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闇魔法使いとの対峙

ロジェの想い

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 馬車の駅で、ロジェは馬の手綱を握る。
 今は緊急事態だ。
 馬を借りなければ、街への被害は止められない。

「乗って、ソフィー」

 ロジェに手を差し出され、ソフィーは彼の後ろに乗馬した。
 馬は駆け始め、みるみるうちに街から離れていく。

「みんな、大丈夫かしら……」
「大丈夫。君のポーションもあるし、彼らはとても強い」
「え、ええ」
「それよりも、今は黒幕を倒すことだけを考えよう」

 舗装されていない路をロジェは馬を走らせる。
 ソフィーはしがみつくように、彼の腰に手を回す。
 そうしなければ落ちてしまうからだ。

「不安かい?」
「ええ、とても」

 距離が近い。
 だから、彼には伝わってしまうのだろうか。
 ソフィーが抱いている、街への不安。
 そして、敵の闇魔法の使い手が、タダ者じゃないことに。
 その上……もし、マリオンであれば。
 彼女は、ソフィーを貶めた因縁の相手でもある。

「……俺はね。剣で国とか、家族とか、色んなものを守るために強くなりたかった」
「突然、なに?」
「いや。折角だから、君の緊張をほぐすために身の上話でもって思って」
「今、することかしら?」
「少なくとも、今の君には必要だと思う。緊張ばかりしてないで、聞き流してくれ」

 確かに、今のソフィーには、この移動時間、緊張を紛らわす何かが欲しかったりする。
 黒幕のいる場所にたどり着くまでに、ずっと緊張していると、疲れが出てくる。

「俺が騎士になったのも、誰かを守れる職業だったからさ。努力の甲斐あって、近衛まで登り詰めたけど、もうその時には守りたいものなんてなかった」

 ロジェは馬を走らせながら語る。

「国のために戦っていたけれど、その国も、俺にとって守る対象ではなくなった……ジュリアン王子に殺されかけたからね」

 彼は変わらず淡々と続けた。

「でも、今の俺には守りたいものがある」

 そして、ソフィーに振り向いて呟く。

「ソフィー。君だ」

 まるでこれは。
 これは――

「愛の告白みたいね」
「告白みたいなものさ。俺は君に助けられた。だからこそ――」
「なら、わたしにそれを受け取るだけのことは、やってね」
「やっぱり手厳しい」

 まだ振り向かない。
 今はたぶん、錬金術の仕事に恋をしているのだ。
 何よりも勝る興味。
 何よりも知りたいという好奇心。
 それが落ち着いたら、きっとソフィーも何かが変わるのだろうか。
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