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第18話 ※キスの描写あり
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「もしかして……結婚のこともう言っちゃってるとか、そういうのはないよね?」
僕の言葉に慎二は顔をサッと背けた。
おかしいとは思ってたんだ。僕の為とはいえ、こんなにもしつこく聞いてくるなんて。
「いやっ、初めはちゃんと那月に許可取ってから言うつもりだったんだ。でももう、那月の悪口を言われたら我慢ならなくて。チッ……尻軽だのビッチだのって、テメェらが那月の何を知ってんだよ」
初めは言い訳がましかった口調が、最後には怒気を孕んだ声音になっていた。
僕は、ため息をついた。
僕の悪口なんて放っておいてくれればいいのに。正義感が強いんだから。
しかし、言ってしまったものは仕方がない。
僕は自分の指から指輪を外す。
「慎二はもう余計なことしないで」
大丈夫。僕と慎二が結婚してるなんて、本気で信じる人そうそういない。
きっと慎二から直接聞かない限りデマか何かだと思うだろう。
だから大丈夫。今更もう戻らない。
大丈夫。僕の決意は揺らがない。
慎二とはちゃんと離婚するんだ。
僕は指輪をぎゅっと握りしめた。
「何を……?」
僕の行動を慎二は不思議そうに見ていた。
指輪を円が床に垂直になるように置いた。
そして僕は、踏みつけた。ゆっくりとゆっくりと、体重をかけていった。
こんなものはもういらない。
慎二が僕のことをいくら想ってくれていようと、僕の覚悟は揺るがない。
それが恋愛感情でないのなら、いくら貰ったって仕方がないのだ。
「那月ッ! やめろッ!」
僕のしたいことを悟った慎二が、止めにかかってくる。
しかし一足先に、靴の下の指輪はパキリと音を立てて割れた。
僕は足を退ける。すると慎二が膝を着き、呆然と壊れた指輪を見ていた。
「そんなに……そんなに俺とお揃いの指輪を着けるのが嫌なんだな?」
ドスの効いた威圧的な声。
僕はそれに一瞬で気圧された。
慎二は胸元から手のひらサイズの巾着袋を取り出し、壊れた指輪を悲しそうに見つめながら、その中にしまった。
一泊置いて、僕の方を向く。
な、なんで怒ってるの?
指輪? 指輪壊したから?
無言で一歩ずつ近づいてくる。その彼の瞳は、とてつもなく険しい色をしていた。
怖い……怖い怖い怖いッ。
近づかれたぶん後ろに下がっていたら、いつの間にか壁際まで追いつめられていた。
バンッと壁に慎二の手が叩きつけられた。
慎二は僕の肩が跳ねるのを見て、一度深く息を吐いた。
「ごめん……」
そんな声が聞こえたかと思うと、慎二の唇が僕の唇に押し当てられた。
顎を掴まれて、抵抗できない。
何度も何度も角度を変えられて、荒々しく唇を食べられてしまう。
「那月、口を開けて」
その言葉には怒気も威圧感もない。それなのに、僕は従ってしまう。口内に侵入してくる熱い舌を、受け入れてしまう。
「んっ……んんっ……」
そのキスは乱暴だった。激しく、僕の口内を貪るように。
鼻から息を吸おうとしても、上手く吸えない。息が絶え絶えになる。
うなじが慎二の手によって撫でられて、ゾクリと背筋に快感が走る。それから、後頭部や背中、お尻。色んな部分を、身体を密着させながら撫でられる。
「んっ……んんっ……ッ!」
体が疼く。じわりじわりと微弱な快感が広がっていく。
僕の瞳に涙が溜まり、視界が歪んでいく。
――――怖い。
口内を、体中を、蹂躙する。目の前のこの男が。
それに呼応するように快楽を拾い上げるこの身体が。
目尻から涙が零れ落ちた。
喉奥から嗚咽が漏れる。
「那月……?」
「うぅ……ひっく……ひっく……」
唇を解放されて、ようやく上手く泣けるようになった。
そんな僕を見て、慎二は唇を噛み締める。自分のしたことに、罪悪感を抱いてるかのように。
