クリノクロアの箱庭

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第百四十四話 アルマース山脈

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早く隊長を見つけて、同じようにモリオンの首飾りを破壊しないと、いつ魔法が使えなくなるかわからない。
翼は一度しまって、隊長を探しに行く。

辺りはノルドとヴォルガが入り混じって戦っている最中だ。
ヴォルガ兵にはテュルキスの妖精が付いている分、今の所ヴォルガが押しているように見える。
なにせテュルキスの妖精が居れば、その小隊は守る事を全くせずに攻撃に専念できる分、単純に戦闘力が上がったのと同じようなものだ。

「うおおお!」
「うわっ!何だよ!こっちくんなよ」 

ノルド兵が僕に襲いかかってきた。
リボン剣の斬れ味を無くして、ノルド兵の顔面を強打する。
きゅう、といいながらノルド兵が気絶するのを見て、またコソコソと隊長探しを始める。

認識阻害を掛けてはいるけど、皆んな興奮状態であり、人数も多いため、ああやって何人かの勘のいい人には見つかってしまう。
それでも、まあ、何もしないよりは、戦う回数は少なくて済むと思う。


あ!居た!
あの隊長はだいぶ前の方に出てきていて、兵士達の指揮を取っていた。

今、翼を出したら目立ちまくるよな。
何故かセラフの翼には認識阻害は全く効かないみたいだし。
仕方がない。面倒だけど、アリアに認識阻害を掛けて、それから、セラフの翼を非表示モードにしてから、翼を起動して、と。
あんまり一箇所にいると、気付かれやすいから、リンもアリアもちょくちょく移動を繰り返しながら、作業を進める。
隊長のステータスを開いて、、、あ、やっぱりモリオンの首飾りがあった。

それを消し去ってから、保存、、、と。
よし。上手くいった、、、、んん?


名前 M001-1
性別 男
年齢 1
レベル 52
職業 モリオンの騎士、第一大隊隊長
種族 人形族


ありゃりゃ。この隊長って、神モリオンが天の国から送り出してきた眷属だったんだ。
うわあ、レベルとか凄いな。
放っておいたらいつか脅威になりそうだから、ちょいといじらせてもらいますよ。

職業から、モリオンの騎士というのを削り、レベルは3くらいにしておいた。
ふう。これでよし。

アリアをしまったら、もうここには用は無いな。
じゃあ、そろそろお暇しますかね。

最後にテュルキスの妖精に施しておいた仕掛けを使ってみる事にする。
実はこのテュルキスの妖精には、以前使ったことのある着弾誘導スキルのターゲットにすべて指定してある。
着弾誘導スキルを起動すると、ヴォルガ兵の横に浮かぶ全妖精にターゲットマーカーが点灯する。
改めて一斉に見ると凄い量だな。

そのターゲットに向けて、魔法を放つ。

「ブリクスムの雷鳴!」

バリバリバリバリ

「うわああ!」
「なんだ?!」
「め、女神様の祝福があ!」
「も、もうダメだ。女神様に見捨てられてしまった!」

テュルキスの妖精も流石に僕がマナを思いっきり込めた雷魔法には耐えきれなかったようだ。
ボトボトと力尽きて光を失った球が落ちていく。

ヴォルガ兵士達は守りを完全に任せていた妖精がいなくなり、防御力だけでなく、女神に見捨てられたというショックから、戦意喪失してしまったようだ。
皆んな、雪の世界へと逃げ帰ってしまう。

「お、おい待て!勝手に逃げるんじゃない!待つんだ!くそっ。なんで、こんなに体が重いんだ!」

隊長も懸命に兵士達を追いかけて東へと逃げていく。

ノルドはフォルクヴァルツにとっては敵国だし、しょっちゅう攻めてきてうざい国だけど、ヴォルガに勝たせるのはなんか違う気がするしね。
大体、僕達を騙して、リーカとシリカを人質に取った罪は重い。
いつか、何か仕返ししないと気が済まない。



ヴォルガ兵士達が逃げるのに紛れて、僕も森の中に隠れて誰にも見つからないところまで逃げて来たけど、これからどうやってフォルクヴァルツに帰ろうか。
ヴォルガ経由だとまたあの雪原を歩いて帰るんだよな。
ノルドから帰るのなら、もう少し暖かそうだ。
この辺りで既に雪はあまり積もってない。
帰るならこっちかな。

いや。
来た道を戻ろう。
通信障害が何かの故障とか事故だったら、いつか誰かが修復してくれるのを待てばいいけど、実際にはヴォルガ公国が意図的に障害を引き起こしたままにしているんだから、いつまで待っても治るわけないんだ。

