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第24話(慎二視点)

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※嘔吐表現? があります。ご注意下さい。

「とりあえず、那月さんのところに行くわよ」
「いや、でも俺、断られてるから……」
「ほら、会議室から出なさいッ! アンタがどれだけ那月さんから嫌われていようがどうでもいいのよ! それよりも那月さんの身の安全の方が百万倍大事なんだからッ!」

 佐々木に背中をバカチンッと叩かれる。
 俺達は会議室を出ると、経理部に向かう。
 しかしそこに、那月の姿はなかった。



「もしかして、本当に用事があったのか?」

 今日の昼は「用事があるから」と、断られていた。それは、俺と一緒に食べたくないからついた嘘なのだと思っていた。
 しかし、経理部のフロアに居ないなら本当に用事があるか、もしくは……。

「きっと逃げたのね」
「は?」

 那月の居場所について思案していると、隣からクスリと笑い声が聞こえる。

「だから、アンタが来ると思って逃げたのねって」
「えっ、あ、いや……そういう可能性もあるのか……」

 佐々木が俺の心を刺しに来る。
 言い返そうとするも、言葉が見つからない。

「やっぱり俺……」
「はいはい、行くわよ。嫌われててもアンタは番なんだから、役目を果たしなさい。アルファのくせに情けないわね」
 
 佐々木の正論が胸に刺さる。
 本当に俺は情けない。少し那月に拒絶されたくらいで……くらいで……あぁ、辛い。

「いたっ!?」

 しょげていると、今度は手の甲を抓られる。

「須田、那月さんにマーキングはしてるのよね?」
「ああ、それはもちろん」

 無理矢理つけた。という言葉は付け足さなかったが、佐々木にジトリと湿った視線を送られた。

 しばしば番を持つアルファというのは、自分のオメガにフェロモンを巻き付ける。
 それは番を守る為だったり、他人に触らせないようにする為だったり、理由は様々だ。
 俺は今朝キスをした時に、那月の身体を執拗に撫で回し、他人が近づかないよう念入りにフェロモンを巻き付けた。

 だから那月は、アルファやベータから避けられているはずだ。
 もしかしたら今もそれで、用事とやらに支障をきたしているかもしれない。

「まあ、それならヤバい状況にはなってないでしょ」
「あぁ、そうだな」

 俺達はそうは言いながらも、社内を歩き回って那月を探す。
 心配なものは心配なのだ。
 それに、オメガは精神状態が不安定になりやすい。那月は表に出さないが、こんな状況で内心は不安だろう。
 だから、お節介でもいいから傍にいてあげるのが、番である俺の義務であり責任だ。

 そんなことを考えていると、ふと忘れていたことを思い出した。
 
「オメガの方はお前が釘を指してくれるよな?」

 そうだ。これを頼む為に、佐々木に全部話したんだ。
 アルファやベータは、マーキングで牽制できるが、オメガだけは別。
 まあオメガだけなら、何かやってくるにしても言葉の暴力くらいだろう。
 オメガについてなら、佐々木に頼った方がいい。
 
「ええ、もちろんよ。アンタに協力するってのは気に食わないけど、那月さんのた…………ねぇ、階段」

 佐々木は急に言葉を止め、顎で階段のある方を指す。
 すると、階段の下の階から微かに笑い声が聞こえる。

 他の会社がどうかは知らないが、この会社ではあまり階段は使われていない。
 また階段近くのフロアも、資料室や会議室など、それほど人が行き来しない部屋が多く、ひとけが少ない。

 お昼を階段で食べようとする物好きがいるのかも知れない。しかし、嫌な予感がする。

 階段を下りていく。それと同時に、階下から聞こえてくる声が鮮明になっていく。
 人を見下すような笑い方。嫌な予感が確信に変わっていく。

 階段を二階分駆け下りる。そして、視界に映ったのは――悲惨な光景。

 何だこの状況ッ!? 一体何がっ!?

 階段の踊り場。その床には弁当の中身が散乱。その真ん中には那月と那月の背中を撫でる女が一人。そしてそれを避ける位置で女が三人、下品な笑い声を上げている。

「ゲロ吐くとかマジきたなッッッ!」
「どうすんのwwwその格好じゃ今日もう無理じゃんwww」
「くっっっさっwww」

 女たちの視線の先には那月がいる。そして、その身体は吐瀉物にまみれ、顔は青ざめていた。

「那月ッッッ!!!」

 叫ぶ。しかし聞こえていないのか、反応がない。反対に、周りの女達は驚いた顔で「須田さんッッッ!?」と、俺の名前を呼んだ。

 うるせぇ。
 
 那月の背中を撫でていた女は、いつの間にか離れていて、バランスを崩した那月が床に倒れそうになる。

 俺は走る。そして腕を伸ばし、傾く那月の体を支え、抱き寄せた。

「那月、大丈夫か?」

 驚かせないように、声量を調節して声をかける。本当に顔色が悪い。
 那月はチラリとこちらを見た。
 しかし次の瞬間には、意識を失ってしまった。
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