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 彩凪知晴の家は表向き、彩凪グループを取りまとめる一族である。グループの規模で言えば学園内で上の下くらいではあるが彩凪家は裏の顔を持つ。
 彩凪家の当主は東組という暴力団の組長を代々務めている。

 東組とは関東を中心に活動している暴力団で、権力者に絶大な影響力を持つ。汚れ仕事を担当しており、暴力団といっても暗殺から企業の機密情報のハッキングまで様々なことに手を染めている。
 しかしながら、証拠となる痕跡を全く残さないことと被害者側が権力による抑圧で警察では対処出来ないような犯罪者だったりする為放置されている。


 そんな組織である東組の次期組長である為、普段は周りに無関心だが怒ると怖い。

 知晴は姿勢よく座っていた状態から背もたれにもたれ掛かり足を組む。

 知晴の眼光は鋭く、怒りを買った会長を睨んでいる。
 会長はビビったのか無意識に後ずさろうとして背中が背もたれにぶつかる。
 だがそんな自分はかっこ悪いと思い、周りに気づかれないように精一杯の虚勢を張る。   

「はっ、じ、実際殴られてないんだから被害者じゃないだろ!そ、それに、殴られるようなことをした親衛隊長が悪い!」

 会長は少々どもりながらも言い返すことに成功した。

「いつ、どこで、だれが、殴られるようなことをした?」

 怒りを押し殺したような声音でなるべくゆっくりと知晴は会長に問いかけた。イライラが止まらないようで迫力は増すばかり。

「親衛隊長が、俺たちが駆けつける前に校舎裏で陽太を殴……。」

ガッ。

「え?なんて?」

 最後まで話を聞く前に知晴は椅子から立ち上がって目の前の机に片脚を置いき、前のめりになって会長の胸ぐらを掴んだ。
 そして、ゾッとするような黒い笑みを顔に貼り付けて聞こえていたにもかかわらず聞き返す。
 目が笑ってない。

 それに負けないよう会長も肝を据える。

「親衛隊長が、陽太を殴るよう、グハッ。」

 胸ぐらを掴まれたままもう一度同じことを言おうとした会長は今度は腹パンをされた。一発がかなり効いたようで会長はその場に蹲る。

 床に膝を着いた会長を見下ろすと、知晴はいいことを思いついたというかのように口元に軽く笑みを浮かべ、会長の横に移動する。そして、知晴が会長の背中目掛けて足を上げると「知晴さん!?」と、澄晴が急いで止めに入る。

「背中を踏むのはダメでしょう!」

「だって、踏みたくなる背中してたんだもん…。あーあ、踏みたい。」

タンタンタン。

 知晴は余程会長の背中を踏みたいのかつま先の方の足裏を使って床で音を鳴らす。

「だ、だったらせめて俺の背中を踏め。」

 そう言った澄晴は知晴が踏みやすいように四つん這いになる。
 嫌々というよりは結構ノリノリで四つん這いになり、期待した目を知晴に向ける澄晴に周りの人は若干引いた。

 そんな澄晴からの期待の視線などを無視した、知晴はドスンッと、その澄晴の背中に座り足を組む。

 こんな異様な空間に動じてない人などおらず、この空気を作り出した知晴にこの場は支配される。

「凛が殴っただとか、殴るように指示しただとか何を根拠に言ってるだ?」

 知晴は何事も無かったかのように先程の続きを話し出した。
 皆、知晴の下で甲乙とした表情を浮かべる澄晴をチラ見するがすぐ様見なかったことにする。

「いや、さっき本人が認めてたでしょう?」

 未だに床に蹲る会長の代わりに副会長が答える。

「んん?認めてたって……あー、あれのことを言ってるのか?親切で助けるわけがないって発言。」

「そ、そうですけど。」

「あの時凛は転校生を馬鹿にしても自分が主犯だなんて一言も言ってない。」

「いやでも……。」

「そもそも!」

 知晴は副会長が口答えをしようとするのを遮った。

「本人が認める認めない以前に凛のせいだと決めつけていたじゃないか。」

「そうですけど?」

 副会長は「それが何か?」というようなきょとんとした顔になる。当然のことをしたまでだときうように。

「それに、親衛隊の起こした問題ならどちらにしろ親衛隊長に責任がありますし何も問題ないでしょう。」

 副会長はうん、これが一番いいでしょうと自分で納得しながらにこやかに締めくくろうとした。

「この学園の奴らは何でそんなにも凛のことを嫌うんだ?」

 怒りに震えた声が聞こえた。
 副会長は声が聞こえてきた方向を見ると知晴が俯きながら拳を握りしめていた。

「はい?」

 震えた声は声量が小さかったのも相まってとても聞き取りにくかった。

「なんで!この学園の生徒は凛をこんなにも嫌うんだ!!!凛は何も悪いことしてないのに…めちゃくちゃ優しいのに…なんで!2年前のことだって生徒会の自業自得……。」

「もういいから。」

 今までソファに座っていた凛が知晴の背後に立ち、肩を掴む。

「ありがとう。」

 そう言った凛の声は震えていた。



 知晴が振り向くとそこに立っていた凛は涙を流していた。





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