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第七話

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 朝は食堂にて朝食の時間だ。
 屋敷内のメイドたちが料理を運びこんでくる。
 朝から屋敷の人間たちがせっせと作った料理たちだ。
 だが、折角用意してくれた料理たちをレオンは見ない。
 彼の視線の先には、反対側の席に座る一人の少年だった。

「すっげえ。殺し屋と同じ食卓に座るなんざァ、夢でも見ないぜ」

 レオンのため息と同時に、暗殺者のため息も重なった。

「それはオレのセリフですよ。殺しのターゲットと一緒に食事するなんてビックリです」

 暗殺者も一切食事に手を触れない。
 サラダと蒸した鶏肉が苦手そうには見えないのだが。
 自分がどうしてロープで拘束もされずにこんな場所で座っているのかすら不思議だと言いたげだ。
 仕方なくアリシアは毒がないことを証明するため、先に料理を食べるが、やはり手をつけない。
 どうやら毒の疑いではないらしい。

「ところで名を何と言う? 辺境伯の部隊か?」
「名乗りませんし、吐きません!」
「それでは困る。お前を何と呼べばいいか分からない」
「一生困ってろ!」

 随分と怒っているらしいがアリシアには理由が皆目見当もつかない。

「言っておきますけど、尋問されたって答えませんからね!」
「幾ら積めば配下になる?」
「だーかーらー! オレは敵! カネの前に尋問が先! そもそも雇う前提なのどうにかなりませんかっ!?」

 レオンの笑い声が響く。アリシアとのやり取りのどこかが面白かったのだろう。

「悪いな、殺し屋くん。コイツァ、そーゆー女なんだ。利しか考えてねえ」
「利よりも不利の方が多いでしょーが! 敵なんですよ、刺客なんですよ、オレ!」
「そんな言葉で推し量れる女じゃねェんだよな、このお嬢様は」

 その笑顔はどこか“諦め”みたいな感情が見え隠れするのはどうしてだろうか。
 何を言いたいのか、レオンに問い質したくなる。聞かないが。

 アリシアは殺し屋を見つめる。
 どうにもガードが堅く、「なんっすか?」と睨み返してくる辺り、心の壁はまだまだ分厚い。

「分かった。ではこうしよう」
「ようやく分かりましたか……」
「辺境伯に直接、雇えないかお願いしよう」
「何にも分かってねえよ、このお嬢様!」

 バサバサと髪をかき乱す暗殺者の少年に、レオンが「マナーなってないぜ」と笑いながら注意するだけだ。
 少年は、笑ってないで助けてくれと懇願したような表情にみえる。小動物のようなその顔に、レオンの笑い声は大きくなるばかりだ。

「フォルカード様。何か言ってくださいよ!」
「ンー。今後の戦において、カルデシア辺境伯と話合いをしておけば後方の憂いを断てるなァ」
「ダメだよこの公子様! むしろ、乗り気だよ!」

 レオンは少し落ち込んだように「現実的な案なのにアリシアと同じ括りか」とボソボソ呟く。
 そんなに嫌ならば、普段の行いを正せば良い。

 レオンは「話、戻すけど」と一言断りを入れて、ようやくサラダを口に運ぶ。
 そこまでは良いが、フォークをアリシアに向けてくるのは行儀知らずだ。普段は食事のマナーが出来ているくせに、アリシアの前だとワザとこうするのだ。さっき、マナーがどうとか言っていたことを忘れたというのか。

「だが辺境伯の領まで馬車で片道一週間はかかるぜ。使者を飛ばすかい?」
「いや、三日だ。我が優秀な馬たちは疲れ知らずだ」
「往復約一週間……か。お嬢様は行くのかい?」
「もちろん」

 ふーむと腕を組みながら唸るレオン。

「一応、今回の戦はヴェアトリーが旗を立てるワケだが、一番やる気満々なお嬢様がいないのは兵達の士気にも関わるしなァ。カルデシア辺境伯ンとこは他の貴族連中と違って距離は遠いし、話しをつけるならば一番最後の候補だしなァ」

 それにと一言洩らしたレオンは、「一番賛同しなさそうだし」と呟く。
 アリシアとてカルデシア辺境伯という人物を知っている。
 その性格も、領土の環境もある程度は。
 簡単に話が通じる相手ではない。
 国家反逆者に与するなど、もっての外だ。

「だから、行くならば優先順位を後にするか、とっとと終わらせる方がいいぜ」
「そうか。ならば仕方が無い」

 殺し屋はホッと一息吐いた。
 しかし、アリシアには諦めという二文字はない。

「ならば一日。往復で二日で辿り着けばいい」

 アリシアの言葉に、レオンと殺し屋が「え?」と同時に呟いた。
 アリシア不在の期間が長いのがマズイのであれば、二日で帰れば良い。それだけのことだ。

「殺し屋。お前は馬車の操縦経験は?」
「ま、まあ、一通りは……って何考えてるんっすか?」



「三人交代で一日中馬車を走らせれば一日でつける」



 バンッと殺し屋は机を叩いた。

「殺し屋だっつってんだろ! オレに操縦させて崖にでも突っ込まれたらどうするつもりだ!」
「知らん」
「知らんじゃねえよ! 何も考えてねえのかよ!」

 人差し指を向けてくる暗殺者は、相当怒っているようだ。
 腹を立てている少年とは対照的に、やはり面白そうに笑っているレオン。

「俺はどっちでもいいぜ? どうせ崖に突っ込んだくらいじゃあ死にはしねェんだもん、コイツ」
「そんな令嬢いるわけ――」

 チラっとアリシアの顔を見てきた殺し屋は、「うっ」と言葉を詰まらせた。

「そんな令嬢いるわけない、か?」
「いました。すんません……」

 アリシアの言葉に、暗殺者は静かに座った。

「馬を呼んでくる。出立の準備を」
「辺境伯に渡すカネも忘れんなよー」

 レオンはひらひらと手を振り、暗殺者の少年は落胆したようにため息を吐いた。

「うわぁ、マジだよこのお嬢様」
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