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第十九話

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 ザレアさんに話を聞いたあと、村に向かう為に馬を借りることにした。
 しかし、こんな辺境の街に馬貸し業者など存在しない。大きな商会に行くか、馬を所有していそうな個人をあたって、貸してもらえないか交渉するしかない。

 とりあえず商会に向かおうと歩き出すと、ルールーが話しかけてきた。

「もし馬を探してるなら貸そうか?」

 その言葉に勢いよくルールーのいる後ろの方へ振り返った。
 商会や個人に馬を借りるとなると、交渉の成功率は低いし、成功したとしてもとんでもなく時間がかかる。
 その時間を短縮できるなら、こちらからお願いしたいくらいだ。

 僕はルールーの手を掴んで「本当!?」と顔を近づけた。
 
「ほんとほんと。まあ、俺のじゃなくてグレイのだけど」
「……それって大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫、そんな長距離移動する予定ねぇし、あったとしてもあいつなら大丈夫だろ」

 いや、そういう意味じゃないんだけど……。
 まあ、どちらにしろ遠慮なんてしてる場合じゃない。ルールーがそれでいいならお願いするしかないだろう。

「じゃあ、よろしく。お金はいくらでも出すから」
「いや、金はいらない」
「……本当に?」
「ああ、ただし一つ条件がある」

 それを聞いて身体が強ばるのが分かった。昔の僕と同じ姿の得体の知れない男から出される条件。緊張しないはずがなかった。でも、拒否するという選択肢はない。

「分かった。なんでも言って……」
「俺もその猫獣人村ってところに連れてけ」
「ッ!? なんで!?」

 ルールーは腕を組み、眉間に皺を寄せる。

「うーん……心配だから? ファイアさんにも悪い話ではないだろ? 自分で言うのもなんだが、俺結構強いし?」

 なんで疑問形? 先入観からかそんな態度だと怪しく見えてしまう。
 でも、猫獣人を心配してるのは本心か。ここ二週間の行動からしてみても村の居場所を教えても問題ないとは思える。
 それに、なるべく戦力が欲しいのは事実だ。ルールーは冒険者ランクAの剣士で下手したら僕よりも強いかもしれない。戦ったことないから分からないけど。
 僕個人の感情を抜きにすれば、彼に着いてきてもらうのは悪い話じゃない。

「村の場所を誰にも言わないって約束できるならいいよ」
「グレイにも?」

 僕が頷くと、「分かった」と言いながらルールーは笑いだした。

「あいつ信用されてねぇの! ウケるー!」

 グレイを信用していないわけじゃない。ただ話す必要がないだけだ。
 ルールはひとしきり笑い終えると、僕に背中を向けて歩き出す。

「馬、連れてくるからファイアさんは、準備して街の外で待機してて」

 それだけ言い終えると、僕が返事を言う前に走り去ってしまった。
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