家族のみんなとチャットが出来ないのは嫌だよ。
それに、家族や学校の皆んなは会えるけど、クロやカルはチャットじゃないと話せないんだから、やっぱり治って欲しい。
と言うわけで、僕が行くしかない、かな。

ヴォルガの兵士達はさっさと馬や馬車に乗って、首都のある東へと引き返してしまっている。
早いもんだ。

ノルドはやっぱり深追いはしてこない。
途中から雪が深くなってくると、ノルドの機動力では途端に動きが取れなくなるらしい。



僕も深い雪の中だと、すぐに踏み抜いて腰まで雪に埋まってしまう。
体は軽いはずなんだけどな。
この辺りの雪は乾いていてサラサラの雪のようだ。
だから、僕くらいの体重でもすぐに沈んでしまう。

ヴォルガの馬車が通った所なら多少は踏み固められているけど、それでも一歩進むごとに腰まで埋まってしまう。

これじゃあ、進めないな。
カンジキでも作るか。

材料は無いから、リボン剣用のリボンで代用する。
まず2本のリボンで輪っかを作り、マナを流し込んでカチコチに固める。
別のリボンでその輪の左右を繋ぐように横に結びつける。
こっちにもマナを流し込むけど、あまり硬くはせず強度だけ強くしておく。
後はその横に結んだリボンと足とを別のリボンで結びつける。

よし、こんなもんでしょ。
両足とも付けたら、少し歩いてみる。
おお!沈むことは沈むけど、膝下くらいまでで止まるぞ。
もう少しリボンを周りに付けて浮力を上げてみよう。
最初に作った輪っかの周りに何重にもリボンを巻いてマナで固める。

これで、どうだ。
今度はくるぶしくらいまでしか沈まなかった。
よしよし、これなら歩く度に沈まずに済むぞ。

後は、木の枝を2本拝借して、その先にリボンをぐるぐる巻きにして大きめの円を作る。
もちろんマナで固めて強度は増している。
これを両手に持てば、バランスも取りやすいし、先に取り付けたリボンの輪が沈み込むのを防いでくれる。


順調、順調!
即席のリボンカンジキと枝で作ったスノーストックでズンズン進んでいく。
いやあ、天気もいいし、周りは真っ白に輝いていて景色もいいし、なんだか楽しくなってきちゃったな。

少し離れた所にウサギかいた。
こっちに気づいても襲ってこないから魔物じゃなくてただのウサギかな。
あ、行っちゃった、、、。
ふふふ。楽しいねえ。

でも、この広い雪の平原に僕一人しか居ないんだよな。
ちょっと、心細いかな。
せめてチャットが出来ればなあ。
まあ、それを治しに行ってるんだけどね。

前に進めるようになってからは早かった。
レベル最大の身体能力にして、夢中で歩いてきたら、例の基地局があると聞いた山々の麓まで来た。
まあ、国境付近からもずっと南側に見えていたんだけど、今はその山の斜面が始まるすぐそばまで来ている。

平原の真っ平らな所から急激に山が始まっていて、その斜度もかなり急斜面だ。

とにかく上に上がらなきゃ始まらないんだから登るとするか。
しばらくは登りやすそうな尾根を上がっていった。
カンジキもあったし、脚力も最大限に上げているから、ザクザク登っていける。

ズルズル

おっと。
段々雪が固く締まってきて、滑りやすくなってきたな。
カンジキもストックも雪に浮いてしまって、登れなくなってしまった。
どうするか。
平らな所を見つけて少し休憩をする。

カンジキとストックはインベントリにしまって、氷の坂でも登れる物を考える。

またもやリボン剣用のリボンを用意する。
靴の周りにリボンを緩めに巻きつける。
底のリボン部分をキュッと摘んで、爪のように尖らせた形を作ってそこだけマナで固める。
つま先側に8本、踵側には4本、合計12本の爪を作る。
前の方は熊の爪のように前方へと飛び出させておく。
リボンアイゼンだな。

後は氷にちゃんと突き刺さる棒だな。
リボンをねじって、先の尖った棒状の物を作り固める。
持ち手のあたりはツルハシのような形にして、片方は尖らせ、もう一方は平らにしておく。
左右が下がったTの形になった。
これはリボンピッケルだ。

よし。これで、登ってみよう。
立ってみると、12本の爪がしっかりと氷に刺さり、滑らなくなった。
ピッケルもちゃんと突き刺さるけど、これじゃあ軽すぎるな。
まあ、バランスが取れるし、マナで強度は最大にしてあるし、なんとかなるでしょう。

