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第39話(慎二視点)

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 俺は地面に座り込んだ那月の背中を撫でる。
 泣いてる那月を置いて行くなんて、俺に出来るわけがない。
 那月はしゃくりあげながらも、話したいことがあるのか、俺の服を掴んでくる。
 可愛すぎて襲いかねないので、早く泣きやんで欲しい。

「僕ずっと……ひっく、我慢してた……」
「那月?」

 那月がゴシゴシと目を擦るので、その手をのかして涙をすくう。

「慎二は、佐々木さんのことが好きなんだと思って、ずっと我慢してた」
「はっ……?」

 なんだろう。何故だか今とんでもないことを聞いたような…………。

「だって二人ともすごく仲良いし、水曜日だって昼休憩に佐々木さんを会議室に連れ込んでたし、二人は出来てるんだって思ってた」
「待て、待て、待て、待てッ! 水曜日の昼に俺が会議室に佐々木を連れ込んだッ!?」

 俺の言葉に那月は肩を震わせる。

「ご……」
「謝らないで」

 那月の手に口を塞がれた。

「僕が怖いのは……慎二じゃない。慎二は好き」
「じゃあ、なんで?」

 俺は那月の震えた肩を撫でる。
 そう疑問を口にしたものの、実はさっきの会議室に佐々木を連れ込んだ話の方を弁明したい。
 しかし、那月の震える声に耳を傾ける。

「僕ね……」

 那月は身体をギュッと丸めるように体育座りをして、ゆっくりと言葉を続けた。

「昔、DV受けてた」
「…………っ」

 息を飲む。

「だから慎二が怖いんじゃなくて、急に触られたり、大きな声出されたりするのが苦手なんだ」

 俺は言葉が出なかった。

 二年だ。二年も一緒に生活していたのに、俺はそれを知らなかった。

 那月は地面をジッと見つめている。俺はその横顔を眺めることしかできない。
 
「…………情けないよね」

 ポツリと呟かれた。
 俺は、その言葉を聞いた瞬間、自分のやるべきことが分かった。

「誰だ?」
「だれ……?」
「那月にDVしてた奴は、誰なんだ? 親か? 元彼か? 俺の知らないやつか?」
「……とうや、だけど?」
「とうや? どこかで聞いたことある気がするような……元彼か?」
「うん、この間、恋人だって連れてきた人」

 俺は絶句した。
 
「待て、那月。DV男とまだ付き合ってるのか?」
「ううん、あれは彼氏のフリをしてもらっただけ」
「彼氏のフリ?」

 俺は眉根を寄せる。
 何故彼氏のフリなんてする必要があるのか?

「慎二が佐々木さんと付き合ってるなら、僕が嫉妬して佐々木さんに酷いことしちゃう前に、身を引こうと思って。それで、離婚届も書いてた」

 俺は「まあ、一週間前に佐々木さんの頬叩いちゃったんだけどね……」と暗い顔をする那月を見て、頭を抱えた。

 そして、暫く気持ちを落ち着かせてから、「那月、抱き上げるよ」と声をかける。

「うぇっ! 慎二?」
「とりあえずこの場を離れよう」
「じゃあ、家に来てくれる?」

 心配そうな顔で聞いてくるので、俺は那月を落ち着かせようと背中を撫でながら「ああ」と頷く。

 家に帰ってゆっくり話をしよう。
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