それでも、僕に謝ってくることはなかった。
ずっと無言で気難しそうな顔をしながら、僕が泣き止むまでポンポンと頭を撫でてくれた。
僕の言葉に慎二は顔をサッと背けた。
おかしいとは思ってたんだ。僕の為とはいえ、こんなにもしつこく聞いてくるなんて。
「いやっ、初めはちゃんと那月に許可取ってから言うつもりだったんだ。でももう、那月の悪口を言われたら我慢ならなくて。チッ……尻軽だのビッチだのって、テメェらが那月の何を知ってんだよ」
初めは言い訳がましかった口調が、最後には怒気を孕んだ声音になっていた。
僕は、ため息をついた。
僕の悪口なんて放っておいてくれればいいのに。正義感が強いんだから。
しかし、言ってしまったものは仕方がない。
僕は自分の指から指輪を外す。
「慎二はもう余計なことしないで」
大丈夫。僕と慎二が結婚してるなんて、本気で信じる人そうそういない。
きっと慎二から直接聞かない限りデマか何かだと思うだろう。
だから大丈夫。今更もう戻らない。
大丈夫。僕の決意は揺らがない。
慎二とはちゃんと離婚するんだ。
僕は指輪をぎゅっと握りしめた。
「何を……?」
僕の行動を慎二は不思議そうに見ていた。
指輪を円が床に垂直になるように置いた。
そして僕は、踏みつけた。ゆっくりとゆっくりと、体重をかけていった。
こんなものはもういらない。
慎二が僕のことをいくら想ってくれていようと、僕の覚悟は揺るがない。
それが恋愛感情でないのなら、いくら貰ったって仕方がないのだ。
「那月ッ! やめろッ!」
僕のしたいことを悟った慎二が、止めにかかってくる。
しかし一足先に、靴の下の指輪はパキリと音を立てて割れた。
僕は足を退ける。すると慎二が膝を着き、呆然と壊れた指輪を見ていた。
「そんなに……そんなに俺とお揃いの指輪を着けるのが嫌なんだな?」
ドスの効いた威圧的な声。
僕はそれに一瞬で気圧された。
慎二は胸元から手のひらサイズの巾着袋を取り出し、壊れた指輪を悲しそうに見つめながら、その中にしまった。
一泊置いて、僕の方を向く。
な、なんで怒ってるの?
指輪? 指輪壊したから?
無言で一歩ずつ近づいてくる。その彼の瞳は、とてつもなく険しい色をしていた。
怖い……怖い怖い怖いッ。
近づかれたぶん後ろに下がっていたら、いつの間にか壁際まで追いつめられていた。
バンッと壁に慎二の手が叩きつけられた。
慎二は僕の肩が跳ねるのを見て、一度深く息を吐いた。
「ごめん……」
そんな声が聞こえたかと思うと、慎二の唇が僕の唇に押し当てられた。
顎を掴まれて、抵抗できない。
何度も何度も角度を変えられて、荒々しく唇を食べられてしまう。
「那月、口を開けて」
その言葉には怒気も威圧感もない。それなのに、僕は従ってしまう。口内に侵入してくる熱い舌を、受け入れてしまう。
「んっ……んんっ……」
そのキスは乱暴だった。激しく、僕の口内を貪るように。
鼻から息を吸おうとしても、上手く吸えない。息が絶え絶えになる。
うなじが慎二の手によって撫でられて、ゾクリと背筋に快感が走る。それから、後頭部や背中、お尻。色んな部分を、身体を密着させながら撫でられる。
「んっ……んんっ……ッ!」
体が疼く。じわりじわりと微弱な快感が広がっていく。
僕の瞳に涙が溜まり、視界が歪んでいく。
――――怖い。
口内を、体中を、蹂躙する。目の前のこの男が。
それに呼応するように快楽を拾い上げるこの身体が。
目尻から涙が零れ落ちた。
喉奥から嗚咽が漏れる。
「那月……?」
「うぅ……ひっく……ひっく……」
唇を解放されて、ようやく上手く泣けるようになった。
そんな僕を見て、慎二は唇を噛み締める。自分のしたことに、罪悪感を抱いてるかのように。
それでも、僕に謝ってくることはなかった。
ずっと無言で気難しそうな顔をしながら、僕が泣き止むまでポンポンと頭を撫でてくれた。
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