ガッガッと爪を氷に刺しながら、ツルツルの斜面を登って行く。
寒いのは、クラータラの熱で僕の周りだけ暖かくなっているから問題ない。
時折、突風が下から吹き上げて来るから、その時はリボンピッケルを氷に刺して耐えるしかない。

「だいぶ、空気が薄くなってきたな。頭痛い、、、」

もう20ハロンは標高を上げてきただろうか。
雲が遙か下になってしまっている。
本当にこんな所に基地局とかがあるのかな。
上を見るとあと少しで稜線に出るようだ。

丁度その尾根の先に丸く大きな何かが見えてくる。
おお!あれがそうなのか?
まっすぐ上がってきて、目の前に出るなんて凄い確率じゃないか。

目標が見えてくると、力が出るものだな。
あれだけ登って来て疲れていたのに、最後はあっという間に登り切ってしまった。

「ふぃ~。長かったなぁ。んん?これ、、、基地局にしては変だな」

下からはまん丸に見えていた、この「何か」は人工物にしては歪んでいるし、何よりも表面が羽根のような模様になっている。

近づいてみて、触ってみると、、、いやこれ、羽根だよ。
羽根そのものだよ。
建物の暖房として何かの羽根を貼り付けているのか?
ぺちぺちと羽根を叩きながら、入り口を探して周りをぐるっと廻ってみる。

「扉は無いか、、、。どうやって中に入るんだろうか」
『我の眠りを妨げるのは誰だ』
「ぬおっ!!何だ?誰だ?」
『我が問うておる。貴様は誰だ?』

声のする上を見上げると、丸かった建物の先から鷲のような鳥の顔が飛び出していた。
いや違う。この建物のように見えた丸い物体が、この鳥の体なんだ。
え?じゃあ、これ基地局じゃなくて、鷲、、、の魔物?
でかいな~。

「あ、こんにちは。はじめまして。えっと、リーンハルト・フォルトナーと申します」
『人の子か。何用でこの地まで来たのだ?』
「こっちが名乗ったんだからそっちも名乗るのが礼儀じゃないの?」
『………我は、シルヴルだ。して、何用できたのだ』
「シルヴルね。よろしく。名前からするともしかして神だったりする?それとも、天使系?」
『……話を聞かぬ奴だな。そうだ、我は神である。人の子よ。神の前にひれ伏すがいい』
「あ、そういうのはいいんで。喋り方も普通にしてもらっていいよ?神なら知り合い多いし、どんな感じか大体分かってるから」
「あ、そうなの?なんだ。関係者かー。そりゃそうだよね。こんな所まで、一般人が来れるわけないもんね。ああ、ビックリしたよ~。急に人が現れるんだもん」

そう言ったのは僕だけど、さっきと変わりすぎじゃない?
そうとう、無理して演技してたんだろうけど。

「んで、リーンハルトくんだっけ?キミはこんな所まで何しに、、、あ!もしかしてボクの事を助けにきてくれたの?やったあ!これでおウチに帰れるー」
「ちょっ、、、待った。シルヴル?えっと、僕は別にあなたに会いに来たわけじゃなくて、通信基地局を治しに来たんだけど、、、」
「え?そ、そうなの、、、。そっかあ。そうだよねー。ああ、ラリマーの塔ならこの尾根をもう少し東に行ったらあるよ、、、。じゃあ、お元気で」

この人、、、じゃなくてこの神、えらく精神状態が不安定だな。
僕の事を助けに来てくれた、と勘違いしていたくらいだから、何か困っているんだろうか。

「えっと、シルヴル?助けが必要、なのかな?」
「え?ああ、まあ、キミは用があるんだろう?早く行きなよ、、、」
「テンションダダ下がりだね。何か困ってるなら手助け出来るかも知れないよ?最悪、後で知り合いの神に応援を呼ぶ事もできるし」
「ほ、本当?いやっほうい!助かったー!いやあ、一時はどうなるかと思ったよー!これで、ようやくおウチのベッドで寝れるよー」

これ、かなり精神的に弱ってないか?
気持ちの乱高下が怖いんだけど。
これで、解決しなかった時にはショック死しちゃいそう。

「それで、シルヴルは何に困ってるの?」
「いやあ。それがさ!ログアウトできなくて、、、。どうやらデスゲームに参加させられちゃったみたいなんだ!」

なんだそりゃ。
死のゲーム?
あんまり関わりたくなくなっちゃったな~。
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