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#3 出かける前の沈黙

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ついにこの時が来た。笑理(えいり)との遊びの日だ。俺、進(すすむ)は、笑理の家に向かった。

「ピンポーン」「はい」「こんにちは。進です」「あら、進君。いらっしゃい。どうぞあがって」「おじゃましまーす」
俺は家の中にあがった。
「朝早くからすみません」「いや~良いのよ。それにもう7時。うちにとっては遅いくらいよ」「そっ…そうですか…」
今日は、俺と笑理、笑理のお母さんとの3人で、電車で出かけることになっている。自動車でも良かったのだが、車に乗せてもらうのはなんか申し訳ない気がしたので、俺から断った。
「笑理~。進君来たわよ~。」返事が無い。「おかしいわねー。そうだ進君。寝てるかもだから、起こしに行ってあげてくれない?「えっ…。はい、分かりました」「あっ。今部屋には入ってほしくないみたいだし、部屋の外からで声かけるだけでお願いね」
少し戸惑(とまど)ったが、起こしに行くことにした。笑理(えいり)の部屋は2階の1番奥にあった。

部屋の前まで来た。「えいり」と書かれた段ボールの看板が、ひもでぶら下げてあった。
「おはよ!笑理。俺だよ。進」「…」「どうしたんだよー」「……」沈黙が続いた。とても空気が重い時間だった。

その5分後、笑理(えいり)は小さな肩掛けカバン(ポシェット)を下げて、部屋から出てきた。小さな花の刺繍(ししゅう)がある水色のワンピースと紫色の帽子をつけていて、とても可愛かった。笑理は俺より、20センチくらい背が低い。俺がその時140センチくらいだったから、120センチくらいだったのだろう。学年でも、かなり小さい。でも、痩(や)せているせいか、あまり低いと思いにくかった。
(俺は小学校では、ダントツで背が高い方だった)
「おはよ!可愛い服だね」「…」「今まで寝てた?」
「コクン」と、彼女は1度だけうなずいた。
「一緒下行こうぜ!」「……うん……」

その後俺たちは出発した。笑理はパンを頬張り(ほおばり)ながら歩いていた。
「笑理(えいり)ね、怪我があってから、ずっと食欲がないの」「怪我のせいでですか?」「ううん。お医者さんによると、『心の怪我』って言うのかしら」「そうなんですか…」「大丈夫。いつかきっと治ると思うから。そのために今、笑理(えいり)は学校を休んで、自分を守っているのよ」

そんなやりとりをしていて、ふと前を見たら、俺は駅に着いていた。切符を買い、今から電車に乗る。
そこで俺は気がついた。隣にいる笑理がこちらを見て、悲しい顔をしていることに。
俺が笑理を見ると、笑理は下を向いてしまった。そこで、俺には分かった。俺がしたことが、あの時の記憶が、彼女をいまだに傷つけ続けていることを。

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