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将軍、敗退

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――sideテュール――

 一本槍のテュール。
 それが、ワシの異名よ。

「皆の衆! 続け! 侵略者は根絶やしじゃ!」

 千年王国と呼ばれた誇りあるビルバニアにおいて、ワシの名声は衰えぬ。
 そして、一本槍と呼ばれただけにワシの突撃の前では魔物なんぞ、一撃よ。

「しかし、小娘め。あのような手を使うとは」

 唆したのか、何をしたかは知らぬが、レイア・マルテルは第三王子であるアルヴィースのスリーアラウンドに選ばれることで、騎士になった。
 卑怯千万。
 女はやはり、騎士のような堂々とした仕事には向いておらぬ。
 男を騙すような姑息な手を使い、楽をして思い通りになろうとする。
 騎士などとっとと諦め、家庭を築くのが女性の華というもの。
 男には戦場が。女には家庭が。それぞれの居場所であり、伝統である。

「将軍。考え事ですか?」
「いや、なに。あの女のことを少しな」
「女の身でありながら騎士を志願するとは。これも時代の変換というものですかね?」
「馬鹿げたことを言うでない! 伝統を重んじてこそ、我ら騎士団が。そして王国が存続するのだ!」
「さすがです。テュール将軍」

 王国が繁栄を続けて来たのは変わらぬ規律があったから。
 ワシが将軍として勝ち誇ってきたのもまた、ワシが一つの戦い方を常に続けて来たからである!
 一本槍の異名は、ワシが先陣を切り、道を切り拓いていくからこそ、ついた異名で――

「しょ、将軍! 奇襲です!」
「なんじゃと!? 魔物が奇襲など!」

 考えられん! 奴らは知能のない下等生物ではなかったのか!

「将軍! 我々の脇腹を抉るように、魔物達は襲撃してきました!」
「ぐ……ワシらの部隊の弱点をついてきたというわけか……!?」

 ワシが先陣を駆け、後続が続く。
 そうして伸びきった部隊のど真ん中――まさしく脇腹を突けば、そこが弱点になるというもの。
 まさか、そんな馬鹿な話が――!?

「わ、ワシが魔物達を討伐する! それまで応戦を続けよ!」
「ですが将軍! 我が軍は混乱の極みであり、敵も味方も区別のつかない白兵戦状態に……!」
「強引に押し切る! ワシは一本槍のテュールだからな!」

 それから――敗北寸前に至るまで時間はかからなかった。
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