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第7話 桜宮家の問題児

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 この二点をはっきりさせておかないと、動き方をミスる可能性がある。俺を動かせばいいと、そう判断したのならば、やはり四年ほど前ということになる。その頃から俺は次期当主として、帝への拝謁が出来るようになり、さらに南夏家の行う祭事も手伝うようになっていた。そして、この閉塞感が嫌だと感じ始めていた。
「姫神、か」
 閉塞感の原因の一つがこれだ。ひょっとしたら、俺がこちらに興味を持つことにも賭けていたのかもしれない。その場合、すんなり姫神教会の調査をさせたのだろう。ところが、俺の行動は予想外に突飛で、軍部を経由することになった。
「そっちが素直か」
 俺は軍部に入ったことまで親父の手の上ではなかったと気づき、一先ず安心する。しかし、その後の無理が通ったこと、元帥の萌音の態度から推測するに、聖嗣が先回りしたということか。
「ああ、やっぱり腹が立つ」
 どう考えても聖嗣の影がちらつき、俺はみそ汁を一気飲みすることで何とか誤魔化すしかないのだった。



 会議室に行くと、貴明は萌音から資料をもらって用意しておいてくれた。その抜け目なさに色んな思いが去来するが、これ以上イライラしていても前に進まない。俺は素直にその飼料へと目を通すことにした。その中には、あの会議で示された組織図もあった。
 姫神教会の組織はしっかりとしたもので、トップは教皇、その次が枢機卿、さらに司祭、神主、呪術師、一般信者という構成になっていた。名称のごちゃごちゃ感は気になるところだが、役割分担がしっかりなされている。
「おい。司祭のところに桜宮悟明さくらみやさとあきって名前があるぞ」
「ああ。それ、俺のお兄ちゃん」
「は?」
 関係者なのかと問い詰めようとしたら、あっさり明かされてしまった。それも兄だって。俺は目が点になり、それから
「スパイか」
 と訊ねる。俺の逆パターンと考えるのが妥当だ。すると、貴明はそれだったらよかったんだけどねえと苦笑する。
「違う?」
 俺のようなケースがあるだろうと、嵌められたばかりなので疑いの目を向けてしまう。すると貴明はマジでないんだと真顔になる。
「本気で裏切っているのか?」
「そう。悟明の場合は何があっても陰謀じゃないんだ。あの人の性格は俺にも把握できない、困ったものなんだよねえ。姉上への反発ってのもあるんだろうけど、ともかく破壊衝動の強い人って感じ」
「ふうむ」
 全く想像できん。軍部を司る桜宮家は、かつて貴族だったことから解るように、昔から国の中枢にいる家だ。その中から仮に破壊衝動の強い者が生まれたとして、野放しにするのは不自然だった。
「お兄ちゃんは殺せないよ」
 俺の考えが解ったようで、貴明は肩を竦める。
「どうしてだ。軍を司る一族だぞ」
「だからさ。悟明は唯一、呪術を使える」
「なっ」
 それは確かに、普通の武術しか修めていないものには手に余る相手だ。だが、呪術は南夏家が独占状態だ。どうやって使いこなせるまでになったのか。
「そこに姫神教会が絡んでくるんだよ。彼らの中には呪術を使える人間が多数いる。それどころか、呪術で軍部に対抗するための呪術師なんて階級があるほどだ。これね」
 そう言って貴明は表の真ん中を指差した。そこには確かに呪術師と記されている。
「マジで使えるのか」
 そういう名称を使っているだけではなく? これは俺には衝撃だった。
 もちろん呪術を南夏家が独占しているとはいえ、他にも使える人間がいることは解っている。そういう者を、南夏家では雇い入れているほどだ。しかし、国に敵対するような組織の中に、それほどの者がいるとは驚かされる。
「彼らの場合は、南夏家と違って姫神から分け与えられた力だとしているね。南夏家は封印の力であり、古代から続くものだと言われてるでしょ。でも、姫神教会は違う。封印を解こうとしている我らに姫神が味方し、力を分け与えたのだと主張している」
「マジか」
 想像以上にややこしい組織じゃねえか。俺は思わず前髪を掻き毟る。知りたいと思っていた外とは、これほどまでに複雑怪奇なのか。いや、これは外というより内の問題だ。
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