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闇魔法使いとの対峙

決戦

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「全てのカネは私のもの……! この私こそが、玉座に相応しい……!」

 ロジェが剣を振っているが、状況は良くならない。
 闇の魔法で蘇り続ける土人形たちだけではない。

「死ねっ!」

 マリオンが腕を振ると、連動するように巨大な土人形もまた、大剣を下ろす。
 圧倒的なパワーにソフィーも立っていることはできない。
 狙われているロジェに至っては、躱すだけで精一杯だ。

「ロジェ……!」
「君を死なせないよ、ソフィー……!」

 巨大な体躯を見上げれば、生物にとっての常識をソフィーに思い出させてくれる。

 理屈や理論なんて関係ない。戦いは、大きいものが制するのだ、と。

「儚く散れっ! 邪魔者どもっ!」

 巨大な土人形の手に剣がもう一振り現れた。
 両の手にある剣を交差させ、ソフィーとロジェを潰そうと見下ろしてくる。

「君は……死なせない……!」

 土人形が二振りの剣を振り下ろす!

「うおおおおっっっ!」

 対して、ロジェは剣を掲げて受け止めた。

「ロジェ! ダメよ! 逃げて!」
「俺は君に救われた。なら、俺が助けないとダメだろっ!」

 叫ぶ。
 その声は、獣の咆哮を凌駕し、地面が揺れる。
 負けない、という気迫を背中から感じた。

「生意気なッ! 潰れろッ!」
「負ける、かぁッ!」

 ぐらり。
 土人形の足元が不安定に揺れる。

「バカな! 押し負けてる……!?」

 焦るマリオン。
 ソフィーは思考を止めない。
 止めるわけにはいかない。
 この強敵を倒す、そのためにどうするか考えなければならない。

「そうだわ……わたしの錬金術と彼女の闇魔法に通ずると言うのなら」

 ぐらりと揺れている土人形の足元にソフィーが駆ける。

「ソフィー!? 一体、何を!?」

 土人形の足下にソフィーは杖を差し込んだ。
 魔力を注ぎ、錬金術で土の組成を組み替えていく。

「なっ……私の魔法が……! 崩れていくっ……!」

 土人形は形を崩壊させ、ずるずると大穴を作って行く。

「地面を崩壊させたの」

 凄まじい土埃をソフィーは腕で顔を隠しながら、崩壊していくその姿を眺めていた。
 身体の全てが崩壊し、そして、地面が大穴をあけて落ちていく。
 地面には、どれほど深いか分からない大きな穴だけが残っていた。一度落ちれば、二度と帰ってこれぬ、光の届かないほど深い穴が。

「あなたが闇の魔法で、土に命を与えて形を作る。その着想から、わたしは土の結合を破壊して、穴を作る」
「どういう……ことなの……!」
「あなたの力の逆を実行したの」

 マリオンは組み替えを行う闇魔法を使える。
 ならば、その逆である破壊をソフィーが行ったのだ。

「あなたの負け……! マリオン、降伏して」

 マリオンは、しかし、首を横に振った。

「嫌よ……! 私はただの平民から、ここまでカネを手に入れたの……! 誰が失うもんですか……!」
「そのお金って、ジュリアン王子から奪ったものでしょ!?」
「そうよ! あの使えないクズから、盗んだお金で、私はカネ持ちになれた!」
「あなたは――」

 ソフィーが続けようとした時、ロジェはソフィーを手で制してきた。
 もう、話すな、と言いたいのだろう。

「君は、欲深い女だな」
「欲深いからなに!? 何も持たないから、手に入れるために、どれだけ努力したか分かる!?」
「俺には分からない。君のように、何もかもを踏みにじるような努力は」

 ロジェが一歩踏み出した時だった。

「それ以上近づけば、街を闇魔法で破壊するわ」

 マリオンは手を掲げると、空に暗雲が立ちこめた。

「何をする気なんだ……!?」
「ほら。私が闇の魔法で魔物を送り込んだでしょう? アレを爆発させるって言っているの」
「馬鹿な……そんなこと出来るハズ……」

 ソフィーはロジェの腕を掴んだ。

「出来る……わ。彼女なら、それほどの闇を扱えるもの……」

 はははと笑うマリオンは、先ほどまで降伏寸前だったのも忘れて、高笑いを始めた。

「そうだわ! こうすれば良かったのよ! これで私のカネは絶対に安全! そして、我が身の安全も確保出来た! 私の、勝ちだ! ははは!」

 意気揚々と笑う彼女の目の前に――一つの人影が。
 それはソフィーやロジェも……そして、マリオンすら良く知る人物。

「マリオン!」
「なっ……! ジュリアン! どうしてこの場に――!?」

 マリオンは、突如として現れたジュリアンに羽交い締めにされてしまった。
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