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老騎士とレイア

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「レイア・マルテル……なぜお前がアルヴィース王子殿下の屋敷に……」
「あ、アルヴィース王子殿下……!?」

 王子殿下という言葉に、私は思わずアルの方へ振り向く。
 アル……アルヴィース様は、罰が悪そうに視線を逸らした。

「……テュール将軍。緊急事態とは」
「ハッ! 魔物の軍勢が押し寄せており、殿下に緊急の出動を要請したく、馳せ参じました」

 魔物の軍勢……。
 異形の存在、魔物。
 人間や家畜とは異なり、明確に人間や他の生物を襲う、人類の脅威。
 彼らは同じ種族同士で徒党を組むと聞くけれども、軍勢などという表現は聞いたことがない。

「僕に出動か。そんなことを言うためにワザワザここまで」
「国王になれないのであれば、せめてここで活躍していただきたいですな」
「それは王位継承権第三位である僕への嫌味かな?」
「伝統と規律ゆえの発言ですよ、殿下」

 伝統と規律……ということであれば、アルヴィース様の血縁は、他のご兄弟よりも“差”があるのだろう。
 私には……めまいがするほど、縁遠い話だった。
 規模が……規模が違い過ぎる……!

「えっと、アルヴィース様はこれから出陣されるのですか?」

 私はおずおずと問うと、アルヴィース様はにこりと笑った。

「ああそうだ。それとアルと呼んでくれないかな?」
「え、あ、はい! アル様! あの……少しよろしいでしょうか?」
「出来れば敬語もやめて貰いたいけど、なんだい?」
「その、出陣にわ、私も出させていただけないでしょうかッ!」

 瞬間、ドンっとテュール将軍は机を叩いてきた。

「女であるお前が、アルヴィース殿下に恐れ多い」
「わ、私はただ……」
「騎士でもない、ただの女であるお前がこんなところにいること事態が場違いじゃ。出陣? 笑わせるな! 騎士でもなんでもない女が騎士のお遊びなどするものではないわい!」

 叫ぶテュール将軍に、アル様は答えた。

「彼女は僕の妃だ」 

 その青天の霹靂のような宣言に、私はただただ固まっていた。
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