にはこの会議室には人払いがされているようで、俺を不意打ちで拘束してくるようなことはなかった。萌音も拍子抜けだという顔で、腰の刀から手を放していた。
「朝早くからすまないね。しかし、今後の予定を考えると、この時間が適していたのだ」
そんな俺たちの警戒っぷりに苦笑しつつ、東春瑞樹が口を開いた。
今後の予定。
それは姫神を宿すことか、死刑か。
俺は緊張を隠すことが出来ず、強張った顔で瑞樹を見る。しかし、瑞樹はあっちが答えると、手で父の南夏聖嗣を指した。その聖嗣はいつになく厳しい顔をしている。そして目は射貫くように鋭かった。
「何を、する気ですか?」
軍部に入ると父に告げた時と同じ、いや、それ以上の眼光に、思わず声が上擦ってしまう。
聖嗣は言うまでもなく最強の呪術師だ。怒らせたら俺を瞬殺することも可能である。それを今、身をもって実感した気がした。
「これからお前にやってもらうのは」
「や、やってもらうのは」
そこで聖嗣は黙り込み、なかなか次の言葉を言ってくれない。俺の緊張はピークに達し、冷や汗がだらだらと流れる。
「やってもらうのは」
沈黙に耐え切れず、俺がもう一度訊ねると、聖嗣がようやく口を開いた。
「婚姻の儀だ」
「……」
想像すらしていなかった単語に、俺はフリーズする。それは横にいた萌音も同じだったようで、見たこともないぽかんとした顔で固まる。
「婚姻の儀だ。それも、姫神と帝、お二人とのだ」
「……えっ?」
結婚。
しかも二人と。
それも姫神と帝だって。
何の苦行ですか?
姫神の器だと言われた時以上に思考が追い付かず、俺はそのまま白目を剥いて、ばたんっと豪快に倒れていたのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
辺境領の底辺領主は知識チートでのんびり開拓します~前世の【全知データベース】で、あらゆる危機を回避して世界を掌握する~
昼から山猫
ファンタジー
異世界に転生したリューイは、前世で培った圧倒的な知識を手にしていた。
辺境の小さな領地を相続した彼は、王都の学士たちも驚く画期的な技術を次々と編み出す。
農業を革命し、魔物への対処法を確立し、そして人々の生活を豊かにするため、彼は動く。
だがその一方、強欲な諸侯や闇に潜む魔族が、リューイの繁栄を脅かそうと企む。
彼は仲間たちと協力しながら、領地を守り、さらには国家の危機にも立ち向かうことに。
ところが、次々に襲い来る困難を解決するたびに、リューイはさらに大きな注目を集めてしまう。
望んでいたのは「のんびりしたスローライフ」のはずが、彼の活躍は留まることを知らない。
リューイは果たして、すべての敵意を退けて平穏を手にできるのか。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~
結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は
気が付くと真っ白い空間にいた
自称神という男性によると
部下によるミスが原因だった
元の世界に戻れないので
異世界に行って生きる事を決めました!
異世界に行って、自由気ままに、生きていきます
~☆~☆~☆~☆~☆
誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります!
また、感想を頂けると大喜びします
気が向いたら書き込んでやって下さい
~☆~☆~☆~☆~☆
カクヨム・小説家になろうでも公開しています
もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~>
もし、よろしければ読んであげて下さい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる